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ほかほか
しおりを挟むルフィスが作った餡を、リイがつくった皮で包んで、蒸し器に入れる。
ささっと火打ち石で火を起こしたリイに、目をまるくしたルフィスが拍手する。
「魔法みたい!」
きょとんとしたリイは、熱くなる頬で笑う。
きっとルフィスにとっての当たり前は、リイにとっての凄いで。
リイにとっての当たり前が、ルフィスにとっての凄いだったら、うれしい。
ぱちぱち炎が火の粉を撒いて、蒸し器からふわふわ湯気が立ち昇ると、甘くて香ばしい匂いが小さな家いっぱいに広がった。
「いい匂い」
蒼と碧の瞳が、きらきらだ。
かぱりと蒸し器を開けると、ぶわっと白い蒸気があふれた。
細い串を指してみて、生焼けの生地がくっついてこないのを確かめる。
「はい、できたて。
熱いよ」
「わあ!」
きらきらの瞳で、ルフィスが歓声をあげる。
はふはふ饅頭を頬張ったルフィスが、とろけて笑った。
「今まで食べたなかで、一番おいしい」
ルフィスが笑ってくれると、うれしい。
おいしいって言ってくれたら、うれしい。
とくとく鼓動が音をたてて駆けてゆく。
ルフィスの隣で頬張るできたてのお饅頭は、とびきり美味しい気がした。
「今頃、饅頭作ったって売れないだろう、何やってんだ!」
ちいさな家の煙突から立ちのぼる煙と湯気と匂いで解ったのだろう、扉を蹴立てるように飛び込んできたリイの父は、リイの隣で饅頭を頬張るルフィスに仰け反った。
「ふへえ!?
お、お貴族様!?」
「あ、あの、お邪魔しています。ルフィスといいます。
僕のために、リイがお饅頭を作ってくれたんです。
リイを責めないでください。
持ち合わせが今はありませんが、必ずお返しします」
丁寧に頭を下げるルフィスに、リイの父が仰け反る。
「いやいやいや!
お、お貴族様にお出しできるようなもんは、確かに饅頭しかねえんで。
よくやった、リイ!」
ごつごつの大きな手が、リイの頭を撫でてくれる。
いつもリイが食べているのは雑穀と野菜を煮たお粥みたいなもので、たまに鹿や猪や熊が獲れると肉が入るが、貴族に出せるようなご飯ではないだろう。
照れくさく笑ったリイは、父のいかつい顔を見あげた。
「ルフィス、殺されそうなんだって。
こんな家にいるって、誰も思わないだろ。
うちに居てもいいよな、父ちゃん」
目を剥いた父は、太い眉を顰めた。
「……今、麓で捜索隊が結成されてるんだ。
俺にも来いって招集が掛かったから、支度に戻って来たんだよ。
どこぞの貴族の坊ちゃんで、目がきらきらだって」
「ルフィス……!」
リイの悲鳴に、ルフィスは目を伏せた。
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