【完結】国で一番かっこいい騎士の伴侶に選ばれてしまいました

  *  ゆるゆ

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息が

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 シァルが『伴侶になってほしい』言ってくれてから、セィムの頭はずっと、ぽわぽわしていた。

 16年頑張ってきた窓口業務でさえ、口元ではいつもの穏やかな笑みを浮かべながら、終業の時間だけを気にしていた。


 あと半刻。

 あとすこし。

 数えれば数えるほど、時は熱した飴のようにのびてゆく。


 もうすこしで、シァルに逢える。

 とくとく駆ける胸で、傾く陽を見あげていた。


 一緒に暮らしているのに夕暮れには焦がれるほど逢いたかったシァルの傍にゆけるのも、今日で最後だ。


 思うだけで胃は引き絞られ、冷たい汗が背を伝い、指がふるえた。

 まるで、中毒だ。

 シァルが隣にいてくれた日々は夢だったと思っているくせに、シァルの隣にいられなくなる日々に、死にそうだなんて。


 血の気が、ひいてゆく。

 寒い。

 指のふるえが、止まらない。


 …………は、きそ、う……


 ぐらりと傾くセィムの視界を支えてくれたのは、同期の腕だった。


「おい、だいじょうぶか、セィム」

 同期で上司なロイ部長が、卒倒しそうなセィムを抱きよせて、眉をひそめる。

 ぼんやりセィムは唇をひらいた。


「こわれてる」


 ぽかんとしたロイが、セィムを落ちつかせるように、背をぽんぽんしてくれる。

「……いや、大丈夫だ、まだ存在してる」

 なぐさめるように背をなでてくれるロイが、意外に、やさしい。


「もう、大丈夫だ。ありがとう。すまなかったな」

 腕のなかから身を起こそうとしたのに、意外にたくましいロイに止められた。

「いや、急に動くと、まためまいがするぞ。
 しばらくこうしておけ」

 ぽんぽん、背をたたいてくれる。

 幼子に戻ったように、セィムはそっと目を閉じた。


 シァルとちがう、ぬくもりだった。
 シァルとちがう、香りがした。


 シァルの腕じゃない。
 シァルの胸じゃない。


 ──……あなたじゃ、ない。


 思うだけで、涙が、あふれそうだなんて。

 今までが、夢だったのに。

 ありえないことだったのに。


 一瞬でも、あなたの傍にいられたことは、たとえようもない僥倖なのに。


 なくなったら、死んでしまいそうだなんて。



 嗚咽がこぼれそうで、唇を噛みしめたセィムに、低いロイの声が、降ってくる。

「……その、セィム、毎日シァルさまが迎えにいらっしゃるよな」

 セィムは目を開いた。

 視界に映るロイに絶望するなんて、ただめまいを起こした同期を抱きとめてくれただけの、やさしい上司に申しわけなくなりながら、セィムは唇をひらく。

「ロイにも幻が見えるのか」

 おかしい。
 セィムの脳内限定の夢ではなかったのか。

「いや、幻はあんなにキラキラしてないだろう」

 セィムを腕に抱いたまま、ロイは吐息した。

「国務院は納税だのややこしい庶務を司る、お堅いお役所なんだ。シァルさま目当ての民が『きゃー♡ きゃー♡』する場所じゃないんだよ!」

 わざわざ言われなくても知っているよ、ロイ。
 勤続16年をなめるな。

 言わなくても伝わると思ったので、ただうなずくに留めた。

「そうだな」

 せっかく肯定したのに、ロイは『まるでわかっていない』と言いたげに鼻を鳴らす。

「セィムのせいで、国務院の業務が滞ってるんだ。皆、シァルさましか見ないから!」

 ………………?

「いや、それは俺のせいではなく、シァルのせいでは……」

「呼びすてたぁあァアア──!」

 耳を塞いだセィムに、ロイは切なそうに眉をさげた。

 ……ちょっとひどかったか。すまん、ロイ。
 しかし耳元で大声は止めてくれ。

 ……耳元……?


「ロイ、もう大丈夫だ。しばらく経った」

 身を起こそうとするセィムを、ロイの腕が押しとどめる。


「……ロイ?」

 顔をあげたセィムに、もごもごロイは口を動かした。


「……いや、俺もセィムは意外に顔がいいんじゃとか、真面目なふりして可愛いんじゃとか……思ってた。シァルさまがいらっしゃってから最近なんか、つやつやしてるし、色っぽくなってきたし……」

 ごくりとロイの喉が鳴る。


「シァルさまに遊ばれるくらいなら、俺にしておかないか?」


 ………………………………。


「…………は…………?」

 セィムの開いた口が、塞がらない。

 今まで、艶っぽい話とは無縁だった。
 色恋など知ることなく、ひっそり息絶える人生なのだと思っていた。

 なのに、突然、同期な上司に、今、何を言われた……?


