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夜
しおりを挟むふたりで息をひそめるように、洞窟の奥で手を繋ぐ。
隣のぬくもりを抱きしめて、ふたりでそっと目を閉じた。
ひっそりと静かに夜が降りる。
ひやりと冷気が喉に触れた。
「アオォオオンンン――――!」
狼の遠吠えに、ルフィスの身体がビクリと震える。
「ホ――ホ――」
ふくろうの鳴き声にもふるえる身体を、抱きしめた。
「だいじょうぶ」
ささやいたら、ルフィスの耳が赤く染まる。
「僕、情けないね」
さみしげに目を伏せるルフィスに、首を振った。
「はじめてなのに泣かないの、えらいえらい」
父ちゃんがしてくれるみたいにルフィスのちいさな頭をなでなでしたら、ルフィスの頬がぷくりとふくれる。
「僕、子供じゃないよ」
拗ねたみたいな呟きに、リイはちいさく笑う。
「子供の時は大人になりたくて、大人になったら子供になりたいんだって。
父ちゃんが言ってた」
ますますふくれるルフィスが可愛くて、ふくれた頬をふにふにしたら、真っ赤になったルフィスが蒼碧の瞳を吊り上げた。
「リイ!」
「し――!」
ビクンと震えたルフィスが悄気る。
「ご、ごめんなさい」
ちいさくなるルフィスに、首を振った瞬間だった。
「ルフィス様!!
そちらにおられるのですか!」
鋭い声が飛ぶ。
蒼碧の瞳が歪んだ。
し、と指を立てたリイは、ルフィスにお饅頭の残りを持たせる。
「俺が、注意を引きつける。
そのうちにルフィスは反対側から逃げろ。
山の奥へ。
俺が絶対、後からルフィスを見つけるから」
囁きに、押さえた悲鳴が返る。
「リイ……!」
リイはルフィスの手を握る。
「絶対にルフィスを守る。
やくそく」
笑ったリイは、幾つもある洞窟の入口の中から麓に最も近いものを選び、洞窟の外へと出た。
闇色の鎧に身を包んだ者たちが、一斉にリイの方を見る。
「どうしたの?」
リイの問いに、闇鎧達は警戒を露にリイを見つめた。
「……こんなところで、何をしている」
低い声に、リイは鼻を鳴らす。
「こっちの台詞だよ。
余所者のおじさんたち」
目を剥いた闇鎧が叫んだ。
「何!?」
剣を抜く闇鎧を、後ろから伸びた腕が止める。
「止めなさい」
総領なのだろうか、年若い青年はリイの方を向いて頭を下げた。
「驚かせてすまなかった。
この辺りでいなくなった貴族の子を探しているんだ。
見なかったかい?」
「鳥と鹿ばっかりさ」
リイの答えに、青年は灰の瞳を細めた。
「きみはここで何を?」
「罠張りだよ。
鹿や猪が畑を荒らすから。
何日も泊まりがけで、山中に罠を張るんだ」
いつもしていることを告げると、青年は目を見開いた。
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