勇者のおまけも大変だ!【改稿版】

見崎天音

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第一章 召喚編

第42話 万能タブレットとお茶会①

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 創造魔法を駆使して暗記術を編み出しました。

 まあ、早い話が転写の応用です。

 頭の中にモニターをイメージしてそこに図鑑を1ページごとに転写する。

 そして調合の仕方や効能、匂い、生息地、病状も全部紐付けし、薬草の名前からも生息地からも薬草の種類を検索できるようにイメージ。

 そのうちに頭で考えるだけで検索結果が目の前に映し出されるようになった。
 まるで空中に浮いているダブレットの画面を見ているようだ。

 あれから二週間、毎日のように王宮医師団に通い調合後の薬を見てどの薬草が使用されているかを知りたいと思いながら手をかざすと分析、解析結果が表示されるまでに精度が上がった。

 ユニークスキルの『ザ・鑑定モドキ』の出来上がりだ。

 この分析と解析は薬だけではなくいろんなことに応用できた。

 例えばお料理だ。

 お肉にかかっているソースが美味しくて、材料は何かなと思っていたら無意識に分析と解析をしていた。

 材料の《トマト、コンソメスープ、塩、ハーブ、ペッパー、ラード、》そしてそれぞれの配分が目の前の画面に映し出されるのだ。

 これってある意味『鑑定』よりすごくない?

 だって材料とともに配合の割合までわかるなんて今なら一流シェフになれるかも。

 なあんてね。

 そんなこんなでスキルが『薬師のたまご』から『薬師の弟子』に昇格。

 どうしてわかったかというと、頭の中でなんとなく薬師のスキルあがったかな~と考えていたら、何故だかエアタブレット画面が目の前に現れて教えてくれたのだ。

 それから私は万能タブレットと呼んでいる。
 もちろん見えるのは私だけ。

 時々前を凝視して難しい顔をしたり、笑ったりしているので周りからは怪訝な顔をされる。

 やばい、頭のおかしい人だと思われてしまう。
 気をつけよう。

 そんな日々を過ごしていると、リタさんが一通のお茶会の招待状を持ってきた。

 差出人は第一王子アランフィード様の婚約者、オリビア様だった。

 オリビア様は王子妃教育のためにこの王宮の一室に1ヶ月前から泊まり込んでいる。

 祝福の儀にもアランフィード様と一緒に来てくれていた。

 もちろん行きますよ。お茶会!

 同世代の女の子からのお誘いにテンションがだだ上がりだ。
 他にも歳の近いご令嬢が参加するみたい。
 さっそく、招待状のお返事をしたためる。

 そういえば、お茶会や夜会の招待が増えているって前に聞いたことがあるけど、こうして招待状を受け取るのは初めてだ。


 ================



 待ちに待ったお茶会の日。

 私はペパーミントグリーンのアフタヌーンドレスを身にまとい、髪はハーフアップにしてもらった。

 着替えの最中にザ・侍女さんチームの3人にくれぐれも前を凝視してニマニマ笑う奇行をご令嬢達の前で晒さないようにとくぎを差されました。

 周りから見ると不気味らしい。
 気をつけます。

 そして緑の手で育てたピンクの薔薇の花束を手土産にお茶会の会場に到着。

 ここは王宮のオリビア様のお部屋。

 会場に着くとまず招待のお礼を言って手土産の薔薇の花束をオリビア様に渡した。

 護衛として付き添って来てくれたビンセントさんは他のご令嬢の護衛の方々と隣の部屋で待機となり、侍女のリタさんは他の侍女さん達と部屋の壁際の椅子に控えている。

 オリビア様はピンクのプリンセスラインのドレスで蜂蜜色の髪をアップにしていた。
 その姿はもう絵に描いたようなお姫様だ。

 私の手渡した薔薇を見て嬉しそうに笑顔になる。
 とっても可愛い。

 緑の手で育てただけあってその薔薇はキラキラと光って見え香りも他の薔薇とは格段に違う。

「まあ、とても綺麗な薔薇だわ。それにとっても良い香り。新しい品種でしょうか?」とオリビア様。

「いえ、新しい品種ではありません。私の『緑の手』で育てた薔薇です。オリビア様をイメージしてお茶会に間に合うようにと育てました」と私は笑顔で答えた。

「えっ、でもお茶会のご招待状をお渡ししたのは3日前ですよね?」オリビア様が大きなブルーの瞳をまん丸にして言う。

「はい。ご招待を受けてから種を蒔き、次の日には蕾になり、今日の朝、開花しました」と私が言うとその場にいたご令嬢達が一様に驚いた顔をした。

 えっ、何?『緑の手』って植物の成長促進に特化したスキルだからだそんなに驚く事じゃないよね?

「わがプラナス家の庭師も『緑の手』のスキルを持っていますが、さすがに3日で薔薇は開花しませんわ。さすが、女神様と聖霊様の愛し子様ですね」とひとしきり感心しながら薔薇を活けるように侍女さんに渡した。

 そうなんだ。普通の『緑の手』では3日で薔薇は育たないんだ。

 そんな事を考えているとオリビア様が他のご令嬢達を順番に紹介してくれた。

 ご令嬢の前に立つとなぜか万能タブレットも作動しそのご令嬢の顔の横に名前、年齢、家族構成、領地の場所に特産物などが映し出される。

 おーすごい!

