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世界一むかつくモブ (*)

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 囁いた瞬間、檻の前に躍り出た。

 鋭く伸ばした闇の刃を、振りかぶる。


 二撃――――!

 ズァビエが放つ、闇のいかずちが、頬を裂く。


 三撃――――!

 ズァビエが放つ、闇の爆発に、吹き飛んだ。


 受け身を取ったクロが、一瞬で僕を乗せ、瞬時に檻の前に躍り出る。


 突撃する僕に、闇の檻が、幾百の棘となり、襲い来る。
 空中で旋回しながら叩き斬り、檻の中央へと伸ばした刃を叩き込む。

 いかずちを躱し、抜いて下段から斬りあげ、
 爆発を掠め、上段から振り下ろす。


 ガギャギギギ――――!!

 僕の渾身の一撃さえ、闇の檻は涼し気に跳ね返した。

 飛ばされても、飛ばされても、クロは僕を乗せて、突撃してくれる。
 闇のいかずちを掻い潜り、闇の爆発をすり抜け、檻の前に躍り出た。


 振りあげる刃が、震えた。

 硬すぎる闇の檻に、肩が、痺れる。

 闇の魔法に抵抗する魔力が、切れてくる。


 目が、霞んだ。

 落ちそうな速度を、上げる。




 ジアは、僕を、たすけてくれた。

 僕は、ジアを、たすける――――!



 闇の刃を、振りかぶる。


「あぁァアアアア――――!!」


 打ちつける闇の刃が、漆黒の光となり、闇を翔る。



 百撃――――……!!!


 骨が、軋んだ。

 肉が、裂ける。

 血が、飛んだ。



 激痛を振り切るように、僕の全魔力をのせ、叩き斬る。


 ガギャギャギャギギギィィイイ――――――!!


 悲鳴をあげるように、闇の檻が、罅割れた。


 正面から突っ込んだ僕に、

「死ね――――!!」

 ズァビエが、嗤う。


「ギァリディゼクス」

 僕の目の前で、闇が、爆発した。



 ドァアアオオォォオオンン――――――!!


 膨れあがる闇が、僕を呑む。



「ルル――――!!」

 レトゥリアーレの悲鳴が


「ろー!!」

 ゼドの叫びが


「ひめさま!!」

 キュトとグィザの嘆きが、聞こえる。



「…………ひめじゃないよ」

 闇の爆発に呑み込まれた僕は、まだ生きていることに、目を瞠る。


 叩きつけられた闇の力が、僕の軋んだ骨を、裂けた肉を、散った血を、
失った魔力を、蘇らせてゆく。



 びっくりした僕は、ちいさく笑う。

 ああ、そうだ。

 僕は、世界一むかつく、モブだった。



「な――――……!?」

 引き攣って、後退るズァビエに、嗤った。


「僕はねえ、世界一むかつくモブなんだ。
 どんなにむかついても、ぽこれない。
 モブガードに守られた、闇の申し子。
 闇の力は、僕の糧に」


 僕の目は、世界一むかつくモブらしく、ズァビエを睥睨する。



「お前は僕を、殺せない」



 僕を殺すのは、レトゥリアーレだから。



 ズァビエの魔力を吸った僕の指から、闇の力が溢れてく。



「ジアは、僕を、救ってくれた。
 僕は、ジアを、たすける――――!」


 噴きあがる魔力に、闇の刃が、硬く、鋭く、研ぎ澄まされる。

 クロが駆けた瞬間、すべての魔力を注ぎ、渾身の力で、振り抜いた。


 罅割れた檻を砕いた闇の刃は、次の瞬間、ズァビエの首を飛ばした。







 闇の世界が、壊れてく。


「ジア――――!!」

 闇の力がほどけ、拘束具が砕け、崩れ落ちるジァルデを、駆け寄ったゼドが
抱きとめる。

 ジァルデの柘榴の瞳が、ゼドの瞳に焦点をあわせ、歪んだ。


「…………殺し、て……」

 ふるえる声に、目を剥いたゼドが叫ぶ。


「大丈夫だ、ジア!!
 こんなこともあろうかと、伝説のえっち魔導士にお願いしただろう。
 俺以外が、ジアに挿れようとすると、折れる!
 未遂は、なかったことだ!!」


 あ、それ、果てしなく心折れるのだ!

 最愛の人の後ろの蕾がとろっとろに濡れ開き、くぱあって誘って、入れてって
言ってくれるのに(名前は脳内変換)ギンッッギン!! だったのが折れる衝撃!


「ジアに挿れられるのは、俺だけだ!!!」


 つぶらな瞳で、胸を張って叫ぶことなのかな――――!


 うん。
 確かに、ジァルデのそこは、薬は溢れてたけど、白濁は溢れてなかった!

 しっかり見てごめんなさい。
 めちゃくちゃ色っぽくて、初動が遅れて、全力でごめんなさい!!


 ちょっと熱い頬で、僕は親指を立てる。

 耳まで真っ赤になったジァルデは、ゼドのもふもふの胸に、顔を埋めた。


「…………傍にいて、いい……?」


「いてくれないと、死ぬ」


 重いゼドの愛に、ジァルデは目を瞬いて、笑った。
 ちいさな子どもみたいに、赤い頬で、ゼドのふわふわの手を握る。


 よかったね。

 皆で笑った時だった。



『ヒヒヒヒヒ――――!』


 あの、声がした。

 遠く、近く、この世のものではないかのように、歪んだ嘲笑が、木霊する。


 皆が、転がったズァビエの首を、振り返る。




『死ぬべき者は、死ぬんだよ。
 お話のとおりに』


 ドォン――――……!!



 僕のなかの、闇が、爆発した。









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