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シャンゼリゼはエリュシオンの地 3
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その頃俺たちのいるシャンゼリゼ通りは、大統領が通り過ぎた後しばらく、空白の時間に包まれていた。
まもなくアルファジェットの輝かしい登場で、パレードが幕開けされるはずなんだが……。
そうこうするうちに、コンコルド広場から聞こえて来る楽隊の演奏は、ムソルグスキーの「展覧会の絵」のエンディング近く、「キエフの大門」の部分に変わった。
その刹那……、
西の上空はるか彼方から、「彼ら」は迫ってきた。シャープな金属音をたて、空に9本の線を引っかきながら……。
うわあぁぁあぁぁ……!
心の中で俺はそう叫んでた。
実際には、しばらく声を無くしていたようだ。
9機のアルファジェットが、青、白、赤の飛行機雲をそれぞれ三本ずつ空に引いていく。ラ・デファンスのグランダルシュから凱旋門、コンコルド広場へと、シャンゼリゼの上を一直線に、一糸乱れずまっすぐ……どこまでも、どこまでも。
コンコルド広場に突き立つオベリスクのすぐ近くの低い空を、まるで駆け抜けるように……
初めてじゃないのに、毎年テレビで見てるシーンなのに、今まさに飛行機の真下にいる。もうね、湧き上がってくる躍動感が違うんだ、全然。心が空まで舞い上がって行きそうなくらい。
遠ざかって行くアルファジェットを、俺の目はいつまでも追っていた。でも空での華麗なパレードは、次から次へととめどなく続く。震える身体に、休む暇なんて与えてくれないほどに……。
「おお、アメリカから招かれた空軍のサンダーバード。F16が6機とF222機。白いボディに赤い鼻」
ああ、まさに神の鳥。小さい頃からレゴで組み立てて遊んでた。今だってマニュアル見ないで作れるぜ、たぶん。
「次は……ぅわお、フランス空軍のミラージュ2000N」
デルタΔ型の翼が美しい。
この日シャンゼリゼの上空を横切るのは、パトロール隊のアルファジェット9機、エア・フォース62機、総勢71機にも及ぶ。パレードはまだ、始まったばかりだった.
「詳しいのね」
金色に輝く美少女の髪から、ほんのりいい香りが鼻をかすめてふと我に帰った。
「あ、うん」
確かに俺はエアクラフトに夢中だ。それってさ、女の子から見たらどうなんだろ? 変かな……でもごめん。今は、この湧き上がってくる気持ち、隠せない……よ。
「ほんと、すごぉい! ねぇ、どこから飛んで来るの?」
彼女が瞳をキラキラさせながら空に向けて発した言葉――それは俺がまだ少年だった頃、初めてパレードを見た時、最初に抱いた疑問と同じだった。
「パリの南西130kmのところ、シャトーダンに空軍基地があるんだ」
「わあ、そんな遠く? だって、あんなまっすぐに揃って飛んでるのに」
「特に先頭を切って三色旗を空に引いて行ったアルファジェットなんかは、それぞれの機体の間はわずか3メートルしかないから、かなり高度なテクニックを要するらしい。あ、アルファジェットは空軍じゃなくてパリのパトロール部隊だけどね。とにかくエアフォースや海軍機も含めて、毎年選りすぐりのパイロットたちが、三週間前からシャトーダンに集まって練習が行われるんだって。なのに大掛かりなリハーサルをする機会があんまりなくて、すっごい緊張するらしい。そりゃそうだよね。何度も練習できないだろうしさ。あ、でも数日前にパリの空を見上げたら、本番さながらの空軍のドレスリハーサルが見られるかもしれないんだよ。今年は7月11日だったっけ? でね、一番大事なのは『バランス』なんだ。フォーメーションを組んでる飛行機全部が、まるで同じサーフボードに乗ってるみたいなつもりで、カーヴしたりするときは一体化しなきゃならないって……特にこのビッグナインは」
そこまで熱っぽく語り続けて、俺は「うわ、もしかして、やらかした!?」と肩をすくめ、女の子の様子をうかがった。
うへぇ、まるでミリオタじゃないか。
