私が願うただ一つのこと

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   国中が王女の結婚式を心待ちにしている頃、城の一室では黒眼黒髪の男と金眼白髪の娘がソファーに座り、誰よりも結婚式を心待ちにしていた。

「明日が結婚式か……早いなー」

「うふふ、明日が待ち遠しいわね?」

「あぁ、やっと君と夫婦になれる…」

「そうね…。異界で迷っていた私をあなたが助けてくれた時から、私はあなたが好きで…あなたと共にいたいと思っていたわ」

「フィア……」

「アオイ……」

   男は娘を抱きしめいう。

「何があっても俺は君を離さない……もう二度と離れ離れになりたくない。」

「えぇ!私もよ……」 

   男に抱きしめられた娘は男の方に頭を置きながら笑みを深め、優越感に浸る。姉から男を奪い結婚する優越感を…。

    本当に、可哀想で哀れなお姉様。でも、私のために犠牲になってくれる優しいお姉様。私の幸せのために消えてくれてありがとう。

   目の前の娘が偽物とは知らず、男は突然消えた愛しい娘と生涯を共にできると思い浮きだっていた。一生、離さない…そういう気持ちを込め偽物である娘をきつく抱き締めた。

「うふふ、アオイ…苦しいですわ」

「フィアがどこかに消えそうで…怖いんだ……。」
   
「っんもぅ!」

「そう言えば……フィア、お揃いのペンダント」

コンコンっ!

「失礼します。エルフィアナ様、明日のドレスの最終フィッティングをお願い致します。」

「あら?もうそんな時間だったのね。アオイ言ってくるわね!」

「うん、わかった。あ、最終フィッティングならアクセサリーもつけるんじゃないか?」

「えぇ、そうね」

「ネックレス…無くしたら大変だろ?俺が預かっとくよ」

「そうね、お願いするわ」

   娘は、ネックレスを男に渡し大勢の侍女とドレスの最終フィッティングをしに部屋を出ていった。だが、部屋には男1人だけではなかった。

「えっと…何か用ですか?」

   エルフィアナを呼びにきた大勢の侍女のうちの1人が部屋に残っていたからだ。侍女は、怒り、憎しみ…そんな感情がこもった目を男に向けながら近づいてきて…

バチンっ!!

   男の頬を叩いた。その行動に男はびっくりし呆気に取られ、エルフィアナから預かっていたネックレスを床に落とす。

「姫様は、、、なぜこのような愚かな男を愛したんでしょう……。私は姫様を裏切った貴方を許しません。」

   侍女はそう言い捨て、部屋から出ていった。男は侍女が言ったことが分からずその場に固まっていたが、落ちたネックレスを拾おうとしてあることに気づいた。

「これは……俺があげたものじゃない……」

    そう、男が愛しい娘にあげたネックレスは裏に小さく男の名前のイニシャルが彫られていた。けれど、愛しい娘から受け取ったネックレスにはそのイニシャルが見当たらない。

「うそ、、だろ、、、」

   そう信じたくて、男は自身のネックレスを娘から預けられたネックレスに近付けたが何も起こらない…。

「なら、、あの侍女が言っていたことは……っ!!」

   男は出ていった侍女の言っていた言葉を知るために、、真実を知るために部屋を飛び出し侍女を探す。だが、城中探しても侍女は見つからない。

「いったい…どこに……」

   『姫様』…ふと侍女が言っていた言葉の中で気になる言葉が頭に浮かんだ。侍女は姫様…つまりは王女に仕えていた、この国には2人の王女がいる、1人は偽のネックレスを持っていた結婚相手の王女……もう1人は……。

「罪を犯し、離宮で監禁されている王女……離宮に行けば……」

   男は偽のネックレスを強く握り締め、真実を知るために離宮へ向かった。ついた離宮の入口には、探していた侍女がいたが、その手には火がともされた松明が握られている。離宮を燃やそうとする侍女に男は止めに入ろうと近づく。

「まって、なんでそんなことを……」

「もう、、姫様はいません……」

「…いない……?」

「せめて、姫様が自由に生きられるように……この離宮を燃やし、焼死したと思わせなければ……」

「まってくれ、君の姫様はいったい……いや、フィアはどこに消えたんだ?」

「姫様は……3月ほど前に姿を消しました…。きっと辛かったんでしょう。愛した男と今まで姫様から全てを奪ってきた妹姫様が愛し合う姿を見るのが……」

「っ…」

「今までエルフィアナ姫君があなたの事を知っていたのは姫様が全て話したからです。私の命を脅しに……姫様の幸せを奪ったんです。そのネックレス……今まで気づきませんでしたよね?」

「っ、あぁ…」

「ネックレスは隠し持ち無くしたの一点張りで、、、デザイン、石、細部の細工まで教えましたが、裏の彫刻は黙秘しておりました。姫様は期待してたのです…貴方が真実を暴いてくれると…けれど貴方は気づかなかった。だから、姫様はこの城を出ていったんです。」

「……」

「離宮は燃えました…私はもうこの城にいる意味がありません。では、失礼します。」

「ま、まって!俺は……俺はどうすれば……」

   背を向けた侍女に向かって男は助けを求める。知らぬ間に愛しい娘を傷つけた事を……どうすればよいのか……。そんな男に侍女は、呆れながらも助言した。

「貴方様がまだ姫様を思うのであれば…消えた姫様を探せば良いのでは?……はぁ、これを」

   侍女はため息とともに本と小さい額縁に嵌められた絵を渡した。

「この本は、大陸の地図や情報が載っています。それとこの絵は私の宝物…姫様、シルフィア様の肖像画です。」

「シルフィア……。」

   侍女から渡された肖像画の中には、男が探し求めていた娘がいた。どこか憂いを秘めた瞳に優しそうな雰囲気の娘。

「それでは、失礼します。私も姫様を探す旅に出るので」

「えっ、、な、ならこれは…本当は」

「えぇ、姫様を探すために私が買ったものと長年大切に保管していたものです。ですが、その本の内容は全て頭に入っていますし、肖像画を見なくとも姫様の顔は覚えています。…今回のこと、全て貴方が悪いわけではありませんから…頬を叩いてしまった謝罪の気持ちです。」

「……ありがとう。」

「では、、、」

   侍女は闇夜に紛れ消えた。男は侍女から渡された物を手にその日のうちに、暗闇に紛れ姿を消した。
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