超ゲーム初心者の黒巫女召喚士〜動物嫌われ体質、VRにモフを求める〜

ネリムZ

文字の大きさ
83 / 101
黒巫女召喚士と暴食の悪魔

83

しおりを挟む
 ベルゼブブの人形は形を変えて背中から触手のような細い物を形成してわたしに向かって動かす。
 わたしはそれをステップしながら躱して回転して遠心力を乗せて鎌を横薙ぎに振るい胴体を斬り飛ばす。
 人形はベルゼブブとは雲泥の差で斬るのは容易いし1度真っ二つに斬れば魔力となり消えるので倒すのも簡単だ。
 さらに動きも鈍いので避けるのも簡単だし接近も用意。
 そして人形の殲滅を終わってベルゼブブに視線を向けると魔法を躱したり盾で受け流したりしてベルゼブブとの格闘も行い、隙を見ては攻撃している剣士骸骨を見る。

「ダメだな」

 剣士骸骨の動きが良くでどのタイミングで参戦するべきか分からない。

「急がないと」

 もうすぐわたしに切り替わってから1時間が経過してしまう。
 嫌な感じが滅茶苦茶増して喉辺りまで来ている感覚だ。
 後、ちょっとした捻りさえあれば溢れ出て来そうな、そんな感じだ。
 だけど、焦りは禁物だ。
 相手は強者であり仲間も強い。
 だが、そこに自分が入ると仲間の足を引っ張り自分の動きも悪くなる。
 寧ろこのまま見守って終わる方が良いのではないだろうかと考えてしまう程に。
 だけどそんな流暢な時間は今のわたしには存在しない。
 急いで倒さないといけない。だけどベルゼブブは素早く硬くそして強い。
 悔しいが今のわたしでは速攻で倒せない。
 でも、負けるのは嫌だしわたしの出て来た意味が無い。

「畜生」

 どう考えてもわたしでは仲間と共闘してベルゼブブと戦う事が出来ない気がして成らない。

「わ~ん?」「にゃ~」「ギャラ~」「きゅ~ん」
「はは、まじかよ」

 まさかハク達にも心配されてしまうとは。
 そんな顔していたのかよ。情けないね。
 でも、撫でようとすると逃げるのは変わらないようだな。

『そうだよ。私達には皆が居るよ』

 そんな脳内メッセージを受け取る。

「うそ、だろ」

 掠れながらそんな言葉を漏らす。
 頑張って来て、ここまで来て、そしてゲームでこうなった。

 わたしは鎌を杖のように地面に刺し両手で凭れ掛かる。

「ここまで、来たのに。ここまで、来れたのに」

 ゲームの精神状態が一定値を観測してわたしの目から涙が零れ落ちる。

 皆の心配そうな顔が深まり何声も弱く成って行く。
 だけど、そんなのが耳に通る事は無かった。

「全部、思い出したのか?」

 ここまでやって来て。そして隠して来て、ゲームでわたしが再び来て、また来て、また来て。そして目覚めるとか、まじ無いわ。

『うん。全部、思い出したよ』

 わたしが頑張って記憶を消して来たのに。

『そうだね。桃ちゃんの事、初心者狩りの事、バグ乱用の人』

 全部、無駄に終わったじゃあねえか。

『そうかな?』

 嗚呼《ああ》?

『私はそうは思わないよ。確かに君のお陰で私は嫌な記憶を忘れて楽しくゲームをしていました。だけどね。桃ちゃんの事を忘れてのうのうと生きて居た事に私は悲しい気持ちに成ったんだよ?』

 ⋯⋯⋯⋯。

『でもね。私は貴女に対して思うのは感謝しかないよ。私の為に頑張ってくれてありがとう。ネマちゃんの事ありがとう。ハクちゃん達の事ありがとう。もうね。1人?で背負わないで。私はわたし。わたしは私なんだから』

 背中から誰かが抱き締めて来るような温かみを感じた。
 母親が泣く子を慰める為のような、そんな温もりを感じる。

 わたしの涙は次第に勢いを増して行く。

「畜生」

 そう呟いた。
 1人で背負うな、か。
 はは、私らしいな。
 ベルゼブブに勝ちたいと思う気持ちは、同じか?