けれど俺の行く手に広がり始めた暗雲を、打ち消すように明るい声が降ってくる。
「あ、わかる……その気持ち。私もすごくドキドキしてる」
彼女はかわいらしく小首を傾げて俺を見上げ、そう言った。とてもとても輝いた瞳をして……。
「あ……その、昨夜、パイロットたちのインタビューをニュースでやってたんだよね。寮のカフェテリアで、つい遅くまでみんなでテレビに見入っちゃって」
「ふうん、寮に住んでるの?」
「うん、14区の大学の寮……フランス語のサマークラスに参加してる。アメリカの大学から」
「あ、私もそう。夏だけの予定。でも従姉妹のアパルトマンに住まわせてもらってるんだけど」
「へえ、そうなんだ。俺ノエル、ニューヨークの大学生」
「リナよ。ニューヨークから来てる人って多いのかな? 私もなんだけど……。秋から大学生、よろしく」
俺が差し出した手を、リナはそっと握り返してくれた。すげえ、柔らかくて小さい手。
空での華麗な航空パレードと同時に、陸上での行進も始まった。俺たちの目の前には、アメリカから招待を受けた陸軍がビシッと縦横に整列して現れた。
ため息が出そうだった。
だけど彼らが登場しなかったら、きっと幕開けの三色の雲を引いていくアルファジェット機について、毎年フォーメーションが違うだの、2016年のフォーメーションはオリンピック招致のためエッフェル塔型「ラ・トゥール・エッフェル」だったのなんのと、延々とぶっちぎって彼女に呆れ返られてしまったに違いない。
パレードに見入っていたリナがつぶやく。
「あ、ちょっとおもしろいこと見つけちゃった……」
「ん、なに?」
「ほら、シャンゼリゼ通りって、中央分離帯がないの」
おお、ほんとだ! 言われてみるまで気づかなかったよ。だって、中央に木なんか植えてあったら、たとえ車両通行止めにしてあっても兵士たちは道路のどっちかに寄って行進しなくちゃならないよね、こんな風に大通りの真ん中じゃなくってさ。
普段は真ん中に信号機が置いてあったりもするけど、実はそれらはみんな可動式のコンクリートの上に設置されている。
「それはだね、歴史的にこの通りが凱旋の行進をするためにあった――という理由に深く関わっておるからだ」
突然話しかけてくる隣のおっさん。
ってか、聞いてたのかよ!?
「シャンゼリゼの歴史は……、むかしむかし偉大なるナポレオンが、凱旋門を築いたわけだ。もちろんフランス軍の凱旋にも使われたが、敵国ドイツ軍すらも、パリを攻略するたびにこの世界で一番美しい通りを行進して勝利を満喫していた……。今我々に木陰を作ってくれているマロニエの木を増殖したのもドイツ兵なのだよ」
なんか、悔しそうにつぶやくおっさん。
そう言いながらも、どこかしらパリを自慢してる感じはあるけど。
うーん、おそらく40代ぐらいって年齢から察するに、お隣の国との戦争に参加してるはずないんだけどなぁ……この人。
「ナポレオンが皇帝だった頃は、このパレードはもっと盛んだったんですか?」
リナがおっさんに訊ねた。彼女の話し方ってのが、またいいんだよ。わざとキュートに装ってるんでもないのに、奥ゆかしさみたいなものがそこはかとなく感じられるって言えばわかってもらえるかな。
「いや、意外に思うかもしれないが、彼の在位中はパレードも無く慎ましやかなものだった。第三共和政の1870年ごろになると、祭典も盛んになってきたらしいが」
とにかく今目の前で繰り広げられているのは、世界最古に始められたミリタリー・パレード、そして同時にそれはヨーロッパ最大でもある。
63の航空機、ヘリコプター29機、合衆国から招待した軍隊145人、ISIL陸軍名誉将校の隊114人、陸軍、海軍、そしてそれぞれの学校の士官候補生、警察学校のエリートたち、加えて海外派遣軍団のなんと総勢3720人が、それぞれきらびやかなユニフォームに身を包んでシャンゼリゼ通りを下って行く。
彼らはコンコルド広場に着くとぐるっと広場を回り、大統領の席に向かってシャキッと敬礼するんだよ。ああもうなんか、こう……燃えるシチュエーション! かっけぇー!
