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シャンゼリゼはエリュシオンの地 1
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7月14日、その日俺はパリのど真ん中にいた。
理由は、ミリタリー・パレードを見るためだ。
日本では「パリ祭」っていうのかな。だけどそれは、ルネ・クレールの映画の邦題が「巴里祭」って訳されたからで、盛り上がるのは首都だけじゃない。
もうね、国中のあちこちで、ミリタリー・パレードが開かれるんだ。何しろフランス中が熱気に包まれる、一年で最も大きな祭典、革命記念日(ラ・フェッテ・ド・ナシオナル)の日だから。
見上げれば青い空。
午前10時、シャンゼリゼ通りには、パレードを待つ人びとがぎっしり並んでる。
ガードレールで仕切られた人の波は、五層か六層ぐらい重なってて、これがずーっと凱旋門からコンコルド広場まで、2kmちょっとに渡ってシャンゼリゼの両側に続いているんだよ。
人垣の後ろのほうだと前の人の頭と頭の隙間から見ないといけない。ま、でも戦車とか騎馬隊とかを観客は「見上げる」わけだから、後ろでも結構見えることは見えるんだけどさ。歩いて行進してる兵士たちも、やっぱみんな背が高いからね。
で、俺がいたのは前から五列目の層。場所はジョルジュ・サンクとシャンゼリゼの角。そう赤い日よけのレストラン、フーケの前だよ。凱旋門にほど近い、絶好のスポットだ。場所はいいんだけど、シャンゼリゼ沿いのメトロの駅が8時から12時の間は閉鎖されることを忘れてて、ジョルジュ・サンク駅では降りられなかった。
しかたなく次の駅で降りて、急いで駆けつけたんだけど、後ろのほうになっちゃったよ。
そういえばまだ説明してなかったけど、パレードは凱旋門をスタートして、コンコルド広場まで行進される。終点の広大な広場には閣僚なんかの貴賓席が用意されていて、彼らVIPは、パレード前の兵士の連隊によるパフォーマンスが見られるんだよね。
もちろん一般人は広場の中に入ることができないからさ、ちゃんと録画しておいたよ、テレビ中継。
……話を戻すと俺がいたのはフーケの前のところで、実はその時……なんと俺の後ろに、ここすごい重要だから……金髪のすっげえ可愛い女の子がやってきた。
高校生ぐらいかな? 白いブラウスにブルーのスカート、深い深い赤色をしたショルダーバッグ……、ちゃんとこの日にふさわしくトリコロールカラーなんだよ。
服装がシンプルなのに洗練されてて、俺の受けた印象では、きっと性格も控えめで優しそう……とにかくそう見えたんだよ。目が合ったとき自然に口角が上がって、微笑んでるみたいな表情になるんだ。ちょっとカールした髪の毛も、風にふわぁってそよいで、わかる? なんかショーウィンドウの中で輝いてる飾りのついたタルトみたいな女の子なんだよ。
しかしどうみても、俺のほうが20cm以上は背が高い。だって身長185cmの俺の後ろなんかにいたら、パレードは見られないよね。
――これってさ、遅れてきたのは運が悪かったんだけど、風向きが変わった?
「好機をつかめ」と、軍神マルスがいま俺の耳元でささやいてる!
やっぱ今日は、キューピッドじゃなくてマルスでしょ? 革命記念日(ル・キャトーズ・ジュイエ)だし。
「あの……さ、場所替わろっか?」
「あ、いえ……でも」
恥じらいながら迷っている美少女。なんてきれいな、心地よい声なんだ。
「ははは、大丈夫だよ、俺の視界を遮る物なんてないし」
「あ……ぅん……えっと、ありがとう」
遠慮がちだった彼女の、心が動き始めた……。
なのに、なのに、なのに!
彼女が足を踏み出す寸前で、おっさんの声が割り込んできた。
「いや、それなら、こっちのほうがよく見えるだろう」
――うっわ、やめてくれ! マジで。
ちょっと鷲鼻で、ひと房カールを額に短く垂らして四角い顔のおっさん。
――あれ、どっかで見たことあるような――いや、どこだったかは忘れたけど。
っていうか、俺の幸運を奪い取ろうってのか。何のつもりだよ、俺がせっかくこの子と話をだな……。ほら彼女が困ってんじゃん。
女の子は訴えるような瞳で俺を見つめてきた。そしておっさんに答える。
「いえ私は、せっかく今、場所を変わっていただいたばかりですから」
――よっしゃあぁぁ!!
