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ぜんぶ
しおりを挟むくちびるが、かさなる。
はだえが、かさなる。
ぬくもりが、とけて。
といきが、もえる。
ゲォルグの寝室で、ゲォルグの寝台で、抱きあっているだなんて、セバには夢だとしか思えない。
口が裂けても言えないけれど
セバが精通したとき、夢に見たのは、ゲォルグだった。
ゲォルグが微笑んでくれるたび、ほんの指のさきがふれるたび、あまい疼きに、からだがふるえた。
セバがゲォルグに夢中なのは誰から見てもわかるはずなのに、ゲォルグがセバを性欲処理にさえ使ってくれないのは、愛するノザのためだと思っていた。
自分はまったくの範疇外なのだと。
かなしく思うたび、身体はふるえた。
天変地異でも起きて、ゲォルグが自分を抱いてくれたら、どんな心地がするだろう。
ゲォルグのくちびるに、くちびるをかさねて。
ゲォルグのといきに、といきをかさねて。
ゲォルグのくちびるが、うなじにふれて。
ゲォルグのしろい歯が、うなじを噛んで。
ゲォルグの熱い昂ぶりが、奥の奥まで貫いてくれたら。
どれほどの悦びが降るだろう。
夢のなかでなら、ゲォルグは自分を抱いてくれたから。
とろけるような、あまい、背徳の夢のはずだった。
なのに
最愛の、あるじが
最愛の、あなたが
ほんとうに、口づけて
吐息を、肌をかさねて
白い歯をたてて、うなじを噛んでくれたら
「──っ……ぁ、あ──!」
過ぎる愉悦にまっしろになる視界で、セバのからだが、あまやかな弓をえがく。
ぐしゃりと濡れた下肢と荒い息と、噴きあがる羞恥に耳が燃える。
「……ご、ごめ、なさ……!」
ゲォルグが、カリリとうなじを軽く噛んでくれただけで……達してしまうだなんて。
どれだけ、あなたを求めていたか
どれだけ、あなたに餓えているのか
濡れる身体が、燃える吐息が、ほんのささいな刺激で達してしまう身体が、あるじがふれてくださって、うれしくてたまらないと、あなたが欲しくてたまらないと、叫んでる。
恥ずかしくて、いたたまれなくて、布団をかぶって小さくなりたいのに、わがきみから、離れたくない。
「かわいい、セバ」
とろけるように、ゲォルグが笑ってくれる。
愛しくてたまらないものを、やさしく包みこむように、やわらかく細められる蒼の瞳さえ、あまい。
ほのかな紅にまなじりを染めて、いつも氷のように透きとおるかんばせが、あまやかにほどけて、くちびるが笑みをえがいてく。
「……ゲォルグ、さま……」
わがきみが、そんなお顔をなさるなんて、10年もお仕えしてきて、初めて見ました。
10年、ずっと、お傍にいたのに。
知らないあなたが、たくさんいて。
ひとつ知るたび、歓喜が満ちる。
きっと、情欲に濡れるセバをゲォルグが見たのは、初めてだと思う。
恥ずかしくて、たまらないのに。
もっと、知ってほしいだなんて。
燃える頬で、セバは、そっと、そっと、手をのばす。
あなたに、ほんとうに届くのか、恐れるように。
すぐに気づいたゲォルグの指が、セバの手を握ってくれる。
「あいしてる、セバ」
とろけるように、笑ってくれる。
うれしくて、涙があふれるだなんて、初めて知った。
「あいしています、わがきみ」
叱られないか、ふるえる指で、あるじにすがる。
「……お慈悲を、ください、ゲォルグさま」
燃える頬で、熱に溶けた瞳で、ささやいた。
ゲォルグのまなじりが紅に染まる。
「俺を、ぜんぶ、セバにあげる」
微笑みが、くちびるに、とけてゆく。
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