孤独な姫君に溺れるほどの愛を

ゆーかり

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「遊学?」

「ああ、3年は戻れないな」

いつものように会いに来てくれたエドは、いつになく神妙な顔つきで告げたのでした。将来に備えて近隣諸国を視察しながら遊学するのだと。

「何だその顔、まさか寂しいのか?」

王宮にきてからもう5年の月日が流れていました。時折悪夢に苛まれつつも、私はすっかり元の明るさを取り戻していました。

帰国の度に会いにきてくれる父に、一向に帰れと言われないことを不思議に思いながらも、私は真面目に淑女教育に励み、エドと姉弟の様に過ごす日々を楽しんでいました。

毎日のように会っていたエドと暫く会えなくなる。
途端に追いすがりたいような寂しさが込み上げました。

その気持ちが顔に出てしまっていたのでしょう。エドは場を和ませるため、わざと戯けて笑ってみせたのです。

「寂しいわ」

私はエドにしがみつきました。12歳のエドは、身長はまだ私と同じくらいですが、日々鍛錬を積んでいるせいか見た目は細身ながらも、触れれば筋肉の弾力を感じました。

「3年なんてすぐだ。リラはもう寂しくなんてないはずだろ?」

エドを通して王宮の人々に触れ、彼らも徐々に私を受け入れてくれて、確かに孤独を感じることも少なくなっていました。けれど──

「エドは特別だもの、やっぱり寂しいわ」

「特別?」

「そう特別よ」

しがみつく私の背に、エドは腕を回して抱きしめました。

「特別って、どういう意味で?」

「もちろん大事な人ってことよ。あなたは私にとって大切な友人であり、弟みたいなものだもの」

「おと……1つしか変わらないだろ! リラのくせに生意気なんだよ!」

ぷんすぷんすと怒るエドが可愛くて、私は笑いながら背中を撫でさすりました。

今は亡き王太子様の忘形見であるエドはとても優秀で、周囲からの期待を一身に浴びて、幼い頃から大変厳しい教育を受けていました。

その為普段大人びた言動のエドでしたが、私の前ではこうして良く年相応の顔を見せるのです。
それが特別気を許してくれているようでいて、とても嬉しかったものです。

「エドが帰ってくる頃、私はデビューしているのね。ねえいつかエスコート、してくれる?」

「ああ良いぞ。完璧にエスコートしてやる。だからせいぜいこの俺に見劣りしないよう着飾れよ」

「まあ、言ったわね? 3年みっちり女を磨いているから、あなたこそ覚悟しなさいよ?」

「へえ、それは楽しみだな」

ニヤニヤと意地悪く笑っているエドが憎ったらしくて、私だけ寂しいのも何だか悔しくて、私はエドにしがみ付いてコッソリ泣きました。

「手紙……書いてね」

「んー気が向いたらな」

「私、いっぱい書くわ」

「まあ程々にな、返事追いつかないし」

「うん、気をつける」

この時エドは新しい世界に胸がいっぱいで、私のことなど既に頭にない様子なのが酷く寂しかったものです。

でも、いつまでもエドに甘えてばかりはいられません。これは独り立ちする良い機会なのだと、私は前向きに切り替えることにしたのです。

それから一月後、エドは意気揚々と旅立って行きました。馬車が見えなくなるまで見送って、私はその場にくずおれて泣きました。

その涙と共に、私は過去の自分と決別したのです。
孤独と向き合えず、エドの優しさに甘えてばかりいた弱い自分との決別を。
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