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おおきな背
しおりを挟む距離を取ってはいるが、いつでも殺せる射程圏内に透夜を収めている数多の暗殺人形を従え、にこりと微笑むかんばせに、ゾッとする。
「……どうして」
こぼれた透夜のちいさな声に、透きとおるような氷の髪を揺らして、少年は笑った。
幼さに似つかわしくない氷の瞳が、透夜を射る。
「暗殺人形には、私たちにしか解らない、現在地を知らせる魔法が組みこまれているんだよ」
闇を従えるように、少年は透夜へと近づいた。
動いたら、殺される。
止まったままの透夜のおとがいを、幼い指が、ゆうるりなでる。
「一番優秀な49番を、私が手放すと思う?」
とろけるように、甘い声だった。
冷たい、何かが背を伝う。
それは暗殺人形として叩きこまれた、指令を遂行するためには死をも辞さぬ、忠誠とは違う狂信的な服従の残滓なのかもしれなかった。
前世の記憶を取り戻しても、49番の身体も心も、ここにある。
透夜の心と身体を縛る、枷にもなる。
顔色を失くした透夜を守るように、ちいさな身体が飛び出した。
「とーやを、いじめないで!」
ふるえる両手を広げて、透夜をかばい、前に立ってくれるロロァのちいさな背が、おおきく見えた。
くしゃりと歪んだ顔を隠すようにうつむいた透夜が、ロロァを背にかばい、前に出る。
「……ユィル殿下、おとがめは、どうか、わたくしに」
透夜とロロァを見つめたユィルは、面白そうに氷の瞳を細めた。
「へぇ。話せるようになったんだ。感情も取り戻したの?」
無言で返した透夜に、ユィルは唇の端をあげる。
「魔法は?」
無言を通そうとした瞬間
ゴォオァア──!
ロロァ目掛けて放たれた炎撃を、眉をしかめるだけで透夜は止めた。
「──っ!」
目をみはるロロァに、ユィルが笑う。
「ふふ、私も無詠唱魔法が使えるんだ。心がないから」
自らを嘲るように、薄い唇が歪んだ。
「……おたわむれを」
吐息する透夜の頬に、ユィルのちいさな指が伸びる。
透夜とロロァを取り囲む暗殺人形たちが、音もなく獲物を構える。
振り払うことは、きっと、死だ。
透夜が動かないことを、『動くと殺す』という脅しがきちんと利いているのか確かめるように、ちいさな指が透夜の頬を、ゆうるり、ゆうるりなでた。
「とーやに、さわらないで!」
前に出ようとしてくれるロロァを背にかばう。
不愉快そうに氷の眉が、跳ねあがる。
「ふぅん」
「おとがめは、すべて、わたくしに」
膝をつく透夜の頭をぽふぽふなでたユィルが、氷の目を細める。
「お前の、ずさんな工作の通りに処理してやってもいいよ。お前が、私のもとに戻ってくるなら」
ぐ、と唇を噛む透夜の前に、ちいさな身体が飛び出した。
「とーやは、僕の、従者です!」
ふるえる両手を、広げてくれる。
そのちいさな背を、否、おおきな背を見ているだけで、涙があふれそうになる。
ああ、だから
あなたが、わがきみ
鼻をすすった透夜は、後ろからロロァを抱きしめた。
ガタガタふるえながら、それでも前に立って、守ろうとしてくれた、ちいさな身体を、抱きしめた。
「……ありがとう、ロロァさま」
絶対に、あなたを、守るから
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