【完結】奪われて、愛でられて、愛してしまいました

  *  ゆるゆ

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まっか

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「足の裏を火傷されたのですな。見せてくだされ」

 おばあちゃん医士の言葉に、レーシァは足をあげる。

「よろしくお願いします」

 痛いのを治療してくれるのは、ありがたい。

「ふむふむ。火傷ですな。かなりひどい。お顔や手も拝見してよろしいか」

「は、はい」

 おばあちゃん医士のしわの手が、やさしく頬を、ひたいを、首を、指を、注意深く診てくれる。

 股間には、さわられなかった。

 ほっとするレーシァの肌を見つめた医士が、心配そうに眉をさげる。


「グァダナ帝国では陽射しがとても強いでな。御身にはお辛かろう。ヨアから来なすったかね」

「はい」

 生まれはニベ公国です。

 言っていいのかわからなかったので、黙った。


「肌が赤く腫れておる。日焼けというより、かるい火傷だの。ヨアにいたときは、どうしておられた?」

「日傘を持った人がついていてくれました」

「すぐ日傘をご用意いたしますと申しあげたいところですが、おそらくこの部屋をお出になることは、もうないかと」

 眉をさげるヒノに、医士は部屋を見渡した。

「すべての窓に、紗を。暗い色の紗がよいが部屋が薄暗くなってしまうからの。白は陽射しを遮る効果が薄いのでな、おすすめできん。やわらかな色の紗なら、構わん。中庭にお出になるときは、必ず日傘を差し、肌をすべて覆ってたもれ。頭から紗を被られるとよい。薄い紗なら見えるだろう」

「必ず、そのように」

 うやうやしく右手を胸に膝を折るヒノは、さっきまでくるくる表情を変えていた少年と思えぬほど落ちつき払っていた。

 職務につくときと普段とで、八歳の少年がこれだけ顔を変えられるなんて、すごい。

 ぽかんとするレーシァに、ヒノが片目をつぶった。
 思わず笑ってしまったレーシァに、医士が瞬く。

「あ、診察の途中に、笑ってしまって……」

『申しわけありません』続きそうだった謝罪をのみこんだ。

『謝らない』これが一番むつかしく、心が痛い。

 眉をさげるレーシァの足を消毒し、軟膏を塗り、包帯を巻いてくれながら医士はゆるく首を振った。


「いやいや、精霊の御子などおるものかと思うておったのですがな……これはこれは。陛下がお連れになったわけが、すこうしわかりました」

 レーシァの赤くなった頬や額に軟膏を塗ってくれながら、医士が微笑む。


「精霊の御子さまのお子をとりあげる日を、楽しみにしとります」

 しわの目じりをさげた医士が帰ってゆく背を、申しわけなく見送った。


「……子どもは、無理です……」

 男なので。
 ごめんなさい。

 頭をさげたいのを我慢する。

 面白そうに笑ったヒノが、手をあげる。

「紗をもらってくるよ。皆で窓に紗をさげるから、それまで寝台でおとなしくしててね」

 天蓋の白い紗をおろしてくれたヒノが、部屋に鍵をかけて出て行ったと思ったら、たくさんの少年たちを連れて戻ってきた。

 皆で窓にやわらかな色の紗をかけてくれる。

「急ごしらえだから、色がそろわなくて、ごめん」

 色とりどりの紗がかかる部屋は、途端にあざやかになった。

「とてもきれいだ。ありがとう」

 微笑んだら、手伝ってくれた少年たちが真っ赤になって、右手を胸に膝を折ってくれた。
 




「おつかれさまでした。お腹減ったでしょう。ご飯にしよっか」

 微笑んだヒノが用意してくれたご飯は、野菜や肉、果実や麦を使った豪勢なもので、ヨアでは精霊祭やお祝いの席に食べたような品がいくつも並んだ。
 はちみつのたっぷりかかった菓子まである。

「……あ、あの……これ……今日は何かのお祝いの日なの……?」

「ふつうのご飯。庶民は朝と夕方の二食だけど、後宮では三食だな。ぽちゃっとしてくれたほうが、子を産めそうという迷信があるのかも」

 並べたご飯を少しずつ小皿にとってくれたヒノが、レーシァの顔を覗きこむ。

「食べられそうなもの、ある? 精霊の御子は、肉はだめ、とかあるのかな」

「食べるな、と言われてた」

『精霊の御子の清浄な力が、血によって穢れてはいけませんから』


 血を流さない植物は、屠って食べても穢れないという理屈が、わからなかった。

 おなじ、生きる、命なのに。

 命を殺して食べることは、変わらないのに。

 殺して食べないと、生きられないのに。



 うつむくレーシァに、ヒノはあわてたように肉の皿を下げてくれる。

「ご、ごめん、やだった? ごめんな」

 レーシァは首を振った。

 化け物だった時は、肉なんて高価なものは食べられなかった。

 精霊の御子になった後は、野菜と麦、豆と乳で命を繋いだ。


 ご飯をいただけること、命をいただけることを、とてもありがたいと思っている。

 ヒノが取りわけてくれたご飯は、ヨアの国とはちがう香辛料の香りがした。

 揚げてあったり、蒸してあったり、炒めてあったりと、料理法も多彩で、生のまま食べる野菜の新鮮さに目をみはる。

「……すごい、ね」

「へへ。まわりはぜんぶ砂漠だけど、地下水で野菜を育ててるんだ。
 攻撃されにくいし、砂漠が俺たちを守ってくれてるんだよ」

 熱い砂と陽射しの国、グァダナ帝国。
 ちいさな森と水の国、ヨア王国。

 国力の差は、王城にも、ご飯にも、与えられる部屋にも、衣にも、何もかもから滲みでる。


「……おいしくなかった?」

 心配そうに聞いてくれるヒノに、首を振った。

「慣れない香辛料が多くて、びっくりしたけど、すごくおいしかった。ありがとう」

 微笑んだレーシァに、ヒノのちいさな頬がふくれる。


「俺は、レーシァさま付きの傍仕えだよ。俺は、レーシァさまの味方だよ。
 ……まだ信用できないかもしれないけど、でも、レーシァさまが居心地いいように頑張るから。俺には、本音を話してほしい。
 俺にまで、つくろわなくていい」

 まっすぐな目で、見つめてくれる。

 すこし迷ったレーシァは、ささやいた。


「……あの、香りが強いものは、苦手、かもしれない」

 苦手なことなんて、化け物のときは勿論、精霊の御子のときも言ってはいけないことだったのに、はじけるように、ヒノが笑ってくれる。

「わかった。野菜は生のほうがすき?」

「……揚げたのは、ちょっと……」

「わかった。蒸したのはどう?」

「おいしかった。煮たのもすき。炒めたのは……」

「油が苦手だ」

「たぶん」

「レーシァさまが、おいしいって思ってくれるご飯を用意できるように、がんばるよ!」

 胸を叩いて、笑ってくれる。


「ありがとう、ヒノ」

 つられるように笑ったら、ヒノがほんのり赤くなる。


「う、うん。しばらくゆっくりして、休んでね」

 皿を片付けながら言ったヒノは、レーシァがぼんやりするしかないことに気づいてくれたらしい。

「そうだ、グァダナ帝国の仕組みの絵本があるんだ、持ってくる! 夕方になったら、お風呂にしような」

「ありがとう、ヒノ」


「う、うん。すぐ、持ってくるから!」

 駆けてゆくちいさなヒノの、ちいさな耳が真っ赤だ。







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