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3話ー3
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やがて魔物は背中から血を流しながら、ぐらつく体を支え森の中へと逃げていった。狼たちはとうにリリシアの炎から退いていた。森へ消える前、人間の手足を持ち、狼の頭を持つ怪物は一瞬こちらを振り返った。その目は剣士ではなく、リリシアをしっかりと捉えにかにかと笑うと、闇へ消えた。
やがてさらに三、四人の剣士たちが森の中から現れた。全員同じように黒衣を纏い顔を布で覆っている。
「大丈夫ですか!卿!」
「あれは、あの魔物は……っ」
「追え! 怪我をしているからそう遠くへは逃げられないはずだ。私もすぐに行く」
黒衣の剣士は大きな声を上げる。男たちは頷くと再び森へ向かってしまった。リリシアと少年たちはへなへなと座り込んでしまった。
「に、逃げていった……」
「あなたたち、怪我はない?」
少年たちは体を震わせて身を寄せ合い、頷いた。
「君!なんて危ないことをするんだ!」
剣士はつかつかとリリシアに近づいてきた。大剣は魔物の血を吸いしゅうしゅうと黒煙をあげている。
彼女は呆けたように大剣と剣士を見上げた。
「も、申し訳ありません……む、夢中で……」
「武器も持たぬ身であれの前に飛び出すなど……っ」
黒の覆面で表情はわからない。だが緑の瞳はくっきりとリリシアを睨んでいた。
「あ、あり、ありがとうございます……助けていただいて」
怯える馬や、吹き荒ぶ風。彼女は今になって震えが止まらなくなってきた。
「……ご婦人があんなことするものではない。獣共にやられてしまうよ」
剣士は優しげな声音になり、リリシアの前に片膝をついた。彼女はかたかたと震える体で、命の恩人に深々と頭を下げる。
「貴方様のおかげで命を助けて頂きました。本当にありがとうございます」
「……こちらこそ、あなたのご助力に感謝する。……ご令嬢、もしかして、怪我を?」
剣士はリリシアのドレスを見た。肩のところが少し裂けている。
「あ、いえ、かすっただけですから」
彼女は慌てて肩を庇った。怪我をしたなどと家に知られれば夫人になにを言われるかわからない。
「かすった?……まさか、あれに触れられたのか?」
「は、はい、でも痛くありませんから……気にかけて頂いてありがとうございます」
剣士の声が焦っているのに気づき、リリシアは安心させるようににっこりと笑った。
フードの陰で剣士の瞳が大きく見開かれる。そこへ御者が物陰から走り出てきた。
「リリシア様。早く、とっととこんな所から逃げねば…!」
彼は必死にリリシアと少年たちを馬車へと急き立てた。
「どなたか知りませんが、ありがとうございます」
剣士も頷き立ち上がった。
「……早く行きなさい。あれはまだ生きている」
低い声でそういうと、血まみれの剣を再び持ち直し雷鳴轟く森へと消えていった。
「今の剣士様……誰だったんだろう、シノ」
「わかんない。でも、すごかったね……」
少年たちが憧れの表情で見守る隣で、リリシアは肩に妙な違和感を感じながら、しばらく呆然としていた。
やがてさらに三、四人の剣士たちが森の中から現れた。全員同じように黒衣を纏い顔を布で覆っている。
「大丈夫ですか!卿!」
「あれは、あの魔物は……っ」
「追え! 怪我をしているからそう遠くへは逃げられないはずだ。私もすぐに行く」
黒衣の剣士は大きな声を上げる。男たちは頷くと再び森へ向かってしまった。リリシアと少年たちはへなへなと座り込んでしまった。
「に、逃げていった……」
「あなたたち、怪我はない?」
少年たちは体を震わせて身を寄せ合い、頷いた。
「君!なんて危ないことをするんだ!」
剣士はつかつかとリリシアに近づいてきた。大剣は魔物の血を吸いしゅうしゅうと黒煙をあげている。
彼女は呆けたように大剣と剣士を見上げた。
「も、申し訳ありません……む、夢中で……」
「武器も持たぬ身であれの前に飛び出すなど……っ」
黒の覆面で表情はわからない。だが緑の瞳はくっきりとリリシアを睨んでいた。
「あ、あり、ありがとうございます……助けていただいて」
怯える馬や、吹き荒ぶ風。彼女は今になって震えが止まらなくなってきた。
「……ご婦人があんなことするものではない。獣共にやられてしまうよ」
剣士は優しげな声音になり、リリシアの前に片膝をついた。彼女はかたかたと震える体で、命の恩人に深々と頭を下げる。
「貴方様のおかげで命を助けて頂きました。本当にありがとうございます」
「……こちらこそ、あなたのご助力に感謝する。……ご令嬢、もしかして、怪我を?」
剣士はリリシアのドレスを見た。肩のところが少し裂けている。
「あ、いえ、かすっただけですから」
彼女は慌てて肩を庇った。怪我をしたなどと家に知られれば夫人になにを言われるかわからない。
「かすった?……まさか、あれに触れられたのか?」
「は、はい、でも痛くありませんから……気にかけて頂いてありがとうございます」
剣士の声が焦っているのに気づき、リリシアは安心させるようににっこりと笑った。
フードの陰で剣士の瞳が大きく見開かれる。そこへ御者が物陰から走り出てきた。
「リリシア様。早く、とっととこんな所から逃げねば…!」
彼は必死にリリシアと少年たちを馬車へと急き立てた。
「どなたか知りませんが、ありがとうございます」
剣士も頷き立ち上がった。
「……早く行きなさい。あれはまだ生きている」
低い声でそういうと、血まみれの剣を再び持ち直し雷鳴轟く森へと消えていった。
「今の剣士様……誰だったんだろう、シノ」
「わかんない。でも、すごかったね……」
少年たちが憧れの表情で見守る隣で、リリシアは肩に妙な違和感を感じながら、しばらく呆然としていた。
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