黒焔公爵と春の姫〜役立たず聖女の伯爵令嬢が最恐将軍に嫁いだら〜

玉響

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149.帰還

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それから、私達は野営地へと戻りアルヴァと今後について話し合った。
アデルバート様は、廃墟となったリーテの村に、スネーストルムの残党を移住させることを提案した。

「………お言葉は有り難いですが………やはり………」

アルヴァは躊躇った。
エルヴァリグルとスノーデンの諍いによって生まれた溝は大きい。公爵領の民も、そしてスネーストルムの者たちも、お互いに歩み寄るのにはまだ暫く時間がかかるだろうとの見解からのようだ。

「だが、歩み寄る気持ちがなければ、また歴史は繰り返す」

最終的にアデルバート様は半ば強引に、リーテの村をスネーストルム達に開放することに決めたのだった。
アルヴァは困った顔をしながらも、どこか嬉しそうだった。
そう言えば、リーテの村はアルヴァの婚約者の村だったわね……。
一時は凄惨な戦場と化した村が、子供たちの笑い声が響く平和な村に変わると信じ、私達はリーテの村をアルヴァに託した。

ラーシュの亡骸は野営地まで連れて帰り、リーテの村の近くに、丁重に埋葬した。
ラーシュの死顔は、信じられないくらいに穏やかで、優しいものだった。
………そう遠くない将来、私達の元に生まれてくる彼を想い、アデルバート様と私はイースボル城へと帰還したのだった。

「よくぞご無事で」
「お帰りなさいませ!」

たった数日しか留守にしていなかったはずなのに、エブリンやオーキッドの顔がやけに懐かしく感じる。
でも、数日ぶりのイースボル城の中は温かな春の陽射しに包まれて、どこもかしこも光に溢れていた。
ああ……これがこの土地の本来の姿……。
私がアデルバート様に嫁いできて数カ月。その間はずっと雪と氷に閉ざされた長い冬だった。
でも、それはもうお終い。
勿論長くて厳しい冬はまたやって来るけれど、季節は巡る。
そんな当たり前の事が、とても嬉しく感じた。

「………どうした?」

アデルバート様が城の中を見回す私を、怪訝そうに覗き込んできた。

イースボル城我が家に帰ってきたのだと実感しているのですわ」

私が答えると、アデルバート様は目を瞬かせ、微笑んだ。

「そうだな。……数日のうちに長く厳しい冬の終わりと、温かく優しい春の訪れを………エルヴァリグルとスノーデンの新しい歴史の始まりを、スモーガスボードで祝うとするか」
「それは名案ですわ。アルヴァ達も呼んで、皆で盛大に祝いましょう」

私達は、そう言って笑いあった。
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