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…………ルフィ、ス…………?
しおりを挟む「元気か!」
拳を重ね、ふたりで笑う。
キールの顔は、すぐに曇った。
「ルフィスを聞いて回ったが、誰も知らぬ。
何かわかったか?」
「聞いてくれたのか!」
驚くリイに、キールは眉を吊りあげる。
「当たり前だ!」
微笑んだコルタは、胡桃色の眉を下げた。
「僕も情報ないよ。
もしかしたら属国の方じゃないか?」
光騎士になったばかりの底辺の平民のために、貴族の子息が心を砕いてルフィスを捜してくれている。
ミナエで平民を汚物のように蔑む貴族を大勢見てきたリイの目が、熱くなる。
「キール、コルタ……ありがとう」
「わ――! 泣かないで、リイ」
「な、泣いてない!」
コルタの言葉にあわてて目を拭うリイの首に太い腕を回して、キールが笑う。
「今、ぐらっと来た」
「来なくていい!」
議会殿前でさわぐ光騎士ふたりと、来期は光騎士確実と謳われるキールに、人々の目が集中する。
「来期には最も人気ある三光騎士になるだろうな。
励めよ、キール」
ザインの言葉に、キールは拳を握った。
「リイ以外には負けませぬ!」
厚い胸を張るキールに皆で笑ったら、キールの鳶色の目が吊り上がる。
「リイと真剣を交えていないから笑えるんだ。
世界で最も硬く、決して折れぬと謳われる玉光鋼を叩き折りやがるんだぞ!」
キールの叫びに周りの貴族たちが引き攣って、さっとリイから距離を取る。
「……そ、そうだったね」
コルタまでもがちょっと引いて、ザインの目が遠くなる。
「…………もうちょっとふつうの新人がよかったな…………」
「だから俺への評価が酷いです!!」
吹きあがる噴水を透した陽の光が、夏のはじまりをきらめかせる。
たちのぼるセレネの花の香りに、リイはやわらかに目を細めた。
きらきらしてるレミリアさまの言葉は、きらきらしてるルフィスの言葉みたいだから。
そんなこと、思ったらだめなのに。
ルフィスの傍にいるみたいで。
大地に水が滲み込むように、リイはレミリアの言葉を学んだ。
「一回言ったら覚えるのね!」
やわらかな昼の光に輝く星の海の瞳に、リイは首を振る。
「レミリアさまの言葉だから。
他のことは、ちっとも覚えません。
レミリアさまが教えてくださらなかったら、俺は光騎士落第でした」
微笑むリイに、かすかに息をのんだレミリアの眦が、ほのかな朱に染まる。
「リイの役に立ったら、うれしい」
「レミリアさまのおかげで、今度ひめさまにご挨拶できるそうです」
「微塵もうれしくないわ。
私のところには来ない気でしょう!」
細く高い鼻をお鳴らしになるレミリアさまに、花の指まで突きつけられたリイが笑う。
「レミリアさまは、千年光国レイサリアが誇る花のきみであらせられます。
新人光騎士は謁見さえ許されません」
「リイに逢ってる。
……毎日」
拗ねたみたいに、きゅ、とリイの騎士服の裾を握るレミリアに、リイが笑う。
「このうえない、さいわいです」
リイの微笑みに目を見開いたレミリアは、顔をそらした。
赤い耳が、金の髪の向こうにのぞく。
ちいさなリイの笑い声に怒ったように振り返る星の海の瞳に、息をのんだ。
「………………ル、フィ……ス…………?」
「え?」
首を傾げるレミリアの金糸の髪が、夏の香る風に揺れる。
今まで畏れ多くて、気恥ずかしくて、レミリアさまのご尊顔を繁々拝するなんてできなかった。
けれど今は、その瞳を見つめられる。
よぎったと思うルフィスの面影は、霞のように消えてしまった。
瞳の色も、髪の色も、ジェンダーさえ違う。
全くの別人だ。
ルフィスと似たところを探すほうが、どうかしてる。
なのに、怒って吊りあがる目元が、似ている気がした。
『リイ!』
名を呼んでくれる春の風の声が、聞こえた気がした。
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