『そもそも私からだしね!』

「そっか」
「ワン!」「ニャン!」「ギャラー!」「コン!」

 皆を見ると決意のような覚悟の火がその瞳に宿っていた。
 私も言いたい事や思っている事はあるだろう。
 だけど、今は後だ。

『答えは決まった?』

「嗚呼、そうだな。もう、全部1人で解決しようと言う理念は捨てるよ。でも、まさかこんな日がゲームの中で起こるとはな」

『凄いよね~』

「そうだな」

 第三者から見たら独り言で会話をしている人にしか見えない。
 だけど、そんな人は居ない。
 皆共通の敵、ベルゼブブに集中しているからだ。

『行きますか』

「そうだな」

『「こっからが本番だよ(だ)!」』

 体を操作するのはわたし、全体を確認するのは私。動きを制限して脳内ですぐにそれを処理する。
 体や脳は共通している。ただ、中身が2つあるだけだ。
 それが普通じゃない事は分かっている。でも、そんなのは関係ない。
 今重要なのはベルゼブブに勝つか、倒すかだ。

「ネマちゃん達、行くよ!」

 皆からの咆哮を聞き届け地を蹴りベルゼブブに接近する。
 剣士骸骨は前方からベルゼブブを相手にしているのでこちらも正面から行く。
 跳躍して剣士骸骨の上を通り剣士骸骨の剣がベルゼブブの弱点を斬り裂いた瞬間に鎌を振るう。
 そしてベルゼブブを足場にして高く跳躍してマナちゃんにキャッチして貰う。
 そしてネマちゃんが攻撃して剣士骸骨の股を潜り後ろに下がる。

『邪魔を【ダークダート】』

 ダーツに使う矢が黒紫で生成される。

「ハクちゃんは剣士骸骨さんに防御バフ!」
「コン!」

 剣士骸骨が跳躍して私達に向けられて放たれたダートを盾で防ぐ。
 地面に着地してベルゼブブに接近して鎌を横薙ぎに振るい跳躍する。
 剣士骸骨が私の下から剣を横に振るい攻撃を当てる。
 そして師匠のお父さんからの魔法も放たれベルゼブブは回避行動を取る。

『全く、今度はなんなんだ』

 ベルゼブブは私の動きが変わった事に混乱しているようだ。
 ネマちゃんを背中に忍ばせてベルゼブブに接近する。
 そして鎌を振るうがベルゼブブは鎌を右手で掴む、背後からネマちゃんが飛び出て来て弱点に引っ掻く。
 ベルゼブブは鎌から手を離してネマちゃんに向かって拳を振るう。
 心苦しいがネマちゃんを鎌で回収して抱き寄せて後ろに跳躍して着地する。
 入れ替わるように剣士骸骨が接近して剣を振るう。

『んー体だけを動かすって変な気分だな』

 うん、確かに自分も意識と口だけを動かしているので変な気分だ。
 二重人格の人ってこんな気分なんだろう。

『いや、こんなケース滅多にないぞ?わたし達絶対レアだよ?それにゲームでこうなっているし』

 そうだね。
 ベルゼブブに集中しよう。

『そうだな』

 私達は鎌を構え直してベルゼブブに接近する。
 駆けた時の勢いを鎌に乗せてベルゼブブに振るう。
 合わせてネマちゃんも攻撃して互いの方向に大きくステップする。
 その分かれ目に剣を振るう剣士骸骨。
 ベルゼブブのHPはあと少しで3割減る事に成る。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。 ─────── 自筆です。 アルファポリス、第18回ファンタジー小説大賞、奨励賞受賞

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。

branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位> <カクヨム週間総合ランキング最高3位> <小説家になろうVRゲーム日間・週間1位> 現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。 目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。 モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。 ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。 テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。 そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が―― 「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!? 癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中! 本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ! ▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。 ▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕! カクヨムで先行配信してます!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

処理中です...