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本編(アルフォンシーナ視点)
256.大きな溝
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しかしベルナルドはそんなアルフォンシーナの様子には気がついていない様子で、彼女が抵抗しないのを良いことに、侍女が置いていった薬箱の中身を取り出す。
そしてアルフォンシーナの右手を、まるで薄い硝子細工でも扱うかのように、大切そうに自分の膝の上へと載せ、手際よく手当てをしてくれた。
あまりの手際の良さに、アルフォンシーナは必死に涙を堪えながらも、感嘆せざるを得なかった。
その様子を見て、以前大怪我を負い、倒れた事が思い起こされる。
彼の今までの身の上を考慮すれば、いくら優れた身体能力を持ち、剣の腕に恵まれているとは言っても、怪我を負うことは日常茶飯事だったのだろう。
だからこそ、手慣れている事も納得出来るのだが、それは彼自身がアルフォンシーナを手当てする理由とは結びつかなかった。
「………どうして、このような事をなさるのですか………?」
ベルナルドが包帯を巻き終えたのを見計らって、アルフォンシーナは小さな声で尋ねた。
すると、ベルナルドはぴくりと肩を揺らした。
「それはあなたが私の妻だからだろう」
さも当然、と言わんばかりに、ベルナルドは即答した。
それは、アルフォンシーナが予想した通りの答えだった。
「………ですが、その書類を国王陛下がお認めになられれば、わたくし達は他人になります」
「…………そうだな」
「では、他人になれば、わたくしが怪我をしていたとしても、手当てはしてくださらないのですか?」
感情的になってはいけないと思うのに、アルフォンシーナの口からは次々と、悲しみと怒りを秘めた言葉が溢れ出てきた。
すると、ベルナルドは少し困惑したように眉根を寄せて一旦唇を引き結んだ。
それから迷うように視線を泳がせ、目を伏せる。
「………そうだな。離婚してしまえば、もう一切の関わりはなくなる。だからこのようにあなたに触れる事もなくなるな」
その返答を聞いた瞬間、アルフォンシーナの中で、何かが音を立てて崩れた。
(………やはり、ベルナルド様にとってのわたくしは、取るに足らない存在なのね………)
絶望に打ちひしがれたアルフォンシーナは、慌てて右手を引っ込めると、その手を左手で覆い隠した。
「………ありがとう、ございました。………離婚同意書にサインをしたのですから、もう御用はお済みでしょう?………でしたら、お引き取り頂けますか………?」
このような言い方は、夫であるベルナルドに失礼だと言うことは重々分かっていた。
だが、アルフォンシーナは感情を隠すことに必死で、彼の顔を見て話をすることすらも出来ず、俯いたまま冷たくそう告げたのだった。
そしてアルフォンシーナの右手を、まるで薄い硝子細工でも扱うかのように、大切そうに自分の膝の上へと載せ、手際よく手当てをしてくれた。
あまりの手際の良さに、アルフォンシーナは必死に涙を堪えながらも、感嘆せざるを得なかった。
その様子を見て、以前大怪我を負い、倒れた事が思い起こされる。
彼の今までの身の上を考慮すれば、いくら優れた身体能力を持ち、剣の腕に恵まれているとは言っても、怪我を負うことは日常茶飯事だったのだろう。
だからこそ、手慣れている事も納得出来るのだが、それは彼自身がアルフォンシーナを手当てする理由とは結びつかなかった。
「………どうして、このような事をなさるのですか………?」
ベルナルドが包帯を巻き終えたのを見計らって、アルフォンシーナは小さな声で尋ねた。
すると、ベルナルドはぴくりと肩を揺らした。
「それはあなたが私の妻だからだろう」
さも当然、と言わんばかりに、ベルナルドは即答した。
それは、アルフォンシーナが予想した通りの答えだった。
「………ですが、その書類を国王陛下がお認めになられれば、わたくし達は他人になります」
「…………そうだな」
「では、他人になれば、わたくしが怪我をしていたとしても、手当てはしてくださらないのですか?」
感情的になってはいけないと思うのに、アルフォンシーナの口からは次々と、悲しみと怒りを秘めた言葉が溢れ出てきた。
すると、ベルナルドは少し困惑したように眉根を寄せて一旦唇を引き結んだ。
それから迷うように視線を泳がせ、目を伏せる。
「………そうだな。離婚してしまえば、もう一切の関わりはなくなる。だからこのようにあなたに触れる事もなくなるな」
その返答を聞いた瞬間、アルフォンシーナの中で、何かが音を立てて崩れた。
(………やはり、ベルナルド様にとってのわたくしは、取るに足らない存在なのね………)
絶望に打ちひしがれたアルフォンシーナは、慌てて右手を引っ込めると、その手を左手で覆い隠した。
「………ありがとう、ございました。………離婚同意書にサインをしたのですから、もう御用はお済みでしょう?………でしたら、お引き取り頂けますか………?」
このような言い方は、夫であるベルナルドに失礼だと言うことは重々分かっていた。
だが、アルフォンシーナは感情を隠すことに必死で、彼の顔を見て話をすることすらも出来ず、俯いたまま冷たくそう告げたのだった。
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