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空飛ぶ、お家
しおりを挟む一緒に暮らすことになった、ひきこもりの伝説の魔導士キュトたんのお家が、
朝の光を切り裂くように、人界の果てから飛んできた。
「ほええー!」
空飛ぶ家!
すげえぇえええ!
あんぐり口を開ける僕の隣で、クロはぶんぶん尻尾を振って、ゼドも
ジァルデまで目をまるくしてた。
エォナは勇者の村に帰っている。
空飛ぶお家、見せてあげたかったな。
栗色の目がきらきらして、可愛かっただろうな!
残念だけど、仕方ない。
お兄ちゃんチチェとの暮らしも、勇者の村の復興も、大切だからね。
ドォオオオォオオンンン――――――!
爆音と土煙をたて、魔王のお家の隣に、藁ぶきのお家が建った。
魔王のお家より古びた感じの土壁の家の屋根には草が生え、白い花が
風に揺れる。
「かわいー!」
僕とクロが跳びあがる。
「す、げえな」
ジァルデの感嘆に、目を見開いたキュトが、赤くなってふわふわ笑う。
「時魔のきみに褒めてもらえるなんて、光栄です」
「おもしろくない」
ふくれるゼドのもふもふの手を、ジァルデの手が握る。
ふたりそろってほんのり赤くて、見てるだけで、顔が熱くなるよ。
ぴぴらっぱっぱっぱー!
魔王さまのお家の隣に、伝説の魔導士のお家が建ちました!
魔山羊のお兄ちゃんとお母さんは、よくお外に魔草を食べに行ったりしてる。
クロは、勇者の村の往復とかで、お出かけしてる。
魔王さまとジアの愛の巣に延々お邪魔してるのは、僕だけみたいだよ。
全力でごめんなさい!
皆の尊敬の視線に、ほっぺを赤くしたキュトが、家の中を案内してくれる。
千年前に建てたのかな、丸みを帯びて古びた家は、なつかしい、やさしい匂いが
した。
家のなかには、所狭しと本や薬草、不思議な鉱物が並び、主のキュトの帰還を
歓迎するようにきらめいた。
天井にまでそびえる書棚が、家の壁を埋めている。
なかに詰まるのは、満ちる魔力に揺れるように輝く、魔法の本だ。
「僕の蔵書と研究素材が多過ぎて、中身を運ぶより、家を移動してみたんだ」
皆の尊敬の視線が、ますますきらきらになって、ますます赤くなったキュトは、
家の最奥の扉を開ける。
見たこともない魔道具がいっぱい詰まった部屋の奥の机のうえで、てのひらに
のるほどの魔道具がきらめいた。
「これがきみの魔力の跡を追う魔道具。
これを、エルフの血を追う魔道具に変換すれば、世界中に散ったエルフが
追える」
「おお!」
拍手する僕と、尻尾をぶんぶん振るクロの隣で、ジァルデが眉をあげる。
「エルフの血を追うためには、エルフの長の血が要るんじゃないか?」
ジァルデの柘榴の瞳を見あげたキュトは、片目を瞑った。
「……えへ☆」
――――要るらしい。
レトゥリアーレさまの血が!
「ステータス、オープン!」
伝説の魔導士のお家で、久しぶりに叫んでみました。
フォン
ちいさな音がして、透明な画面が目の前に現れる。
『ロロ・ルル 闇の申し子
人間として生まれたが、瀕死の魔力枯渇から魔山羊の乳で回復したため、
ほぼ魔族。
闇の魔力が強すぎ、他の魔法は使えない。
鼻の血管は弱め。
称号 クロのともだち レトゥリアーレの愛し子 ジァルデの愛し子
魔王の愛し子 魔山羊のお母さんの子 魔山羊のお兄ちゃんの弟 チチェの溺愛
エォナの溺愛 勇者の村人の敬愛 ツアー客の敬愛 魔物軍の恐怖 悪魔の御子
キュトの寵愛』
「な、なんか怖い説明になってる! うえに要らない鼻の血管情報がある!
モブなのに、称号めちゃめちゃ増えてる!」
そしてやっぱり、モブだからか、HPもMPもスキルもチートも何にもない。
しょんぼりだ。
きっとあると思うスキルを確認したかったのに、ステータスには、ない。
しかし、僕のモブパワーが告げている!
僕にはきっと、世界で一番むかつくモブパワーがある!
僕は、やって来てほしくない時にやって来て、言わないでほしいことを言う、
鬱陶しさ世界一のモブだ。
ボス戦の後とか、廃墟の扉の向こうとか、オークション会場の裏口とか、なんで
こんなとこに出てくるの? というところに、ちょろっと出て来て、すぐ消える。
もんのすごくむかつくのに、絶対に、ぽこれない。
ということはー!
モブなので、スキルもチートも全く表示されませんが。
僕には、レトゥリアーレさま探索機能がついているはず!
行きたければお傍にゆける、最強のストーキング機能が!
「ふんぬぬぬぬ!」
闇の魔力を振り絞る!
頭の血管が切れそうな僕の前に、
フォン
ちいさな音を立て、向こうが透ける画面が現れた。
「で、出た!!」
画面に映るのは、澄み渡る蒼の瞳に、流れ落ちる銀糸の髪の――――
「レトゥリアーレさま!
現在地は――…………あれ?」
おそるおそる、僕は、キュトのお家の扉を開ける。
「や、やあ、ルル」
レトゥリアーレさまが、ちょっと照れた顔で立っていた。
「えェエエえええ――――!」
仰け反る僕に、キュトが頷く。
「跡をつけられてたのは、きみだったね☆」
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