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もふもふ弟と、もふもふ兄

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 ジァルデは、勇者兄チチェと、ちいさな勇者エォナを見つめる。


「増えたから、食いものどうするかなって思ってた。
 獣人たちは疲れてるから、エォナとチチェが頑張ってくれたらうれしー」


「めいっぱい働きます!」

「ぼ、僕も頑張ります!」

 チチェとエォナが手を挙げる。


「わ、我ら、がんばる!」

 まだ人型を取れない獣人たちが、もふもふの手を挙げてくれるのに、ジァルデは
首を振った。


「今、大切なのは、休むこと。
 無理をすると、また壊れる。
 攫われた獣人たちは、今魔王軍が捜索してる。
 復興も魔王軍が手伝うと約束しよう」


 見開かれた獣人たちの瞳が、泣きだした。


「困った時は、お互い様だ」

 もふもふゼドが重々しく頷いて、ジァルデがちいさく笑う。


「魔王さま、かわいーね」

 ほわほわ赤くなったゼドは、ジァルデの手を握った。

 ぽふぽふゼドを撫でたジァルデは、きゅるりと銀煤の爪をひるがえす。

 一瞬でジァルデの手のなかに現れた、いかめしい書を掲げる。


「グィザは王子だな、魔王国との親善条約の締結を」

「弟!」

 グィザに呼ばれたグィザの弟が、前に出る。
 ちっちゃな胡桃色の虎の、しまの尻尾がふわふわ揺れた。

 ちょこちょこやってきたグィザの弟が、グィザの手を握る。


「グィザにいちゃ、王。
 かかさま、遺言」

 琥珀の目を瞬いたグィザは、振り返る。


「兄!」

 のしのしやってきた、おっきな胡桃色の虎の兄は、首を振った。


「グィザ、がんばった。
 私、補佐」

 グィザは、首を振った。


「弟と兄、ふさわし。
 私、ひめさま、傍に」


 微笑んだグィザが、胸に手をあて、僕の前に膝をついてくれる。

 跳びあがった僕は、首を振った。


「誰が王になっても素敵だと思うけど、グィザが王にならない理由が、僕は、
だめ!!」

 きょとんとしたグィザは、頷いた。


「王、身分、不要。
 みな、同じ」

 グィザの言葉に、グィザの弟と兄は目を瞬き、集まってきた獣人たちが、
さわさわする。


「我が、王、獣人、王家、身分、終える。
 それでも?」

 聞いたグィザに、獣人の皆と、グィザの弟と兄は、そろって前足を胸に、
こうべを垂れた。

 ぽふぽふ、クロが前足で拍手して、獣人さんたちの、ぽふぽふ拍手が広がって
ゆく。

 ほんのり眦に朱を刷いたグィザは、皆の拍手に、胸に手をあて、頭を下げた。


「ありがと」

 ほのかに笑うグィザのふわふわの耳が赤くて、めちゃくちゃかわい――!!


「ひめさま、傍に」

 めちゃくちゃかっこいー、凛々しいかんばせで、照れくさそうに、うれしそうに、微笑んでくれる。


「いやいやいや、変わってないよ!」

 あわあわする僕の隣で、レトゥリアーレが拗ねる。


「ルルは、想われすぎる」


「まったく全然そんなことないです!!」

 風磨を指した僕に、レトゥリアーレはちょっと納得しかけたのを振り払うように吐息した。


「あれは特殊だ」


 いや、あれが正常だよ、たぶん!










 グィザは白虎、グィザの弟と兄は胡桃の虎で、並ぶとめちゃくちゃかわいい。

 弟と兄はまだ人型を取れないみたいで、虎の姿で仲良くしてるのが、見てるだけで、ほわぁああああ――! っていうくらい可愛くて癒される。


「はー♡ かわいー♡」

 もだもだしてる僕の隣で風磨も、

「はー♡ かわいー♡」

 ♡の目をしてた。


 愛するものは、とても一緒なのに、相性のわるい僕ら。
 いや、風磨が一方的に僕をきらいなんだけど!

 しょんぼり。

 いや、なんか、聞いたことあるな。
 愛する男が一緒の人とは、仲良くなれないって。

 もしかして、これか!



 ちょっと理解した僕の前で、弟を抱っこしたグィザと、グィザの頭をなでなで
する兄が、めちゃくちゃ可愛い。

「グィザ、かわい♡」

 おっきな虎さんが、ぽふぽふ尻尾を振って、

「グィザにいちゃ、かわい♡」

 ちっさな虎さんが、きゅう、と、グィザに抱きついた。


「いや! 弟と兄が可愛いから!」

 虎さんたちを、もふろうとするのに、虎さんたちに、もふられてるグィザの、
ぴこぴこ戸惑う耳と尻尾が、かわいー!

 きゅ、尻尾を握られたグィザが、真っ赤になって跳びあがる。

「お、弟! そこは……!」

「にいちゃ、だいすき♡」

 ぎゅう、とグィザに抱きついて、尻尾をはむはむする、ちっちゃな弟は、確信犯だと思う。

 真っ赤な顔で、わたわたするグィザ、かわいいよ、グィザ!


 でも、弟と兄が人型を取れない理由が、傷つけられ過ぎたから、だから、
思うだけで痛い。


「……僕、何にもできないね」

 零れた声に、弟も兄も、跳びあがって首を振った。

 虎だから跳びあがるとすんごいよ!

 高い!
 ふんわり!
 お月さままで跳べそう!


「ひめさま、一番酷い、殺してくれた」

「一番辛い、してくれた」

「ありがとう」


 ふたりのふわふわの手が、僕の手を握ってくれる。


「ひめさま、恩人」

「ひめさま、ありがと」


 見ていた獣人さんたちも、ちょこちょこやって来て、ふわふわの手で、僕の手を
握ってくれる。




 僕の指は、夜になると、かすかに震える。

 噎せ返る血の匂いを、人を殺す感触を、忘れることはない。




 僕のしたことは、赦されないことなのかもしれないけれど。



 あったかい手を握り返す僕の目から、涙が落ちた。









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