302 / 390
本編(アルフォンシーナ視点)
311.パルヴィス伯爵の怒り
しおりを挟む
またしても、という一言をベルナルドが敢えて加えたのは、最初にアルフォンシーナへの求婚をした時に断られた事を示したかったからだろう。
だが、あの時は彼が国王からの密命を担っていることは公表されていなかったため、パルヴィス伯爵が噂を信じていても仕方がなかった。
「噂話だけでも、社交界では簡単に人を傷つけることが出来よう。侯爵に蔑ろにされたことで、社交界でも笑い者にされて………。娘が、どれほど傷付くかということは、考慮しなかったのか?」
滲み出る怒りを押し殺し、パルヴィス伯爵は冷静にベルナルドへと問い詰めていく。
すると初めてベルナルドが、顔を歪めた。
「そのことについては、嫌になるほど悩みましたよ。私の傲慢さと欲望で、彼女の幸せを奪うことの罪悪感に苛まれながら、どうすれば彼女を守れるかと…………」
「だったら、何故!」
苦々しい表情で己の感情を吐露するベルナルドの言葉を遮り、パルヴィス伯爵が叫んだ。
アルフォンシーナが父が大声を上げる姿を見るのは、初めてのことだった。
「………だからこそ、自分の立場を利用して無理矢理アルフォンシーナを妻にした王命による結婚を解消したのです」
申し訳なさそうに目を伏せるベルナルドは、パルヴィスの怒声に怯んでいる様子はなかった。
「そんな御託を並べたところで、侯爵が娘にした仕打ちが消えることはないし、娘の名誉も地に落ちたままだろう!」
早口でそう捲し立てると、パルヴィス伯爵はベルナルドを思い切り睨みつけた。
伯爵の隣で、伯爵夫人が心配そうにちらりと夫の顔色を窺ったようだったが、夫人が発言することはなかった。
「………その通りです。何もかも私の責任ですから、私の全てで、彼女に………我が妻アルフォンシーナに償っていこうと思います」
小さく息を吸い込んだベルナルドは、意を決したような表情を浮かべていた。
「………責任だの、償いだのという重い言葉を、容易く使うのだな」
ベルナルドの言葉尻を取るかのようなパルヴィス伯爵に、ベルナルドはゆっくりと首を振った。
「容易く、ではありません。彼女だから………アルフォンシーナだからこそです。…………お伝えした通り、私にとってのアルフォンシーナは何にも代え難い存在ですから」
静かな、けれども力強い声でベルナルドはそう告げた。
だが、あの時は彼が国王からの密命を担っていることは公表されていなかったため、パルヴィス伯爵が噂を信じていても仕方がなかった。
「噂話だけでも、社交界では簡単に人を傷つけることが出来よう。侯爵に蔑ろにされたことで、社交界でも笑い者にされて………。娘が、どれほど傷付くかということは、考慮しなかったのか?」
滲み出る怒りを押し殺し、パルヴィス伯爵は冷静にベルナルドへと問い詰めていく。
すると初めてベルナルドが、顔を歪めた。
「そのことについては、嫌になるほど悩みましたよ。私の傲慢さと欲望で、彼女の幸せを奪うことの罪悪感に苛まれながら、どうすれば彼女を守れるかと…………」
「だったら、何故!」
苦々しい表情で己の感情を吐露するベルナルドの言葉を遮り、パルヴィス伯爵が叫んだ。
アルフォンシーナが父が大声を上げる姿を見るのは、初めてのことだった。
「………だからこそ、自分の立場を利用して無理矢理アルフォンシーナを妻にした王命による結婚を解消したのです」
申し訳なさそうに目を伏せるベルナルドは、パルヴィスの怒声に怯んでいる様子はなかった。
「そんな御託を並べたところで、侯爵が娘にした仕打ちが消えることはないし、娘の名誉も地に落ちたままだろう!」
早口でそう捲し立てると、パルヴィス伯爵はベルナルドを思い切り睨みつけた。
伯爵の隣で、伯爵夫人が心配そうにちらりと夫の顔色を窺ったようだったが、夫人が発言することはなかった。
「………その通りです。何もかも私の責任ですから、私の全てで、彼女に………我が妻アルフォンシーナに償っていこうと思います」
小さく息を吸い込んだベルナルドは、意を決したような表情を浮かべていた。
「………責任だの、償いだのという重い言葉を、容易く使うのだな」
ベルナルドの言葉尻を取るかのようなパルヴィス伯爵に、ベルナルドはゆっくりと首を振った。
「容易く、ではありません。彼女だから………アルフォンシーナだからこそです。…………お伝えした通り、私にとってのアルフォンシーナは何にも代え難い存在ですから」
静かな、けれども力強い声でベルナルドはそう告げた。
131
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」
魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。
鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。
(な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?)
実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。
レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。
「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」
冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。
一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。
「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」
これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください
迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。
アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。
断るに断れない状況での婚姻の申し込み。
仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。
優しい人。
貞節と名高い人。
一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。
細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。
私も愛しております。
そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。
「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」
そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。
優しかったアナタは幻ですか?
どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
白い結婚を終えて自由に生きてまいります
なか
恋愛
––アロルド、私は貴方が結婚初日に告げた言葉を今でも覚えている。
忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。
「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」
「白い結婚ですか?」
「実は俺には……他に愛する女性がいる」
それは「公爵家の令嬢との問題」を理由に、三年間だけの白い結婚を強いるもの。
私の意思を無視して三家が取り決めたものであったが、私は冷静に合意を決めた
――それは自由を得るため、そして『私自身の秘密を隠すため』の計算でもあった。
ところが、三年の終わりが近づいたとき、アロルドは突然告白する。「この三年間で君しか見えなくなった。白い結婚の約束をなかったことにしてくれ」と。
「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」
アロルド、貴方は何を言い出すの?
なにを言っているか、分かっているの?
「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」
私の答えは決まっていた。
受け入れられるはずがない。
自由のため、私の秘密を守るため、貴方の戯言に付き合う気はなかった。
◇◇◇
設定はゆるめです。
とても強い主人公が自由に暮らすお話となります。
もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる