【完結】奪われて、愛でられて、愛してしまいました

  *  ゆるゆ

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ヒノ

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「あ、あの、負担をかけてごめ……」

『謝るな』言われたそばから謝ってしまう──!

 うなだれたレーシァに、ヒノは鳶色の瞳を瞬いた。

 褐色の肌によく似合う、ふわふわのやわらかそうに波打つ鳶色の髪を揺らして、レーシァの顔を覗きこむ。


 クノもゼドも、そうだった。

 グァダナ帝国の者は、この顔もこの目も、気もちわるくないらしい。

 レーシァにとって、とてもうれしいことだった。

 メィス以外の人と、目があう。
 はじめての感覚に、どきどきする。


「わあ、ほんとに月の精霊の御子みたい。精霊の御子さま? ヨアの国の?」

 ちがう。
 何の力もない。

 ほんとうのことは言えないから。


「……と呼ばれてた」

 嘘じゃないことを告げた。


「すごいなあ。精霊の御子を後宮に入れちゃうなんて、さっすが帝王陛下!」

 鼻をこすったヒノは、ちいさな胸を張る。


「レーシァさまに仕えることになったヒノだよ。精霊の御子さまって呼ぶほうがいい?」

 ふるふる首を振る。


「……レーシァ、が、いい」

 はずかしく、うれしく、つけてもらったばかりの名を告げたら、ヒノは笑った。


「思ってたのと違って、かわいーね、レーシァさま」

『かわいー』にびっくりしたレーシァは、社交辞令なのだろうと受け流した。
 引っかかったのは──

「ちがう?」

「精霊の御子って、こう、人間を超越する尊き存在、みたいに、えらそばって、下々の者とは関わらないのかと思ってた」

 お尻のおできの話をしたら、クノも『精霊の御子が?』びっくりして笑っていた。


「えらそばる、とか、関わらない、とか、そ、そんなこと、ない」

 でも確かに、他の人とは距離があった。

 それはレーシァが望んだものじゃない。


 誰も、目をあわせてくれなかっただけ。

 誰も、ふれてくれなかっただけ。



「そっか。あー、俺、丁寧な言葉とか苦手でさ、こんな感じだけどゆるしてくれる?」

 気さくなヒノに、レーシァの肩から力が抜けてゆく。


「も、勿論。あの、僕の言葉、わかる?」

 大陸共通語で会話しているように思えるけど、レーシァの言葉は、おそらくニベ公国とヨア王国の抑揚がごちゃ混ぜになっているだろうし、グァダナ帝国では全く違う意味の言葉があったりするかもしれない。

「ヨアの抑揚? だいじょうぶ。ちゃんとした大陸共通語だよ。
 グァダナの言葉もあるから、おいおい覚えてくれたら」

「わ、わかった」

 レーシァをつむじからつま先まで見つめたヒノは首をかしげる。

「何にも言わないんだね。兄さまと俺、全然似てないのに。髪も目も顔立ちも。いつもほんとに弟と兄なのかって言われるよ」

「そうなの?」

 首をかしげるレーシァに、ヒノは笑った。

「そうなの。血がね、繋がってないんだ。兄さまのお母さまが亡くなって、そのあとに俺の母が兄さまのお父さまの伴侶になったんだ。前の伴侶との間にできた俺を連れて」

「なるほど」

「よくある話だよね」

 8歳のヒノが、自嘲するように笑う。

「血の繋がってない義弟なんて信頼に値しないと思うのに、精霊の御子さまに付けるなんて、何考えてるんだろ、兄さま。仕事はできるって聞いてたけど、だいじょぶなのかな。心配だよ」

 瞬いたレーシァは、微笑んだ。


「心配してくれるヒノだから、信頼してるんだよ」

 ぽかんと口を開けたヒノの顔が、赤くなる。


「……そ、そうなの?」

「きっと」

 レーシァは笑う。


「よろしくね、ヒノ」

「よ、よろしくお願いします、レーシァさま!」


『レーシァ』呼ばれるたび、鼓動がとくとく、駆けてゆく。


 仕えてくれるというヒノは、レーシァの目を見て、まぶしいグァダナの陽光みたいに、笑ってくれた。








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