きみの騎士

  *  

文字の大きさ
上 下
66 / 152

…………ルフィ、ス…………?

しおりを挟む



「元気か!」

 拳を重ね、ふたりで笑う。

 キールの顔は、すぐに曇った。

「ルフィスを聞いて回ったが、誰も知らぬ。
 何かわかったか?」

「聞いてくれたのか!」

 驚くリイに、キールは眉を吊りあげる。

「当たり前だ!」

 微笑んだコルタは、胡桃色の眉を下げた。

「僕も情報ないよ。
 もしかしたら属国の方じゃないか?」

 光騎士になったばかりの底辺の平民のために、貴族の子息が心を砕いてルフィスを捜してくれている。

 ミナエで平民を汚物のように蔑む貴族を大勢見てきたリイの目が、熱くなる。

「キール、コルタ……ありがとう」

「わ――! 泣かないで、リイ」

「な、泣いてない!」

 コルタの言葉にあわてて目を拭うリイの首に太い腕を回して、キールが笑う。

「今、ぐらっと来た」

「来なくていい!」

 議会殿前でさわぐ光騎士ふたりと、来期は光騎士確実と謳われるキールに、人々の目が集中する。

「来期には最も人気ある三光騎士になるだろうな。
 励めよ、キール」

 ザインの言葉に、キールは拳を握った。

「リイ以外には負けませぬ!」

 厚い胸を張るキールに皆で笑ったら、キールの鳶色の目が吊り上がる。

「リイと真剣を交えていないから笑えるんだ。
 世界で最も硬く、決して折れぬと謳われる玉光鋼を叩き折りやがるんだぞ!」

 キールの叫びに周りの貴族たちが引き攣って、さっとリイから距離を取る。

「……そ、そうだったね」

 コルタまでもがちょっと引いて、ザインの目が遠くなる。

「…………もうちょっとふつうの新人がよかったな…………」

「だから俺への評価が酷いです!!」








 吹きあがる噴水を透した陽の光が、夏のはじまりをきらめかせる。
 たちのぼるセレネの花の香りに、リイはやわらかに目を細めた。

 きらきらしてるレミリアさまの言葉は、きらきらしてるルフィスの言葉みたいだから。
 そんなこと、思ったらだめなのに。

 ルフィスの傍にいるみたいで。

 大地に水が滲み込むように、リイはレミリアの言葉を学んだ。

「一回言ったら覚えるのね!」

 やわらかな昼の光に輝く星の海の瞳に、リイは首を振る。

「レミリアさまの言葉だから。
 他のことは、ちっとも覚えません。
 レミリアさまが教えてくださらなかったら、俺は光騎士落第でした」

 微笑むリイに、かすかに息をのんだレミリアの眦が、ほのかな朱に染まる。

「リイの役に立ったら、うれしい」

「レミリアさまのおかげで、今度ひめさまにご挨拶できるそうです」

「微塵もうれしくないわ。
 私のところには来ない気でしょう!」

 細く高い鼻をお鳴らしになるレミリアさまに、花の指まで突きつけられたリイが笑う。

「レミリアさまは、千年光国レイサリアが誇る花のきみであらせられます。
 新人光騎士は謁見さえ許されません」

「リイに逢ってる。
 ……毎日」

 拗ねたみたいに、きゅ、とリイの騎士服の裾を握るレミリアに、リイが笑う。

「このうえない、さいわいです」

 リイの微笑みに目を見開いたレミリアは、顔をそらした。
 赤い耳が、金の髪の向こうにのぞく。

 ちいさなリイの笑い声に怒ったように振り返る星の海の瞳に、息をのんだ。


「………………ル、フィ……ス…………?」

「え?」

 首を傾げるレミリアの金糸の髪が、夏の香る風に揺れる。


 今まで畏れ多くて、気恥ずかしくて、レミリアさまのご尊顔を繁々拝するなんてできなかった。

 けれど今は、その瞳を見つめられる。


 よぎったと思うルフィスの面影は、霞のように消えてしまった。

 瞳の色も、髪の色も、ジェンダーさえ違う。

 全くの別人だ。


 ルフィスと似たところを探すほうが、どうかしてる。

 なのに、怒って吊りあがる目元が、似ている気がした。


『リイ!』


 名を呼んでくれる春の風の声が、聞こえた気がした。





しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異世界人は愛が重い!?

BL / 連載中 24h.ポイント:163pt お気に入り:413

悪役令息の義姉となりました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:18,731pt お気に入り:1,317

好きになって貰う努力、やめました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:2,185

この僕が、いろんな人に詰め寄られまくって困ってます!

BL / 連載中 24h.ポイント:92pt お気に入り:11

グラティールの公爵令嬢

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14,868pt お気に入り:3,342

処理中です...