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涙
しおりを挟む「それはおまけさ。
わらわの望みは、第一王子以外の男子を皆殺しにするレイサリアの血が絶えること。
子を殺され、天の青も花の香も灰に落ちる母が、私で最後となること。
殺されたセリスと同じように、お前とレミリアが死ぬことさ」
ラトゥナの淡い青の瞳が、黒き炎を噴きあげた。
「ねえ、レイティアルト。
ルフィスを救ったお前は、どうしてセリスを救ってはくれなかったんだい?
ルフィスを生かし、セリスを殺したは、セリスがわらわの子だからか。
半分しか血の繋がらぬ弟など、死んでも構わなかったのか!」
歪んだラトゥナの瞳から、涙が溢れた。
「…………ル、フィ……ス…………?」
リイの呟きに、涙の瞳が振り返る。
「────……ルフィス。
……懐かしい名だ。もう誰も口にしない。
だがリイ、お前が思い出させた。
ルフィス。
憎き正妃、レイアの息子。
第二王子のくせに、第一王子以外の男子は皆殺しとする掟に背いた王太子の庇護のもと、のうのうと生き永らえていることを、ようやっと思い出した」
ラトゥナの瞳が、リイを射る。
「レイサリアの血の力は凄まじいな。人の記憶までもを操る。
──わらわはルフィスを忘れていた。思い出しもしなかった。
リイ、お前が騒ぎ立てるまで」
────血が、失せた。
「…………ルフィスは……敵国の、王子だと……」
ふるえるリイの声に、ラトゥナは嗤った。
「レイティアルトのついた嘘だよ。
お前を黙らせ、秘術が破れるのを防ぐためにね。
レイサリアの秘術でさえ、光都に住むルフィスに関わった者の記憶を消すだけで精一杯だったのだろう。
僻地ミナエにいたお前に、秘術の力は及ばなかった。
そこから秘術が崩れる穴が開く。
おかげで、わらわは思い出した。
第一王子が十歳になった瞬間、殺されるべき第二王子のルフィスをね」
ラトゥナの声が、ひび割れた。
「ルフィスを誰も覚えておらず、ルフィスと同い歳のレミリアがいる。
まるで別人だ。覚え違いかと思ったよ。
だがリイは必死にルフィスを捜している。
──ルフィスは、確かにいたんだ」
淡い水の瞳が、眇められる。
「わらわの記憶が正しいのなら、レイサリアの血を継ぐことのできる正妃レイアの子はふたりだけ。
レイティアルトと、ルフィスだ。
なのにレミリアは雷精までもを操る。
まがうことなきレイサリアの血を継いでいる。
答えは、ひとつしかない。
知らずにルフィスを窮地に陥れた愚かなお前に、感謝しなくてはねえ」
噛みしめた唇が、ふるえる。
ラトゥナは笑った。
笑う瞳から、涙がこぼれ落ちてゆく。
「レイティアルトはルフィスを生かし、セリスを殺した。
思い出したら黙ってなどいられない。
半分しか血の繋がらぬ弟だけを殺した理由を、言え」
子を殺された、母の瞳が、切れあがる。
「なぜルフィスを生かし、セリスを殺した。
言え──!!」
はやてのように伸びた指が、レイティアルトの首を掴んだ。
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