 茫然としたセィムの口は、セィムの頭よりはやく、まるでいつもの窓口業務をこなすように的確な返答を叩きだした。


「何を言っているんだ、かわいい伴侶がいるくせに」

 セィムの突っこみが、地を這った。


「ぐぅ……!」

 刺さったらしい。

 窓口業務を16年こなしてきてよかったと思ったのは、初めてかもしれない。


 ──よくやった、セィム!


 せっかく、自分をほめても。

 胸を、張れるようになっても。


 ……喜んでくれる人は、もう誰もいないのかもしれない。



 うちひしがれるのは、まだ少し早かったらしい。

 同期で上司で意外にたくましいロイが
 
「いや、うん、そこはほら……」

 もごもごしてる。


 ──そこはどうするというんだ、言ってみろ!

 じゃなかった、聞いたらだめなアレだ!

 色恋には無縁だが、恋愛小説はめちゃくちゃ読んでいるセィムの目が鋭く細くなる。


「おい、ロイ。それ以上言ったら、クズ男認定するぞ」

 切り裂くようなセィムの声に、ロイが哀しげに眉をさげる。


「えぇ──! い、いいじゃないか、古くからの知り合いなんだし、ひと晩くらい、誰にもバレないって──」


 まさかこんなに身近に、恋愛小説で大変おなじみの、常に生息しているクズ男が、存在していたなんて……!

 同期でも上司でもやさしく介抱してくれた人でもなく、クズ男を見る目になったセィムのうえから、声が降る。


「へぇえぇえ。国務院では業務中に、伴侶のある上司が、恋人のいる部下を口説くんですね。知りませんでした」

 氷の声に、音をたてるようにロイが固まった。

 その腕のなかにいるセィムを見る目が、凍てつくように冷たい。


 刺されたセィムは、ぎゅっと唇を噛む。

 ロイは、そっと、セィムを解放した。

「その、セィムくんが、めまいを起こしたから、支えただけです」

 救国の英傑に睨みつけられたロイの声が、ふるえてる。


 セィムの指も、ふるえていた。

 いつもやさしい空の瞳が、射るようにセィムを見ていた。

 ……まるで、仇を見るように。


 もう、あきたから……?

 ……もう、いらなくなったから……?


 ふるえる唇を、セィムはひらく。


「ごめん、シァル、まだ終業までに時間があって」

 声も、ふるえた。



 ……シァルはきっと、一刻も早く別れたいのだろう。


 いや、別れるという言葉は正しくない。

 (仮)だ。

 恋人だなんて、ありえない。




 畏れ多いシァル、近づくことさえできないシァルに戻るだけ。


 それが、あたりまえなのに。




 息が、できない。













────────────────

 ずっと読んでくださって、ありがとうございます!

 せっかくのシリアスな感じをぶち壊すようで申しわけないのですが、
 一瞬ですが(笑)HOTランキング7位、24hポイントBLで1位、ほんとうにありがとうございます!
 更新したしばらく後くらい? だけ、ぴょこんとあがるみたいです?(笑)
 今は9位と2位かな?(笑)ありがとうございます!

 ノィユときーちゃんに続いて、セィムが!
 16年窓口業務、眼鏡のセィムが……! 読んでくださったあなたさまのおかげで、一瞬でも(笑)1位をいただくことができました。

 セィムみたいに夢でも見てたんじゃないの!?(笑)という方は、もしよかったらインスタ @siro0088 をご覧ください!(笑) いちおう証拠を撮ったのです、ほんとに幻だと恥ずかしいので……!(笑)

 お気に入りに入れてくださった方、いいねくださった方、エールやご感想で応援してくださった方に、感謝の気もちでいっぱいです。
  BLoveさままで行ってくださって、お気に入りやいいね、投票してくださった方にも、ほんとうにありがとうございます!

 号泣のセィムといっしょに(笑)心から御礼申しあげます。


 セィム「あぅあぁあ……!」

 シァル「わかったから、落ちつこうね、セィム。ほら、皆さまに御礼を」

 セィム「……あ、ありが、ど、ござぃ……うぁあぁあん……!」

 あふれる涙と鼻水をふいてあげるシァル(笑)

 シァル「ほんとうに、ありがとうございます。セィムといっしょに、とてもとても、うれしいです。ね、セィム」

 セィム「ばい! あ、あり、がど、ござりまじゅ……!」


 止まらない号泣(笑)

 眼鏡をはずしたセィムを、シァルがいっぱい抱っこして、なでなでしてくれると思います!(笑)






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