歩兵に続いて警察の装甲車や、62台のパトロール・モーターバイク、やがて軍の戦闘機たちが重々しくやってきた。
ルクレール――フランス最新鋭のタンクの名だよ。ご存知、ノルマンディー上陸からパリ入城を果たした第二次大戦の将軍の名に因んでる――が車体を軋ませながら数え切れないほど列をなして通って行く時、隣のおっさんは「ぅむむむむ……」
と睨みつけながら低くうなっていた。
コンピュータ化により高度な命中率を誇るこの戦車は、時速71kmの高スピードで走りながらの攻撃が可能だ。重さ50トン以上の戦車が石畳の上を走るとか、もう……、
いや道路を傷つけないように、キャタピラーじゃなくてタイヤなんだけれども……。
「むむむ、これは......、射程距離はおそらく3kmか」
戦慄するような武将の目で主砲を凝視するおっさん。俺もちょっと気になったんでネットにアクセスして調べて見たら、有効射程3000mとあった。
うゎ、こわ……。いったい何者なんだろうこの人。
11時30分、
241騎の騎馬隊が陸の最後を締めくくろうとする頃、空には「ガゼル」を始めとするヘリコプターの群れが姿を見せた。
コンコルド広場からは、国歌「ラ・マルセイエーズ」の合唱が聞こえてくる。
あれ? 考えてみれば、この歌詞ってずいぶん好戦的だよね。だって以前は、フランス語の意味わかんなかったから、気づかなかったんだ。
革命の時に作られた歌だから、市民の士気を鼓舞するために「武器を取れ」っていうのはわかるんだけど、「血ぬられた旗」が掲げられたとか、野獣のような兵士たちが、子供たちの喉を掻っ切るためにやってきたみたいなことが歌われている。
フランス国内で起きた革命は、隣接する国々との戦争へ発展していったから、この民を襲う兵士ってのはいまだ君主制の外国の兵士たちのことだ。
まあそれくらい、鬼気迫る状況だったんだろうね。
自分たちの家族を、未来を救うために専制君主制度を変えんと立ち上がったシトワイエンやシトワイエンヌたちの歌――そのラ・マルセイエーズも。君主を倒せという歌詞のために、ナポレオンの帝政下では禁止されていたらしい。
11時55分、
この日のパレードのおしまいに、3機のアルファジェットが姿を見せる。
グランダルシュの上空あたりから、青、白、赤の雲を一本ずつ引いてミリタリー・パレードは幕を閉じた。
まもなくアルファジェットの輝かしい登場で、パレードが幕開けされるはずなんだが……。
そうこうするうちに、コンコルド広場から聞こえて来る楽隊の演奏は、ムソルグスキーの「展覧会の絵」のエンディング近く、「キエフの大門」の部分に変わった。
その刹那……、
西の上空はるか彼方から、「彼ら」は迫ってきた。シャープな金属音をたて、空に9本の線を引っかきながら……。
うわあぁぁあぁぁ……!
心の中で俺はそう叫んでた。
実際には、しばらく声を無くしていたようだ。
9機のアルファジェットが、青、白、赤の飛行機雲をそれぞれ三本ずつ空に引いていく。ラ・デファンスのグランダルシュから凱旋門、コンコルド広場へと、シャンゼリゼの上を一直線に、一糸乱れずまっすぐ……どこまでも、どこまでも。
コンコルド広場に突き立つオベリスクのすぐ近くの低い空を、まるで駆け抜けるように……
初めてじゃないのに、毎年テレビで見てるシーンなのに、今まさに飛行機の真下にいる。もうね、湧き上がってくる躍動感が違うんだ、全然。心が空まで舞い上がって行きそうなくらい。
遠ざかって行くアルファジェットを、俺の目はいつまでも追っていた。でも空での華麗なパレードは、次から次へととめどなく続く。震える身体に、休む暇なんて与えてくれないほどに……。
「おお、アメリカから招かれた空軍のサンダーバード。F16が6機とF222機。白いボディに赤い鼻」
ああ、まさに神の鳥。小さい頃からレゴで組み立てて遊んでた。今だってマニュアル見ないで作れるぜ、たぶん。
「次は……ぅわお、フランス空軍のミラージュ2000N」
デルタΔ型の翼が美しい。
この日シャンゼリゼの上空を横切るのは、パトロール隊のアルファジェット9機、エア・フォース62機、総勢71機にも及ぶ。パレードはまだ、始まったばかりだった.
