幼女のお股がツルツルなので徳川幕府は滅亡するらしい

マルシラガ

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第四幕 みんなが子猫を探して上や下への大騒ぎ

雷蔵は子猫たちに追いついた

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「え? 何? 私以外みんな知ってたのかい? お愛ちゃんが愛姫だって事を」

「当然。姫様は霧たちがお城から連れ出した、なの」

「城から連れ出した拙者たちが愛姫の正体を知っているのは当然でござるが、なぜ商家の番頭がこの事を知っているのでござるか」

 改めて雷蔵を警戒する百合丸に対して雷蔵はフッと軽く笑うと、彼女の問いには答えずに愛姫に向かって片膝を着いてうやうやしく頭を下げた。

「改めまして名乗りをさせていただきます。わたくしは日本橋で両替商を営んでおります狐屋の大番頭雷蔵と申します。狐屋は表向きには単なる両替商ですが、時には本業と違う雑事や人助けなども請け負っております」

「ほほぉ、おぬしらの本業は両替商であったか。にしても副業とはいえなかなかに面白い仕事をしているのう。今回青太郎が受けておる猫探しの仕事を妾も手伝わせてもらっているが、とても楽しませてもらっているぞ」

「おそれいります」

 雷蔵は青太郎たちが猫探しに至った顛末について心の中で色々と思うところもあったが、苦々しさを心の内で噛み殺して微笑んだ。

「おそらく当家の主人以外のお三方には既にお察しの事でしょうが――」

「おい、私が軽くコケにされている気がするんだけど?」

「用事を言いつけられた丁稚に代わって大番頭のわたくしがカゴを持ってきたのはあくまでもついでの事」

 そうだろうな、と得心顔で頷く利発な三人娘とは対照的に「え? そうなの!?」と、間の抜けた顔で心底驚いている己の主人の存在が雷蔵には少なからず恥ずかしかった。

「察するに狐屋に幕府からの依頼でもあったのか? 妾を探し出せ、と」

「いえ、残念ながら狐屋はまだ幕府要人との繋がりがありませんので仕事の依頼はありません。今回はとある大名家からの依頼です」

 愛姫はまだ抜刀したままの百合丸に刀を収めさせて雷蔵の前に出た。

「とある大名からか。ということはこの身は一時的にその大名家のお預かりという形になるのじゃな。……それは少々面倒なことになりそうだのう」

 幕府の依頼を受けて来たものではなく、他大名家の依頼で愛姫を探しに来た者に自分の身柄を預けた場合。その場合に生じる面倒事を想像して愛姫は辟易とした表情になった。

「少々面倒なこと、ですか。残念ながら今は既に少々どころではないほどに面倒なことになっております」

「どういう意味じゃ?」

「姫様が城を出られたことはその日のうちに方々ほうぼうへ知れ渡っております。中にはこの機に現将軍の唯一の継嗣けいしを亡き者にしようと画策する者が……」

「つまり、妾の命を狙う者がいると?」

「へい。いえ、はい。今朝までは姫様の正体が、その、なんというか、ものすごい勘違いで別人と思われていたために無事だったのですが、今日の昼前にそれが間違いだったと露見しました。それによって姫様を保護しようとしている者と、姫様を害そうとしている者が同時に動き出したのです。わたくしは幸運にも当家の主人が姫様と行動を共にしていると事前に知っていたのでこうして誰よりも早く駆けつけることが出来ましたが、おそらく姫様の命を狙う者たちも時を置かずにやってくることでしょう」

「それは……まいったのぅ」

 愛姫は今ここにいる面々を見回して眉を寄せた。

 確認するまでも無く同行者は子供ばかりで、もしここに暗殺者が来たら、あっという間に斬り伏せられてしまいそうな顔ぶれだ。

「そういう状況であれば是非ぜひもなし。くと、逃げるしか手はなさそうじゃな」

「はい。それが最善かと」

 雷蔵はそう返事をしながら内心でホッと胸を撫で下ろしていた。

 世間知らずの姫様に無茶な要求をされたりゴネられたりしたらどうしようかと案じていたのだが、愛姫は想像以上に物わかりの良い利発な子供だった。そんな彼女の隣で青太郎が「え? じゃあ暗殺者とか来るのかい?」と子ネズミのように震えながら狼狽えているので余計に彼女の利口さが際立って見える。

「逃げるにしても妾たちはここまで来た道を引き返すしか順路は知らぬ。しかし今の状況で引き返せば妾を害そうと追跡して来ている刺客と鉢合わせになるのは必然じゃ。雷蔵、妾たちはどう逃げたら良いと思う?」

「引き返せば敵と当たるのは仰られる通りですが、わたくしもここは初めて訪れた場所。まさか江戸の真下にこのような大穴があるとは知りませんで……。むしろここをズイズイと進んでいる愛姫様こそこの場の道筋をご存じなのかと思っていたのですが」

「妾たちは猫を追って来ただけじゃ。先は知らぬ……と、言いたいところじゃが、実は少しあてがある」

 愛姫は江戸城から脱出する際に使う秘密の抜け路の存在を雷蔵たちに教えて、ここがそうなのではないかという推論を披露した。

「え? じゃあここが秘密の抜け路なの――うわっ!?」

 青太郎が愛姫に気安く訊くと、青太郎は膝裏を雷蔵に突かれて転びそうになった。

「お、おまっ、いきなり何をするんだい」

 膝カックンされて転びそうになったのをギリギリで踏みとどまった青太郎は背後の雷蔵を睨みつけた。

「何をじゃありやせんぜ。このお方は将軍様の一人娘。商家の若旦那ごときが対等な口をきいて良い相手じゃねぇって事ぐらい分からないんですかい」

 雷蔵は青太郎を厳しい目つきで睨んだが愛姫は片手を上げてそれを制した。

「良い、青太郎は今まで通りで。昨日からの付き合いしかない仲じゃが、その喋り方をされるのに慣れてしもうた。今さら変えられるのも気持ちが悪い。それよりもこの急場をしのぐ策が急ぎ必要じゃ。雷蔵、おぬしはどうやら頭が切れる。今は余計なことに気を回さずにここから逃れる方策のみを考えよ」

「……はっ!」

 雷蔵は頭を下げつつニヤリと苦笑で口元を歪めた。

『なんて子だい。他家の依頼で来ただけのあっしに、さも当然のように命令をしやがる。天下人の子はやはり普通とは違う育ち方をしているようだな。金を貰ってないのにああしろこうしろと命令されるのは癪に障るが、どのみちこの子を生きたまま依頼人に引き渡さないと紙問屋の株を握れなくなる。ここはお姫様の意思に従うふりををして上手く誘導してやるのが上策だな』
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