【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  ゆるゆ

文字の大きさ
10 / 132

おおきな背

しおりを挟む



 距離を取ってはいるが、いつでも殺せる射程圏内に透夜を収めている数多の暗殺人形を従え、にこりと微笑むかんばせに、ゾッとする。

「……どうして」

 こぼれた透夜のちいさな声に、透きとおるような氷の髪を揺らして、少年は笑った。
 幼さに似つかわしくない氷の瞳が、透夜を射る。

「暗殺人形には、私たちにしか解らない、現在地を知らせる魔法が組みこまれているんだよ」

 闇を従えるように、少年は透夜へと近づいた。

 動いたら、殺される。

 止まったままの透夜のおとがいを、幼い指が、ゆうるりなでる。


「一番優秀な49番を、私が手放すと思う?」

 とろけるように、甘い声だった。


 冷たい、何かが背を伝う。

 それは暗殺人形として叩きこまれた、指令を遂行するためには死をも辞さぬ、忠誠とは違う狂信的な服従の残滓なのかもしれなかった。

 前世の記憶を取り戻しても、49番の身体も心も、ここにある。

 透夜の心と身体を縛る、枷にもなる。


 顔色を失くした透夜を守るように、ちいさな身体が飛び出した。

「とーやを、いじめないで!」

 ふるえる両手を広げて、透夜をかばい、前に立ってくれるロロァのちいさな背が、おおきく見えた。

 くしゃりと歪んだ顔を隠すようにうつむいた透夜が、ロロァを背にかばい、前に出る。

「……ユィル殿下、おとがめは、どうか、わたくしに」

 透夜とロロァを見つめたユィルは、面白そうに氷の瞳を細めた。


「へぇ。話せるようになったんだ。感情も取り戻したの?」

 無言で返した透夜に、ユィルは唇の端をあげる。

「魔法は?」

 無言を通そうとした瞬間

 ゴォオァア──!

 ロロァ目掛けて放たれた炎撃を、眉をしかめるだけで透夜は止めた。

「──っ!」

 目をみはるロロァに、ユィルが笑う。

「ふふ、私も無詠唱魔法が使えるんだ。心がないから」

 自らを嘲るように、薄い唇が歪んだ。

「……おたわむれを」

 吐息する透夜の頬に、ユィルのちいさな指が伸びる。

 透夜とロロァを取り囲む暗殺人形たちが、音もなく獲物を構える。


 振り払うことは、きっと、死だ。


 透夜が動かないことを、『動くと殺す』という脅しがきちんと利いているのか確かめるように、ちいさな指が透夜の頬を、ゆうるり、ゆうるりなでた。

「とーやに、さわらないで!」

 前に出ようとしてくれるロロァを背にかばう。

 不愉快そうに氷の眉が、跳ねあがる。

「ふぅん」

「おとがめは、すべて、わたくしに」

 膝をつく透夜の頭をぽふぽふなでたユィルが、氷の目を細める。


「お前の、ずさんな工作の通りに処理してやってもいいよ。お前が、私のもとに戻ってくるなら」

 ぐ、と唇を噛む透夜の前に、ちいさな身体が飛び出した。


「とーやは、僕の、従者です!」

 ふるえる両手を、広げてくれる。



 そのちいさな背を、否、おおきな背を見ているだけで、涙があふれそうになる。




 ああ、だから


 あなたが、わがきみ




 鼻をすすった透夜は、後ろからロロァを抱きしめた。


 ガタガタふるえながら、それでも前に立って、守ろうとしてくれた、ちいさな身体を、抱きしめた。



「……ありがとう、ロロァさま」




 絶対に、あなたを、守るから








しおりを挟む
感想 145

あなたにおすすめの小説

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

悪役令嬢のモブ兄に転生したら、攻略対象から溺愛されてしまいました

藍沢真啓/庚あき
BL
俺──ルシアン・イベリスは学園の卒業パーティで起こった、妹ルシアが我が国の王子で婚約者で友人でもあるジュリアンから断罪される光景を見て思い出す。 (あ、これ乙女ゲームの悪役令嬢断罪シーンだ)と。 ちなみに、普通だったら攻略対象の立ち位置にあるべき筈なのに、予算の関係かモブ兄の俺。 しかし、うちの可愛い妹は、ゲームとは別の展開をして、会場から立ち去るのを追いかけようとしたら、攻略対象の一人で親友のリュカ・チューベローズに引き止められ、そして……。 気づけば、親友にでろっでろに溺愛されてしまったモブ兄の運命は── 異世界転生ラブラブコメディです。 ご都合主義な展開が多いので、苦手な方はお気を付けください。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。

天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。 成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。 まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。 黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています

八神紫音
BL
 魔道士はひ弱そうだからいらない。  そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。  そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、  ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。

処理中です...