「詳しいのね」
金色に輝く美少女の髪から、ほんのりいい香りが鼻をかすめてふと我に帰った。
「あ、うん」
確かに俺はエアクラフトに夢中だ。それってさ、女の子から見たらどうなんだろ? 変かな……でもごめん。今は、この湧き上がってくる気持ち、隠せない……よ。
「ほんと、すごぉい! ねぇ、どこから飛んで来るの?」
彼女が瞳をキラキラさせながら空に向けて発した言葉――それは俺がまだ少年だった頃、初めてパレードを見た時、最初に抱いた疑問と同じだった。
「パリの南西130kmのところ、シャトーダンに空軍基地があるんだ」
「わあ、そんな遠く? だって、あんなまっすぐに揃って飛んでるのに」
「特に先頭を切って三色旗を空に引いて行ったアルファジェットなんかは、それぞれの機体の間はわずか3メートルしかないから、かなり高度なテクニックを要するらしい。あ、アルファジェットは空軍じゃなくてパリのパトロール部隊だけどね。とにかくエアフォースや海軍機も含めて、毎年選りすぐりのパイロットたちが、三週間前からシャトーダンに集まって練習が行われるんだって。なのに大掛かりなリハーサルをする機会があんまりなくて、すっごい緊張するらしい。そりゃそうだよね。何度も練習できないだろうしさ。あ、でも数日前にパリの空を見上げたら、本番さながらの空軍のドレスリハーサルが見られるかもしれないんだよ。今年は7月11日だったっけ? でね、一番大事なのは『バランス』なんだ。フォーメーションを組んでる飛行機全部が、まるで同じサーフボードに乗ってるみたいなつもりで、カーヴしたりするときは一体化しなきゃならないって……特にこのビッグナインは」
そこまで熱っぽく語り続けて、俺は「うわ、もしかして、やらかした!?」と肩をすくめ、女の子の様子をうかがった。
うへぇ、まるでミリオタじゃないか。
けれど俺の行く手に広がり始めた暗雲を、打ち消すように明るい声が降ってくる。
「あ、わかる……その気持ち。私もすごくドキドキしてる」
彼女はかわいらしく小首を傾げて俺を見上げ、そう言った。とてもとても輝いた瞳をして……。
「あ……その、昨夜、パイロットたちのインタビューをニュースでやってたんだよね。寮のカフェテリアで、つい遅くまでみんなでテレビに見入っちゃって」
「ふうん、寮に住んでるの?」
「うん、14区の大学の寮……フランス語のサマークラスに参加してる。アメリカの大学から」
「あ、私もそう。夏だけの予定。でも従姉妹のアパルトマンに住まわせてもらってるんだけど」
「へえ、そうなんだ。俺ノエル、ニューヨークの大学生」
「リナよ。ニューヨークから来てる人って多いのかな? 私もなんだけど……。秋から大学生、よろしく」
俺が差し出した手を、リナはそっと握り返してくれた。すげえ、柔らかくて小さい手。
空での華麗な航空パレードと同時に、陸上での行進も始まった。俺たちの目の前には、アメリカから招待を受けた陸軍がビシッと縦横に整列して現れた。
ため息が出そうだった。
だけど彼らが登場しなかったら、きっと幕開けの三色の雲を引いていくアルファジェット機について、毎年フォーメーションが違うだの、2016年のフォーメーションはオリンピック招致のためエッフェル塔型「ラ・トゥール・エッフェル」だったのなんのと、延々とぶっちぎって彼女に呆れ返られてしまったに違いない。
パレードに見入っていたリナがつぶやく。
「あ、ちょっとおもしろいこと見つけちゃった……」
「ん、なに?」
「ほら、シャンゼリゼ通りって、中央分離帯がないの」
おお、ほんとだ! 言われてみるまで気づかなかったよ。だって、中央に木なんか植えてあったら、たとえ車両通行止めにしてあっても兵士たちは道路のどっちかに寄って行進しなくちゃならないよね、こんな風に大通りの真ん中じゃなくってさ。
普段は真ん中に信号機が置いてあったりもするけど、実はそれらはみんな可動式のコンクリートの上に設置されている。
「それはだね、歴史的にこの通りが凱旋の行進をするためにあった――という理由に深く関わっておるからだ」
突然話しかけてくる隣のおっさん。
ってか、聞いてたのかよ!?