 思わずニンマリしそうになるが、ザ・侍女さんチームのお小言が怖いので自然な笑顔を作る事に専念した。

 貴族名鑑で覚えた内容だが、忘れかけていたので助かった。

 私もみんな知っているようだったが改めて自己紹介しましたよ 
 アヤカですと。

 祝福の儀を終えて知り合った方の中には私を『レミリン』と呼ぶ人もいるのでこうして知りあいから紹介していただいた方々には『アヤカ』と名乗ることにしているのだ。

 広々した30畳ほどの部屋に丸テーブルがセッティングされ、壁の長テーブルには色とりどりのケーキと焼き菓子が並べられていた。

 ビュッフェスタイルのようだ。

 私はオリビア様に促されて右隣に座った。

 メンバーは全部で8人。一番身分の高いのは、侯爵家のクレア様。ちょっとぽっちゃりぎみの優しい感じのご令嬢。

 ちょうどオリビア様の左隣。

 そして20歳から18歳の同年代のご令嬢達の中でどう見ても明らかに歳が下と思われる令嬢がいた。私の右隣のヘンウット伯爵家のご令嬢でリリアン様。

 なんでも出席するはずだった姉のグレース様の代理で来たという15歳の少女だ。
 お姉様のグレース様はオリビア様の親友らしく、欠席されたことをとても残念そうにしていた。

 こうして和やかにお茶会が始まった。

 まず、みんなで部屋の壁沿いに並んだ焼き菓子やケーキを物色。
 給仕の侍女さんにお皿に乗せてもらい席につく。

 私は3種類のケーキをチョイス。
 どのケーキも二口サイズ位なので食べやすい。

 よーし、全種類制覇だ。
 ケーキを食べながらみんなでお喋りをする。
 ケーキも美味しいし、ご令嬢達は皆さん可愛らしい。

 私の隣に座っているリリアン様は15歳の少女らしく好奇心旺盛で、女神様と聖霊様の加護について聞きたがった。
 どんな効果があるのか聞かれたけど正直私もわからない。
 苦笑いをしながら紅茶を飲む。
 あ、おいしい。

 すると、例のごとく万能タブレットが出現。

 生産地:スペンサー子爵領

 品種 :紅茶葉

 商品名:エマーサー茶

 スペンサー子爵?そう言えばこのお茶会にいたような。

 ぐるっとご令嬢達を見回すと、件の令嬢のところでタブレットが反応した。

 画面に『!』マークが表示され頭の中で『ピンポン』と軽快な音が鳴った。

 ちょうど私の正面に座っているアリス様だ。
 私はアリス様に笑顔を向けて話しかけた。

「この紅茶、とても美味しいです。アリス様。スペンサー子爵領の名産のエマーサー茶ですね」

 すると、アリス様が驚いた顔をしてこちらを見た。

「アヤカ様にそう言っていただけてとても嬉しいです。その茶葉は父が母の心を射止めるために品種改良しヒットしたものなんです。名前も母の名前エマからとったんです」

 おーそうでしたか。
 愛が詰まっているんですね。

 そしてひとしきりこの話題で盛り上がった。
 政略結婚が多い貴族社会で恋愛結婚は珍しいようだ。

「そう言えば、オリビア様も恋愛結婚ですね。私も両親やオリビア様みたいに恋愛結婚したいと思っているんです」とアリス様が言った。

「オリビア様とアランフィード様って恋愛結婚なんですか?」と私。

 王子様だから政略結婚かと思った。

「ま、まだ結婚してません。婚約者です」と顔を真っ赤にして答えるオリビア様。

 なんて可愛いのでしょう。

「アランフィード様はオリビア様の初恋の方と聞いております。初恋とはたいてい実らないと私の侍女達が言っていましたからこのご結婚はすごいことです」

そう鼻息も荒く言ったのはアリス様の隣のクロスビー男爵家のジュリア様。

 なんと!
 初恋はたいてい実らないだと? 聞き捨てならないフレーズが耳に届いたぞ。

 と言うことは、私の初恋はどうなるのだ?
 こうなったら初恋成就推進運動勃発だ。
 私は隣に座るオリビア様の右手を握りしめ言った。

「オリビア様、ここはビシッと初恋成就の先駆者となって下さいね」私の勢いに半ば押されるようにオリビア様は頷いた。

 オリビア様、あなたを初恋成就推進委員会の委員長に任命です。

 本人の許可なく勝手に任命ですが、なにか?

「アヤカ様、このチュールのケーキ、お食べになりました?甘さの中にほんのり酸っぱさがあってとてもおいしですよ」

 初恋成就推進運動勃発のさなか、のほほんとしたクレア様の一言で視線を向ける。
 あら、本当に美味しそう。
 チュールと言うのはどうやらチェリーのことみたいだ。
 とても食レポがお上手なので同じ物が欲しくなる。

「美味しそうですね。じゃあそれをもらって来ます」
 私はそう言って席を立った。

 ケーキのテーブルに行くと、オルセン子爵家のマデリン様がケーキを見ながら悩んでいるようだった。

「マデリン様、どれも美味しそうで悩みますね」

 私はそう言いながら笑顔で近づいた。

「アヤカ様。そうなんです、さっきからどれにしようか迷ってしまって」

 そこで、私の食べたケーキの感想とマデリン様の食べたケーキの感想を言い合い、それを参考にケーキをチョイスしました。

 無事にケーキを選び席につくと新しく紅茶を入れてくれたようでカップとソーサーも違う物になっていた。

 私はお茶を飲もうとカップに触れた。
 そのとたん、指先にピリッと静電気のような感触が走った。

 えっ、何?

 陶器から静電気なんて変だよね?

 すると、万能タブレットが出現し、『女神の加護発動』という文字が出ていた。
 そして頭の中ではウイーン、ウイーンと警告音のような音が鳴り響いた。
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