きみの騎士

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口が開いてしまうのです

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 白亜の宮殿を見あげたら、首が痛い。

 リイは、ぽかんと開いてしまいそうな口を塞ぐのに懸命だ。

 鏡のように世界を映す、磨き抜かれた真白き石で造りあげられたレイサリア王宮が、聳え立つ。

「月光石というんだ。
 月の光をあつめ、夜には星のように輝く。
 柱や床石にまで月光石を使えるのはレイサリアだけだ」

 胸を張るザインに、こくこく頷く。

 学び舎にも通えなかったし、秘境に住んでたから全然理解してなかったけど、レイサリア光国、この世界では凄いとこみたいだよ!

 さすが、道にゴミが落ちてない国!

 王宮の柱や梁には国花であるセレネの花が香りたつように彫りあげられ、傍らの庭に佇む生きたセレネは幾重にもまとう薄紅の花びらの奥から、真の香をふりまいた。

 鋭い棘に守られ、王宮中で咲き誇るセレネは、白に輝く宮殿を色と香で染めあげる。

「凄いですね……」

「解ったから口を閉じろ」

 上司の目が冷たくなってきたよ!

「はい!」

 あわあわ口を閉じたリイは、似たような建物ばかりで、どこをどう通ったのか皆目覚えられない迷宮のような王宮に、ようやく気づいた。


「侵入者を欺くためですか」

 凛々しい眉をあげたザインが頷く。

「よく解ったな。
 王宮に暮らす者でさえ、どこをどう通ったのか解らなくなるほど、道の幅も建物も庭も、どこもかしこも同じように造られている。
 月光石はすべてを鏡のように映す。
 同じ景色がどこまでも広がり、侵入者は決して王太子殿下まで辿りつけない」

 それを可能にする執念のような努力に、目を瞠る。

「ほへえ」

「だから口を閉じろ。
 付け加えるなら、その顔でその感嘆詞は止めろ」

 げんなりしたようなザインに、あわあわ背を正した。


「は、はい!
 あのでも、俺たちは覚えて進めないとだめですよね?」

「当たり前だ!」

 絶望した。
 涙目になったリイに、ザインが笑う。


「リイにも人間らしいところがあって安心したよ。
 ここが王太子殿下の執務室だ」

 扉の両脇に控えているのは、リイやザインとおそろいの装束を着た光騎士だ。


「お疲れ様です。
 新しく入りましたミナエ出身、リイです。
 どうぞよろしくお願いします!」

 ぴしりと騎士の礼をしたら、両脇の光騎士たちが目をまるくして頷いてくれた。


「こら、ここで挨拶するな。
 私語厳禁で警護してるんだからな」

「し、失礼しました!」

 ザインの言葉に慌てて頭をさげたら、光騎士たちの目がやさしくなる。
 よかった、怒ってないみたいだ。

 ザインはいかつい拳で、ごんごん月光石の扉を叩いた。

 …………え?
 あの、王太子殿下の執務室の扉って、ゴンゴン叩いていいものなの??




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