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シャンゼリゼはエリュシオンの地 2
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俺の勝ちだぜ、悪いなおっさん。
「しかしだね、私のいる場所は横に、誰もいないんだ。つまり、マドモワゼルの視界の妨げになるものが……、それに私もあまり人目に立つ位置にいないほうが……、げふげふ」
紳士を装ってるこのオヤジの言い分とは、彼がジョルジュ・サンク通り沿いに立ってたんで、その場所を譲れば、彼女は何の妨げもなく交差点の隙間からパレードが眺められるというものだ。
いや、ま……確かにその通りなんだが、そんなことしたら、こいつが俺と彼女の間に割り込むことにならないか?
おい、おっさん。せっかく彼女が俺の好意を受け入れてくれたのに、もんくあるならちょっと、屋上まで来いや!
「あ~ら、じゃあこうするのはいかが?」
ちょうどその隣にいたおばあさ……いやマダムが、気を使って位置をずらしてくれたおかげで、美少女は道路側、おっさんはその内側、俺はおっさんの後ろだけど彼女の横に来るようにアレンジしてくれた。
おっさんの身長は170cmぐらいと欧米男子の平均よりちょっと低めだったんで、なんら俺を遮るものではなかった。
「メルシー、マダム」
――ふう、やれやれだぜ。
美少女もそのマダムに丁寧にお礼を言っていた。
そういう礼儀を大切にする子って、なんか好感度高いよね。
あ、それから彼女のフランス語は、外国語っぽいアクセントがあった。ちょっとたどたどしい感じも。きっと旅行者だ。
「あ……トランペットの音」
「ぅん、聞こえる」
ブロンドの髪をそよそよと風になびかせながら、彼女はにっこり微笑み返してくれた。花が開くようなスマイルが、なんか、キュンって俺の琴線に触れた!
10時10分、エトワール広場のほうから、騎馬隊の蹄の音が石畳の上を響いて来る。
トランペットの演奏が始まったということは、フランス大統領が凱旋門に到着したんだろう。カーキ色の軍用コンボイ車両に護衛されて、大統領は国務長官とともに乗車したままエトワール広場のまわりに整列した兵士や装甲車を確認する。その後ろには50の騎馬兵たちが続いていた。
凱旋門のアーチの下には、大きな三色旗が吊るされ風を受けてはためいてる。アーチの内側|――天井の高さは30mもあるんだ――がいっぱいになるほど大きな国旗が飾られるなんて、今日みたいな日のためのすごく特別なことなんだよ。
エトワール広場を一周してチェックすると、やがてコンボイはシャンゼリゼ通りを下り始めた。
湧き上がる人びとの歓声と拍手。大統領は手を振ってそれに答えてる。
パレード用コンボイは、屋根のない車両。後部座席に並んで立つ、大統領と国務長官。微笑んで手を振るにこやかな大統領と、シャンゼリゼのところどころにいる兵士たちに敬礼する国務長官の固い表情が、すごい対象的なんだよね。
向かいの建物の二階の窓ガラスが、日差しを反射してキラリと光った。そのバルコニーで、国旗を振っているグループが歓声をあげた。
あれはきっとオフィスを社員に開放してるんだろう。シャンゼリゼ通りのアパルトマンのリース料は昨今とんでもない高額で、ビジネスのテナントがほとんどを占めてるそうだ。特に日当たりのいい北側を住まいにしてる人はめったにいないらしいから。
「あ……」
前を通り過ぎる時、大統領は俺たちのいるほうへ向かって手を振った。
っていっても俺と目があったんじゃないよ。俺のすぐ横――そう、まるでこの金髪美少女に手を振っているみたいだった。
たぶん、彼女も視線があったのを感じたんだと思う。俺と同時に「あ……」ってつぶやいてた。大統領に呼びかける声で周りが結構騒がしかったけど、彼女の声だけはしっかり聞こえた。
大統領の車の後には、闊歩していく騎馬隊の赤い羽飾りの帽子の波……。紺の制服に白いトラウザース、黒いブーツの騎兵が50騎もの駿馬にまたがり通り過ぎていくのも、すんげぇ鮮やかだった。
