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あらう……?
しおりを挟む「だいじょうぶ、自分で洗えるから!」
レーシァの声は、まるで悲鳴だ。
「……え、でも、足が痛いのに……」
「だ、大丈夫だから──!」
湯殿に一緒に入って、身体を洗ってくれようとするヒノを、レーシァは必死で押し返した。
化け物のときは湯なんて高価なものは使わせてもらえなかったし、精霊の御子のときは『畏れ多くて』と避けられたから、湯あみもひとりでしていた。
洗ってくれると言われても、恥ずかしくて無理だ。
レーシァの宮に備えつけられている湯殿は蒸し風呂になっていて、手桶いっぱいの水と湯が用意されていた。
周りは砂漠だというから、水はとても貴重だろう。これは破格の待遇なのだとわかる。
……湯船があったヨアの国のほうが、湯殿はよかったかもしれない。
ひとつだけ、まさったところを見つけて、ちいさく笑う。
……皆は、無事だろうか。
痛む胸をこらえるように、そっとメィスの無事を祈っている間もなかった。
「レーシァさま、お尻、洗える?」
赤い頬で聞くヒノに、レーシァも熱い頬でうなずいた。
「あ、洗えるよ!」
「……わ、わかった。ちゃんと、中まで洗ってね」
恥ずかしそうに告げるヒノに、目をむいた。
「…………は…………?」
「お尻の穴にお湯を入れて、きれいに奥まで洗ってね!」
真っ赤な頬で、叫ばれた。
湯殿の扉が閉められてから、仰け反った。
「…………はァ……!?」
………………。
ヒノは、勘違いをしている。
読ませてくれた絵本で、レーシァはコウキュウの意味を学習した。
帝王陛下の子を産むための女性たちがたくさん入る宮らしい。
そんなところに男が入ったクノの衝撃も、突然呼ばれて仕えることになったヒノの衝撃も理解した。
でもそれは、クノが言ったとおり、『精霊の御子を無下に扱うと、よくないことが起きるかもという迷信をぬぐい切れないから、仕方なく後宮に入れる』だけであって、子どもも産めないレーシァを、帝王が構うはずがない。
夜に来てくれると言ってくれた気がするが、それは『精霊の御子が反抗したり、反逆したりしないか、様子を見に来る』のであって、決して、断じて、伴侶としかしないような行為をするわけではない。
お尻を中まで洗うように言いつけられたヒノが可哀想だ──!
レーシァは憤慨した。
お尻はちゃんと洗ったが、勿論中までなんて洗わなかった。当然だ。
腹を立てる、ということがあまりないレーシァが、ぷんぷんしたまま湯殿を出たら、低い声が降る。
「ちゃんと洗ったか? 中まで」
くつくつ楽しげに喉を鳴らすゼドが立っていた。
「はァ──!?」
叫んでしまってから、やらかしたことに気づいた。
「……あ……」
あわてて謝ろうとするレーシァを、かるく手を挙げて制したゼドが、声をたてて笑う。
「なんだ、元気じゃないか」
大きなてのひらが、レーシァの濡れた洗い髪をくしゃりと撫でる。
「いじめられなかったか?」
嘘がないか確かめるように目をのぞきこむゼドの凛々しい顔が近くて、逃げるようにレーシァはちいさくうなずいた。
ゼドの、頭の芯がしびれるような、いい香りがする。
ほんの数刻、離れただけなのに、レーシァの心の臓は、まるで逢えてうれしいと言いたげに、とくりと跳ねた。
──頬が、熱い。
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