思わず心の中でガッツポーズを取る俺。
理由は、ミリタリー・パレードを見るためだ。
日本では「パリ祭」っていうのかな。だけどそれは、ルネ・クレールの映画の邦題が「巴里祭」って訳されたからで、盛り上がるのは首都だけじゃない。
もうね、国中のあちこちで、ミリタリー・パレードが開かれるんだ。何しろフランス中が熱気に包まれる、一年で最も大きな祭典、革命記念日(ラ・フェッテ・ド・ナシオナル)の日だから。
見上げれば青い空。
午前10時、シャンゼリゼ通りには、パレードを待つ人びとがぎっしり並んでる。
ガードレールで仕切られた人の波は、五層か六層ぐらい重なってて、これがずーっと凱旋門からコンコルド広場まで、2kmちょっとに渡ってシャンゼリゼの両側に続いているんだよ。
人垣の後ろのほうだと前の人の頭と頭の隙間から見ないといけない。ま、でも戦車とか騎馬隊とかを観客は「見上げる」わけだから、後ろでも結構見えることは見えるんだけどさ。歩いて行進してる兵士たちも、やっぱみんな背が高いからね。
で、俺がいたのは前から五列目の層。場所はジョルジュ・サンクとシャンゼリゼの角。そう赤い日よけのレストラン、フーケの前だよ。凱旋門にほど近い、絶好のスポットだ。場所はいいんだけど、シャンゼリゼ沿いのメトロの駅が8時から12時の間は閉鎖されることを忘れてて、ジョルジュ・サンク駅では降りられなかった。
しかたなく次の駅で降りて、急いで駆けつけたんだけど、後ろのほうになっちゃったよ。
そういえばまだ説明してなかったけど、パレードは凱旋門をスタートして、コンコルド広場まで行進される。終点の広大な広場には閣僚なんかの貴賓席が用意されていて、彼らVIPは、パレード前の兵士の連隊によるパフォーマンスが見られるんだよね。
もちろん一般人は広場の中に入ることができないからさ、ちゃんと録画しておいたよ、テレビ中継。
……話を戻すと俺がいたのはフーケの前のところで、実はその時……なんと俺の後ろに、ここすごい重要だから……金髪のすっげえ可愛い女の子がやってきた。
高校生ぐらいかな? 白いブラウスにブルーのスカート、深い深い赤色をしたショルダーバッグ……、ちゃんとこの日にふさわしくトリコロールカラーなんだよ。
服装がシンプルなのに洗練されてて、俺の受けた印象では、きっと性格も控えめで優しそう……とにかくそう見えたんだよ。目が合ったとき自然に口角が上がって、微笑んでるみたいな表情になるんだ。ちょっとカールした髪の毛も、風にふわぁってそよいで、わかる? なんかショーウィンドウの中で輝いてる飾りのついたタルトみたいな女の子なんだよ。
しかしどうみても、俺のほうが20cm以上は背が高い。だって身長185cmの俺の後ろなんかにいたら、パレードは見られないよね。
――これってさ、遅れてきたのは運が悪かったんだけど、風向きが変わった?
「好機をつかめ」と、軍神マルスがいま俺の耳元でささやいてる!
やっぱ今日は、キューピッドじゃなくてマルスでしょ? 革命記念日(ル・キャトーズ・ジュイエ)だし。
「あの……さ、場所替わろっか?」
「あ、いえ……でも」
恥じらいながら迷っている美少女。なんてきれいな、心地よい声なんだ。
「ははは、大丈夫だよ、俺の視界を遮る物なんてないし」
「あ……ぅん……えっと、ありがとう」
遠慮がちだった彼女の、心が動き始めた……。
なのに、なのに、なのに!
彼女が足を踏み出す寸前で、おっさんの声が割り込んできた。
「いや、それなら、こっちのほうがよく見えるだろう」
――うっわ、やめてくれ! マジで。
ちょっと鷲鼻で、ひと房カールを額に短く垂らして四角い顔のおっさん。
――あれ、どっかで見たことあるような――いや、どこだったかは忘れたけど。
っていうか、俺の幸運を奪い取ろうってのか。何のつもりだよ、俺がせっかくこの子と話をだな……。ほら彼女が困ってんじゃん。
女の子は訴えるような瞳で俺を見つめてきた。そしておっさんに答える。
「いえ私は、せっかく今、場所を変わっていただいたばかりですから」
――よっしゃあぁぁ!!
思わず心の中でガッツポーズを取る俺。
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