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第一部
第一章 とりあえず責任者よ出てこい!!!⑧『馬車の中』
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八
(……何か、すごいこっち見てくる気がするんだけど……。)
馬車が走り出してしばらくしてから、向かい側に座った女性の視線が、気になってしょうがない。ちらちらとこちらを窺うように、何度も視線を向けられるのだが、そんな視線を向けられている真意が分からない。
口を開いて何か言うのかと思えば、結局何も言わずに口を閉じてしまう。
ひどく居心地の悪い思いを沢崎直は感じていた。
あまりにも居心地が悪いことに耐えかね、こちらから口を開くことにする。
「……あのー、どうかしましたか?」
「い、いえ。あの。」
返事をする声が裏返っていた。
沢崎直が続きを待ってじっと見つめると、女性はさっと視線を逸らした。
(……どういうこと?)
今までの沢崎直としての二十五年の人生で、相手にこんな反応をされたことはない。そのため、どう対処していいか全然全く理解できない。
とりあえず目の前の女性をじっくりと観察する。
視線を逸らされてはいるが、嫌悪感をこちらに持っている感じはしない、多分。話が続きはしないが、話をしたくないわけではなさそう。
(そういえば、私、今男だし、この子はご令嬢みたいだし……。男性慣れしていないのかな?)
他人事のように俯瞰しながら考察する。
(……でも、さっきは普通に話してた気がするし、護衛役の人も男だったよね?ご令嬢と言っても、深窓のというよりは、もっと活発な感じもするし……。)
「……コホン。」
気を取り直すように女性は品よく咳払いをした。
考察を一時停止して、女性の言葉を待つ。
女性は息を整えると、ようやく口を開いた。
「わ、わたくしはハンプシャー伯爵家の次女クリスティーンと申します。先程は助けていただいてありがとうございました。」
「いえいえ。そんな大層なことはしていません。」
本当に大層なことはしていない。ただ気を失っていた様子の女性に声を掛けただけだ。むしろ、馬車にまで乗せてもらってる自分の方が現在助けられている状況だと、沢崎直は思った。
女性はふわりと微笑むと控えめにこちらを見つめながら続けた。
「そんな。ご謙遜なさらないでくださいな。あっ、あのー。お名前を聴かせていただいても?」
「あっ、はい。私は……。」
そこで名乗ろうとして、沢崎直は固まった。
(えっ?これって、どういう状況?)
スムーズに沢崎直という名を名乗ろうとした自分にブレーキをかけて、脳内をフルスピードで回転させる。
沢崎直というのは、ここではないどこかで自分が女性として二十五年使ってきた馴染みのある名前ではあるが、このイケメンがイケボで名乗っていい名前なのだろうか?
(……なんか違う気がする。)
そう脳内で結論付けて、沢崎直は慎重に口を開くことした。
「……えっと、ですね。……名前、なのですが……。分からないと言いますか……。そのー、多分ですが……。先程のえっと、モンスターに襲われたようで、その、そこからの事がよく分からないというか、……曖昧というか。ははは。すみません。」
最後は笑ってごまかして謝ってみる。
本当はくまさんに襲われる前からよく分からないことになっているのだが、その辺は適当だ。しどろもどろの説明であることは重々承知だが、これ以上何て説明すればいいか分からない。
怪しまれたかなぁと思って女性の顔色を窺うと、やはり今回も想像していた反応とは違っていた。
女性はしどろもどろの説明に不信感も抱かず、心配そうにこちらを見つめていた。
「どこか、お怪我をなされたりは?」
「それは大丈夫だと思うんですけど……。」
「ですが……、お名前も分からないということであれば、記憶喪失ということになりませんか?でしたら、頭を強く打たれたりしたとか?」
「それも……、よく……。あっ、でも、その、頭を触って確認した限りは、何か問題があるようには思えませんので、」
デモンストレーションのように頭を触って平気なことを見せる。
女性は確認するように慌てて近づくが、すぐに距離を取って、顔を逸らした。
「あっ、申し訳ございません。私ったら、はしたない。」
女性の顔が心なしか赤く染まっている。
その時、沢崎直は唐突に理解した。
(あっ!私、イケメンになってるんだ!)