「シャンゼリゼの歴史は……、むかしむかし偉大なるナポレオンが、凱旋門を築いたわけだ。もちろんフランス軍の凱旋にも使われたが、敵国ドイツ軍すらも、パリを攻略するたびにこの世界で一番美しい通りを行進して勝利を満喫していた……。今我々に木陰を作ってくれているマロニエの木を増殖したのもドイツ兵なのだよ」
なんか、悔しそうにつぶやくおっさん。
そう言いながらも、どこかしらパリを自慢してる感じはあるけど。
うーん、おそらく40代ぐらいって年齢から察するに、お隣の国との戦争に参加してるはずないんだけどなぁ……この人。
「ナポレオンが皇帝だった頃は、このパレードはもっと盛んだったんですか?」
リナがおっさんに訊ねた。彼女の話し方ってのが、またいいんだよ。わざとキュートに装ってるんでもないのに、奥ゆかしさみたいなものがそこはかとなく感じられるって言えばわかってもらえるかな。
「いや、意外に思うかもしれないが、彼の在位中はパレードも無く慎ましやかなものだった。第三共和政の1870年ごろになると、祭典も盛んになってきたらしいが」
とにかく今目の前で繰り広げられているのは、世界最古に始められたミリタリー・パレード、そして同時にそれはヨーロッパ最大でもある。
63の航空機、ヘリコプター29機、合衆国から招待した軍隊145人、ISIL陸軍名誉将校の隊114人、陸軍、海軍、そしてそれぞれの学校の士官候補生、警察学校のエリートたち、加えて海外派遣軍団のなんと総勢3720人が、それぞれきらびやかなユニフォームに身を包んでシャンゼリゼ通りを下って行く。
彼らはコンコルド広場に着くとぐるっと広場を回り、大統領の席に向かってシャキッと敬礼するんだよ。ああもうなんか、こう……燃えるシチュエーション! かっけぇー!
歩兵に続いて警察の装甲車や、62台のパトロール・モーターバイク、やがて軍の戦闘機たちが重々しくやってきた。
ルクレール――フランス最新鋭のタンクの名だよ。ご存知、ノルマンディー上陸からパリ入城を果たした第二次大戦の将軍の名に因んでる――が車体を軋ませながら数え切れないほど列をなして通って行く時、隣のおっさんは「ぅむむむむ……」
と睨みつけながら低くうなっていた。
コンピュータ化により高度な命中率を誇るこの戦車は、時速71kmの高スピードで走りながらの攻撃が可能だ。重さ50トン以上の戦車が石畳の上を走るとか、もう……、
いや道路を傷つけないように、キャタピラーじゃなくてタイヤなんだけれども……。
「むむむ、これは......、射程距離はおそらく3kmか」
戦慄するような武将の目で主砲を凝視するおっさん。俺もちょっと気になったんでネットにアクセスして調べて見たら、有効射程3000mとあった。
うゎ、こわ……。いったい何者なんだろうこの人。
11時30分、
241騎の騎馬隊が陸の最後を締めくくろうとする頃、空には「ガゼル」を始めとするヘリコプターの群れが姿を見せた。
コンコルド広場からは、国歌「ラ・マルセイエーズ」の合唱が聞こえてくる。
あれ? 考えてみれば、この歌詞ってずいぶん好戦的だよね。だって以前は、フランス語の意味わかんなかったから、気づかなかったんだ。
革命の時に作られた歌だから、市民の士気を鼓舞するために「武器を取れ」っていうのはわかるんだけど、「血ぬられた旗」が掲げられたとか、野獣のような兵士たちが、子供たちの喉を掻っ切るためにやってきたみたいなことが歌われている。
フランス国内で起きた革命は、隣接する国々との戦争へ発展していったから、この民を襲う兵士ってのはいまだ君主制の外国の兵士たちのことだ。
まあそれくらい、鬼気迫る状況だったんだろうね。
自分たちの家族を、未来を救うために専制君主制度を変えんと立ち上がったシトワイエンやシトワイエンヌたちの歌――そのラ・マルセイエーズも。君主を倒せという歌詞のために、ナポレオンの帝政下では禁止されていたらしい。
11時55分、
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