コンボイはコンコルド広場までゆっくり走行する。そこで大統領は、外国からの国賓に挨拶をし、楽隊の演奏とともに兵士たちのパフォーマンスが行なわれて、国旗が挙げられたりなんかするわけだ。
その間の20~30分、俺たちは、次なるアルファジェットの登場をひたすら待つことになる。
◇ ◇ ◇
10時30分、シャトーダン基地では、以下のようなエアバンド交信が交わされていた。
「コントロールタワー、こちらアルファジェット1。ランウェイ16に到着。テイクオフ準備完了」
「アルファジェット1、こちらコントロールタワー。ランウェイ16、ホールド。そのまま離陸許可を待て」
パイロットたちは、空軍――ラ・デファンス・アエリエン――管制塔からの出動命令を待っていた。
だが、滑走路に障害物がなくても、離陸許可はまだおりない。なぜなら彼らフランス・パトロールのアルファジェットは、軍のパレードを開幕させる役目だからだ。そのためには、大統領がコンコルド広場に到着して兵士によるパフォーマンスが終わりに近づくまでテイクオフを待たねばならない。
9機はリーダーのアルファジェット1を先頭として、横並びに大きなV字型を作って飛んでいくのだが、同時に飛び立つため他の8機はエアバンドをオンにしたまま聞いていて、管制塔と交信するのはリーダー機のみである。
フランスのパトロール機であるこれらの機体の幅は、9.16m、長さ11.85mと小さい。しかしランウェイの幅にも限りがあるので、滑走路では横一列には並べない。外側の4機が後方につき、離陸後「ビッグ9」と呼ばれるV字フォーメーションを編隊する。
10時36分、
「アルファジェット1、こちらコントロールタワー。ランウェイ16、クリアド・フォー・テイクオフ」
管制塔からの離陸許可が発令された。
「ラジャー、ランウェイ16、クリアド・フォー・テイクオフ」
パイロットはコマンドを復唱し離陸する。
パリの上空は晴れ、視界は良好。時速300ノード。(540km/h)
「アルファジェット1、コンタクト・エトワール、オン132.1」
パイロットは離陸後、管制塔から次の管制官がいる凱旋門屋上と、132.1MHzで交信するよう指示される。
「こちらアルファジェット1、ラジャー、132.1、メルシー」
後方を追う4機も、まるで9機全部がつながった一対の翼のように飛び立ったアルファジェット隊は、その瞬間気流の波をつかんで舞い上がった。
◇ ◇ ◇
「しかしだね、私のいる場所は横に、誰もいないんだ。つまり、マドモワゼルの視界の妨げになるものが……、それに私もあまり人目に立つ位置にいないほうが……、げふげふ」
紳士を装ってるこのオヤジの言い分とは、彼がジョルジュ・サンク通り沿いに立ってたんで、その場所を譲れば、彼女は何の妨げもなく交差点の隙間からパレードが眺められるというものだ。
いや、ま……確かにその通りなんだが、そんなことしたら、こいつが俺と彼女の間に割り込むことにならないか?
おい、おっさん。せっかく彼女が俺の好意を受け入れてくれたのに、もんくあるならちょっと、屋上まで来いや!
「あ~ら、じゃあこうするのはいかが?」
ちょうどその隣にいたおばあさ……いやマダムが、気を使って位置をずらしてくれたおかげで、美少女は道路側、おっさんはその内側、俺はおっさんの後ろだけど彼女の横に来るようにアレンジしてくれた。
おっさんの身長は170cmぐらいと欧米男子の平均よりちょっと低めだったんで、なんら俺を遮るものではなかった。
「メルシー、マダム」
――ふう、やれやれだぜ。
美少女もそのマダムに丁寧にお礼を言っていた。
そういう礼儀を大切にする子って、なんか好感度高いよね。
あ、それから彼女のフランス語は、外国語っぽいアクセントがあった。ちょっとたどたどしい感じも。きっと旅行者だ。
「あ……トランペットの音」
「ぅん、聞こえる」
ブロンドの髪をそよそよと風になびかせながら、彼女はにっこり微笑み返してくれた。花が開くようなスマイルが、なんか、キュンって俺の琴線に触れた!
