黒焔公爵と春の姫〜役立たず聖女の伯爵令嬢が最恐将軍に嫁いだら〜

玉響

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118.アルヴァの想い

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「彼女と私は、エルヴァリグルとスネーストルムも関係ない、どこか遠い国へと行って、二人で暮らす約束をしたのです。私は、その準備の為にスネーストルムへと戻ったのです。………そして準備を整え、彼女の元へと戻った私を待っていたのは………彼女が………この世を去ったという知らせでした」

アルヴァはテーブルに置いた両手をぎゅっと握り締めた。
その表情は苦しそうで、私は思わず顔を背けてしまう。

「………流行病だったそうです。村の者たちは私達の関係を知っていましたから、彼女の側を離れた私を責めましたよ。………でも、一番私を責めたのは、私自身でした」
「アルヴァ………」
「………私がスネーストルムでなければ、彼女と共にリーテの村で暮らすことが出来ていれば、或いは彼女を攫ってでもスネーストルムに連れていけば彼女は死なずに、今でも私とともにいられたかもしれない。………結局、スネーストルムである事に縛られ続けた私は、大切な者を失う羽目になって初めて、その事に気がついたのです」

アルヴァは、嘲笑とも、諦めともつかないようなうっすらとした笑みを浮かべた。

「そのドレスは、貧しい村娘だった彼女への贈り物でした。何着か用意したうちの一着で、これを着た彼女とダンスをするのが夢でした」
「………そんな大切なものを………ごめんなさい」
「いえ、それは私がお渡ししたものです。シャトレーヌ様になら、着ていただきたいと思ったのです」

アルヴァは更に続ける。

「私は、物心がついた頃から、エルヴァリグルの民は敵だと繰り返し教えられてきました。でも、彼女を愛して気がついたのです。スネーストルムとエルヴァリグルの争いは、民族同士の対立であって、個人単位では関係のない事だと………。彼女を失ってからも、私はずっと、心のどこかでこの争い自体に疑問を持ち続けていたのです」

私ははっとした。
スネーストルムにも、私がアデルバート様から話を聞いたときと同じように、この争いに疑問を持っている人がいたということに驚いたからだ。
私は余所者で、アデルバート様に嫁がなければこの争いのこと自体も知らないままだったから、疑問を持った。
でも、ずっと争いの渦中にいた人でも、同じように、疑問を持つのね………。
私は、まっすぐにアルヴァを見つめた。
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