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レイサリア王族の秘密
しおりを挟む「……リイ?」
目を拭ったリイは、花のきみの問いかけに、思いきって顔をあげる。
「レミリアさま、不遜を承知で伺います。
ルフィスという名の者をご存知ありませんか。
ご血縁では、いらっしゃいませんか……?」
誰かをルフィスに似ているなんて、思ったことがなかった。
ちがう。
ルフィスみたいにきらきらしてるのは、レミリアさまだけだと、ずっと思ってた。
もしかしたら、ご親族にルフィスが……?
すがるように聞いたリイに、しばらく沈黙したレミリアは首を振った。
「知らない。
…………女の子?」
切れあがる瞳で聞くレミリアに、首を振る。
「男です」
嘘がないか確かめるように、レミリアはリイの目を覗きこんだ。
「私の親族のうち、男性は父さまとレイティアルトお兄さまだけよ」
「――こんなことを伺うのは余りに不敬かもしれませんが……隠し子の可能性は?」
目を見開いたレミリアは、首を振る。
「ない」
一片の隙も無い、断言だった。
「千年光国レイサリアには八百年続く法があるの。
正妃の長子以外の王族男子は、皆殺しにするという法が。
生まれたらすぐ、殺される。
リイに逢ったはずはないわ」
「…………皆殺し」
声が、震えた。
「八百年前のことよ。
光星と讃えられるレイサリアの血を継ぐ、強大な魔力を持つ二人の王子とその子らが王位を争い、レイサリアは生きる者のない焦土と化した」
レミリアは細い腕に目を落とした。
「レイサリアの血は、レイサリアの血を継ぐ者と、非常に魔力の強い者とによって継がれてゆく。
レイサリアの血同士は無理なの。魔力が強すぎて、人の身が壊れる。
子が生まれない。
強大な魔力を持つ女と、レイサリアの血を引く男の子どもが、最強のレイサリアの血を継いでゆく」
リイは首を傾げる。
「レイサリアの血を継ぐ女性と、魔力の強い男性の子ではなく?」
レミリアは頷いた。
「レイサリアの血を継げば、性差で魔力はあまり違わないけれど、レイサリアの血を継がない者は、女性の方が強大な魔力を持つことが多いの。
魔力を持つ女との子どもと、魔力を持つ男との子どもでは魔力が天地ほど違う」
首をひねったリイは、考える。
レイサリアの血を継ぐ人は、女も男も魔力は一緒。
結ばれる相手は、レイサリアの血は不可。
一般の人から魔力のある人を募った場合、女は男を圧倒する。
ということは。
魔力の強い女と、レイサリアの血を継ぐ男の子どもが、最強になる。
おお!
レイティアルト殿下はライトノベルやオンライン小説の、魔力の強い平民と結ばれるかもしれない王太子ではないですか!
乙女の夢を実現しそう!
目がきらきらしたと思うリイに、レミリアはこほんと咳払いした。
リイはあわあわ背を正す。
「女しか生まれなかったときは、問題ないの。
最強の魔力を継ぐ女が王となる。
争っても大惨事にはならない。子らの力が弱いから」
レミリアの言葉に頷いた。
レイサリアの血を継ぐ女と、魔力の高い男が結ばれても、魔力の低い子が生まれてしまうのだろう。
喧嘩しても、大したことにならない。
「力は弱くとも、レイサリアの血は継がれてゆく。
またレイサリアの血を継ぐ男と、レイサリアの血に選ばれし女が結ばれ、子を成した時、強大な魔力は復活する」
頷くリイに、レミリアは続ける。
「八百年前の内戦は、弟と兄、その子らが争い、光国全土が死んだ。
レイサリアの血を引く男が、畏れられてきたの。
レイサリアの血を継がぬ王族男子までもを、皆殺しにするほど」
呟く声は、硬く、かすかに震えていた。
レミリアは青い空に翻る光国旗を見あげる。
「八百年の平和は、そうして築かれた。
王族の誰もがこの法を第一に考える。勿論父さまも」
目を伏せたレミリアは、唇を噛んだ。
「レイサリアの血を継ぐことが、王族の最たる責務なの。
王族唯一の男子はレイサリア王となり、レイサリアの血に選ばれし魔力の高い女と結ばれなくてはならない。
なのに父さまは、魔力の低いラトゥナを愛した。
第二妃として、迎えてしまった」
吐息するレミリアの向こうで、光国旗が揺れる。
「私とレイティアルト兄さまは、レイサリアの血に選ばれし正妃の子、レイサリアの血を継ぐ者。
でもラトゥナは、レイサリアの血に選ばれなかった。
その子は、レイサリアの血を継げない」
レミリアの指が、握り締められる。
「――……なのに、生まれてすぐ、弟は殺された。
ルフィスが私の血縁の可能性は、ない」
ちいさな声が、かすれて消えた。
掴んだと思った微かな希望が、遥か暗い海の底に沈んでゆく。
唇を噛みしめるリイに、レミリアは細い眉をひそめた。
「……そんなに大切な人なの?」
「はい」
即答したリイにレミリアが、どんぐりをいっぱいに詰め込んだリスの頬になる。
「レミリアさま?」
ふくれたままの頬で、レミリアは持ってきてくれた本を広げる。
「今日は文字を勉強しましょう!
他に学びたいことは?」
「ひめさま方のご容貌とご芳名とご趣味などを伺えればうれしいです」
微笑んだら、花のかんばせがドス黒く沈んだ。
「そんなの絶対教えない」
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