先程からの女性の理解不能な態度の数々は、イケメンを相手取って恥じらっていたものだったのだ。よく考えれば、命を救ってくれたのが若いイケメンだったなど、とんでもないシチュエーションだ。
クリスティーンと名乗った伯爵令嬢は頬を染めて上目づかいにこちらを見上げた。
「街に着いたら、お医者様をお呼びします。その後、お礼をさせてください。」
沢崎直として生まれて二十五年、全く遭遇したことのない事態がこれから始まることだけは確実だった。
(……何か、すごいこっち見てくる気がするんだけど……。)
馬車が走り出してしばらくしてから、向かい側に座った女性の視線が、気になってしょうがない。ちらちらとこちらを窺うように、何度も視線を向けられるのだが、そんな視線を向けられている真意が分からない。
口を開いて何か言うのかと思えば、結局何も言わずに口を閉じてしまう。
ひどく居心地の悪い思いを沢崎直は感じていた。
あまりにも居心地が悪いことに耐えかね、こちらから口を開くことにする。
「……あのー、どうかしましたか?」
「い、いえ。あの。」
返事をする声が裏返っていた。
沢崎直が続きを待ってじっと見つめると、女性はさっと視線を逸らした。
(……どういうこと?)
今までの沢崎直としての二十五年の人生で、相手にこんな反応をされたことはない。そのため、どう対処していいか全然全く理解できない。
とりあえず目の前の女性をじっくりと観察する。
視線を逸らされてはいるが、嫌悪感をこちらに持っている感じはしない、多分。話が続きはしないが、話をしたくないわけではなさそう。
(そういえば、私、今男だし、この子はご令嬢みたいだし……。男性慣れしていないのかな?)
他人事のように俯瞰しながら考察する。
(……でも、さっきは普通に話してた気がするし、護衛役の人も男だったよね?ご令嬢と言っても、深窓のというよりは、もっと活発な感じもするし……。)
「……コホン。」
気を取り直すように女性は品よく咳払いをした。
考察を一時停止して、女性の言葉を待つ。
女性は息を整えると、ようやく口を開いた。
「わ、わたくしはハンプシャー伯爵家の次女クリスティーンと申します。先程は助けていただいてありがとうございました。」
「いえいえ。そんな大層なことはしていません。」
本当に大層なことはしていない。ただ気を失っていた様子の女性に声を掛けただけだ。むしろ、馬車にまで乗せてもらってる自分の方が現在助けられている状況だと、沢崎直は思った。
女性はふわりと微笑むと控えめにこちらを見つめながら続けた。
「そんな。ご謙遜なさらないでくださいな。あっ、あのー。お名前を聴かせていただいても?」
「あっ、はい。私は……。」
そこで名乗ろうとして、沢崎直は固まった。
(えっ?これって、どういう状況?)
スムーズに沢崎直という名を名乗ろうとした自分にブレーキをかけて、脳内をフルスピードで回転させる。
沢崎直というのは、ここではないどこかで自分が女性として二十五年使ってきた馴染みのある名前ではあるが、このイケメンがイケボで名乗っていい名前なのだろうか?
(……なんか違う気がする。)
そう脳内で結論付けて、沢崎直は慎重に口を開くことした。
「……えっと、ですね。……名前、なのですが……。分からないと言いますか……。そのー、多分ですが……。先程のえっと、モンスターに襲われたようで、その、そこからの事がよく分からないというか、……曖昧というか。ははは。すみません。」
最後は笑ってごまかして謝ってみる。
本当はくまさんに襲われる前からよく分からないことになっているのだが、その辺は適当だ。しどろもどろの説明であることは重々承知だが、これ以上何て説明すればいいか分からない。
怪しまれたかなぁと思って女性の顔色を窺うと、やはり今回も想像していた反応とは違っていた。
女性はしどろもどろの説明に不信感も抱かず、心配そうにこちらを見つめていた。
「どこか、お怪我をなされたりは?」
「それは大丈夫だと思うんですけど……。」
「ですが……、お名前も分からないということであれば、記憶喪失ということになりませんか?でしたら、頭を強く打たれたりしたとか?」
「それも……、よく……。あっ、でも、その、頭を触って確認した限りは、何か問題があるようには思えませんので、」
デモンストレーションのように頭を触って平気なことを見せる。
女性は確認するように慌てて近づくが、すぐに距離を取って、顔を逸らした。
「あっ、申し訳ございません。私ったら、はしたない。」
女性の顔が心なしか赤く染まっている。
その時、沢崎直は唐突に理解した。
(あっ!私、イケメンになってるんだ!)
先程からの女性の理解不能な態度の数々は、イケメンを相手取って恥じらっていたものだったのだ。よく考えれば、命を救ってくれたのが若いイケメンだったなど、とんでもないシチュエーションだ。
クリスティーンと名乗った伯爵令嬢は頬を染めて上目づかいにこちらを見上げた。
「街に着いたら、お医者様をお呼びします。その後、お礼をさせてください。」
沢崎直として生まれて二十五年、全く遭遇したことのない事態がこれから始まることだけは確実だった。
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