10時10分、エトワール広場のほうから、騎馬隊の蹄の音が石畳の上を響いて来る。
トランペットの演奏が始まったということは、フランス大統領が凱旋門に到着したんだろう。カーキ色の軍用コンボイ車両に護衛されて、大統領は国務長官とともに乗車したままエトワール広場のまわりに整列した兵士や装甲車を確認する。その後ろには50の騎馬兵たちが続いていた。
凱旋門のアーチの下には、大きな三色旗が吊るされ風を受けてはためいてる。アーチの内側|――天井の高さは30mもあるんだ――がいっぱいになるほど大きな国旗が飾られるなんて、今日みたいな日のためのすごく特別なことなんだよ。
エトワール広場を一周してチェックすると、やがてコンボイはシャンゼリゼ通りを下り始めた。
湧き上がる人びとの歓声と拍手。大統領は手を振ってそれに答えてる。
パレード用コンボイは、屋根のない車両。後部座席に並んで立つ、大統領と国務長官。微笑んで手を振るにこやかな大統領と、シャンゼリゼのところどころにいる兵士たちに敬礼する国務長官の固い表情が、すごい対象的なんだよね。
向かいの建物の二階の窓ガラスが、日差しを反射してキラリと光った。そのバルコニーで、国旗を振っているグループが歓声をあげた。
あれはきっとオフィスを社員に開放してるんだろう。シャンゼリゼ通りのアパルトマンのリース料は昨今とんでもない高額で、ビジネスのテナントがほとんどを占めてるそうだ。特に日当たりのいい北側を住まいにしてる人はめったにいないらしいから。
「あ……」
前を通り過ぎる時、大統領は俺たちのいるほうへ向かって手を振った。
っていっても俺と目があったんじゃないよ。俺のすぐ横――そう、まるでこの金髪美少女に手を振っているみたいだった。
たぶん、彼女も視線があったのを感じたんだと思う。俺と同時に「あ……」ってつぶやいてた。大統領に呼びかける声で周りが結構騒がしかったけど、彼女の声だけはしっかり聞こえた。
大統領の車の後には、闊歩していく騎馬隊の赤い羽飾りの帽子の波……。紺の制服に白いトラウザース、黒いブーツの騎兵が50騎もの駿馬にまたがり通り過ぎていくのも、すんげぇ鮮やかだった。
コンボイはコンコルド広場までゆっくり走行する。そこで大統領は、外国からの国賓に挨拶をし、楽隊の演奏とともに兵士たちのパフォーマンスが行なわれて、国旗が挙げられたりなんかするわけだ。
その間の20~30分、俺たちは、次なるアルファジェットの登場をひたすら待つことになる。
◇ ◇ ◇
10時30分、シャトーダン基地では、以下のようなエアバンド交信が交わされていた。
「コントロールタワー、こちらアルファジェット1。ランウェイ16に到着。テイクオフ準備完了」
「アルファジェット1、こちらコントロールタワー。ランウェイ16、ホールド。そのまま離陸許可を待て」
パイロットたちは、空軍――ラ・デファンス・アエリエン――管制塔からの出動命令を待っていた。
だが、滑走路に障害物がなくても、離陸許可はまだおりない。なぜなら彼らフランス・パトロールのアルファジェットは、軍のパレードを開幕させる役目だからだ。そのためには、大統領がコンコルド広場に到着して兵士によるパフォーマンスが終わりに近づくまでテイクオフを待たねばならない。
9機はリーダーのアルファジェット1を先頭として、横並びに大きなV字型を作って飛んでいくのだが、同時に飛び立つため他の8機はエアバンドをオンにしたまま聞いていて、管制塔と交信するのはリーダー機のみである。
フランスのパトロール機であるこれらの機体の幅は、9.16m、長さ11.85mと小さい。しかしランウェイの幅にも限りがあるので、滑走路では横一列には並べない。外側の4機が後方につき、離陸後「ビッグ9」と呼ばれるV字フォーメーションを編隊する。
10時36分、
「アルファジェット1、こちらコントロールタワー。ランウェイ16、クリアド・フォー・テイクオフ」
管制塔からの離陸許可が発令された。
「ラジャー、ランウェイ16、クリアド・フォー・テイクオフ」
パイロットはコマンドを復唱し離陸する。
パリの上空は晴れ、視界は良好。時速300ノード。(540km/h)
「アルファジェット1、コンタクト・エトワール、オン132.1」
パイロットは離陸後、管制塔から次の管制官がいる凱旋門屋上と、132.1MHzで交信するよう指示される。
「こちらアルファジェット1、ラジャー、132.1、メルシー」
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