【完結】最愛の推しを殺すモブに転生したので、全力で救いたい!

  *  ゆるゆ

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なつかしのエルフ

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「こんなに人の沢山いるところに住んでるんだね」

 ごちゃごちゃの人波に、僕はぽかんと口を開ける。


「多くの人がいれば、攻撃しにくいからな。
 人里離れたところに住んでいると、すぐ殺されると思ったんだろう」

「なるほど」

 レトゥリアーレの言葉に頷きながら、人込みを掻きわける。

 キュトが作ってくれた魔道具はとても優秀で、すぐにエルフの住処を教えてくれた。



 エルフの気配は、すぐわかる。
 最愛の推し、レトゥリアーレに、似ているからだ。

 大きな街の大通りを抜けて裏道を何本も入った、目立たない平屋の住まいで、探査機はちかちか光を放った。


 ノックして訪問だと、居留守を使われたり、面倒なことになるかもしれない。

 だって、僕、悪魔の子って言われてるんだよ。
 まともな対応は望めない。

 と、いうことはー

 強行突破だ。


 扉に手を掛けた僕の指が、止まる。

「わあ!」

 ビ、ビリビリする──!
 な、何これ!

 びっくりして手を離したら、慌てたようにレトゥリアーレが大きな掌で包んで、僕の痺れた手を癒してくれた。


「すまない、私が開ければよかった。
 大事ないか、ルル」

「だ、だいじょうぶです!
 ちょっとびりっとしただけだから!」


 大丈夫じゃないのは、顔の近さです!

 近い近い近い────!!
 麗しのご尊顔が近すぎる────!!


 鼻血を噴いて倒れそうな僕を、ぽふりとクロが支えてくれる。
 キュトがふくれて、レトゥリアーレは忌々し気に扉を睨みつけた。


「エルフ以外には開けられぬ鍵だ」

 レトゥリアーレが扉に手を掛ける。
 不思議な銀の紋様が浮かびあがり、エルフの長の前に、あっさり扉は道を開いた。



 部屋は薄暗かった。
 窓が雨戸まで締め切られている。

 古びた木造の部屋のなかには、角の円くなった机と椅子が2脚置かれてあった。
 片方の椅子に、エルフが腰かけている。

 腐った果実の匂いがした。


「だ、誰だ!」

 椅子からエルフが跳びあがる。

 キュトとレトゥリアーレを押さえ、僕は前に出た。


「お久しぶりです、タズェさん」

 死ねと嗤って、僕に毒を飲ませたエルフだった。

 なつかしいも、憎しみも、怨みも、何も湧かない、静かな声が出たことに、安堵した。


 僕は、もう、鬼じゃない。
 言い聞かせるように、指を握る。


「タズェ、どうした!」

 部屋の奥の扉が開いて、エルフが飛び込んでくる。

 タズェの兄、ロズェだ。
 僕の腕を、粉々に砕いたエルフだ。

 目深に被ったフードを取り払った僕に、タズェもロズェも目を剥いた。


「あ、悪魔の子────!」

「ば、化け物──……!!」

 赤ちゃんのはずが、16歳になってたら、びっくりすると思う。

 納得しかけた僕を守るように、レトゥリアーレが前に出た。



「そなたらは、ルルの殺害を図ったな」

「れ、レトゥリアーレさま──!」

 跪こうとするロズェを、タズェが制した。



「こいつは、俺らエルフを捨てたんだ────!」


 タズェの叫びに、ロズェの顔が歪む。

 エルフたちに睨みつけられたレトゥリアーレを背に庇い、僕は前に出た。



「二百年もエルフを守り、皆を生かそうとしたレトゥリアーレさまの御心を、なぜ疑うのですか。
 エルフが危難に曝された時に助けようと、こうしていらっしゃったのに──」


「悪魔の子を育てる者など、エルフじゃない────!」

「お前が、レトゥリアーレさまを誑かしたんだ!」

「悪魔に誑かされる者など、ダークエルフだ!!」


 唾を撒き散らし、エルフたちは、僕を、レトゥリアーレを蔑んだ。


 僕のことは、何を言われても、仕方ないと思う。
 悪魔の子は、ちょっとさみしいけれど。
 魔王と繋がる闇は怖いという気持ちは、理解できる。
 だから、平気だ。


 でも、レトゥリアーレを嘲る輩は、ゆるせない。


 キレそうになる僕から、闇の魔力が噴きあがる。


「あ、悪魔め────!!」

 叫ぶエルフたちの芳しいはずのかんばせが、歪んでいる。


 誰かを悪し様に蔑む顔は、みにくい。
 その心を、映すように。


 ブチギレるのを何とか堪えた僕は、キュトが作ってくれた魔道具を取り出した。


「危機が迫った時、ここを押してください。
 ……助けに来ます」

 気が向いたら。

 口のなかで思わず呟いて、手渡そうとした魔道具が、払われた。
 古ぼけた床に叩きつけられた魔道具が、硬い音を響かせた。


「穢らわしい──!」

「悪魔の施しなど、誰が受けるか!!」

 タズェとロズェが叫んだ瞬間だった。



 その心臓から、切っ先が飛び出した。

 銀の刃から、赤い血が、滴り落ちてゆく。


「ぐ、ぁ──……!」

 一瞬でエルフたちの背後に回ったキュトの双剣が、ふたりの心臓を貫いていた。


「キュトたん──!」

 悲鳴をあげた僕に、キュトは紫紺の瞳を眇める。


「僕はさあ、お話のなかでさえ、僕が大切に思う人を殺そうとした輩が、恩赦を受けて、のうのうと生き延びて、げへげへ笑って、また殺しにくるのが、大っきらいなんだよね」


 氷の声だった。


「僕のひめさまを殺そうとしたくせに、なんでそんなに偉そうなの?
 ゆるされると思ってるわけ?
 僕のひめさまに暴言吐いて、生きてゆけると思ってるの?
 反吐が出るほど、甘いなあ」


 紫紺の瞳が、凍てついた。


「れ、トゥり、あ、レ……さ、ま…………」

 伸ばされた、ロズェとタズェの手を、レトゥリアーレの蒼の瞳が見つめる。



「私に長年仕えてくれたことには、礼を言う。
 だが我が最愛のルルを殺そうとした、そなたらには、殺意しかない」


 蒼の瞳が、冴え凍る。


 心臓を貫かれたエルフたちの瞳が、絶望に染まった。










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