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136.禁忌の術

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「う………くっ………」

呻き声と共に雪煙の中に、ゆらりと黒い影が浮かび上がるのが見えて、私は安堵の溜息を漏らした。
しかし。
姿を表したアデルバート様をの口元からは、血が滴り落ち、足元もふらついていた。
肉体が強化されたラーシュの攻撃をまともに食らったアデルバート様の傷は、思ったよりも深そうだ。

「アデルバート様っ………」

アデルバート様は、一瞬私の方に視線を移す。

「………大丈夫だ。お前の加護魔法がきちんと私を守ってくれている。今の一撃を、加護なしで受けていたら死んでいただろうな………」

そう言って、アデルバート様はうっすらと笑みを浮かべた。
………私にとっては、全く笑えない状況だ。

「………笑う余裕があれば、心配ないですよ」

ぼそっとドミニクが呟く。

「ですが………このままでは、黒焔公爵に勝ち目はないでしょう」
「そんな………」

その言葉に、私は絶望に胸が締め付けられる。

「いや………一概にもそうは言えないだろう」

アルヴァの言葉をドミニクが否定する。

「何故です?ただでさえ互角の戦いだったのに、半獣化されたら、体力も魔力も桁違いに………」
「………半獣化は、その代償に命を削ると言われている。消費する魔力が強ければ強いほど、その消耗は激しいはずだ」
「それは………確かに………」

アルヴァは不安げに視線を動かす。

「ですが、それが事実なのかを知る者がいないのも事実です。………禁忌の術故に、その影響は計り知れない………」

アルヴァの見解は正しいと思う。半獣化についての知識はあっても、それを実際に見た人は誰もいない、伝説レベルの魔法だからだ。
実際に命を削って力を発揮するというのが本当なのかすらも分からない。

そんなラーシュに、アデルバート様は上位火炎魔法を使いながら立ち向かっていくけれど、やはり圧倒的にアデルバート様は不利だった。さっきまでは鏡面のように光を反射していた漆黒の鎧も傷だらけになり、幾度となく吐血している。
………考えたくないけれど、おそらく内蔵を損傷しているのだと思う。
圧倒的な力を前にしては、加護魔法も、アミュレットも子供騙し程度のものだろう。
………それでも、アデルバート様の御身を守って………!
私はそう願わずにはいられなかった。
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