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Episode.3 出会いと別れのセブンロード
10話 怒りの叫び
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穏やかに草原を吹き抜ける風が、僕の頬を撫でつける。
流れる汗が、火照る顔面の上を冷たく落ちていく。
暫く握ったことのなかった剣の感触が、手のひらに伝わってくる。
魔法で作られた簡単な剣からは、熱さも冷たさも感じない。
「――――」
一瞬。うるさいほどに聞こえていた風の音が、一瞬にしてピタリと止んだ。
視えない。何も視えない。
深い闇に包まれたような感覚は、僕に一時の気の迷いを生じさせた。
攻撃を仕掛けるべきか? それとも攻撃を警戒して身をかわすべきか?
違う。間違いだった。最初から間違っていた。
迷いを見せてはいけないのだ。
この場の状況と迷いの表れを一致させられてしまうことがあれば、その時点で僕の――負けだ。
「――っ」
右手の剣が、自分以外の何かによる衝撃を受ける。
僕は間一髪で腕を動かし、相手の攻撃を受け止めることに成功していた。
衝撃によって生まれた微風が、微かに相手の次の一手への道筋を示して消える。
だから僕はその通りに、もう一度剣を振った。
「――――」
ガラスがひび割れたかのような甲高い金属音が、辺りに響き渡る。
細い刀身は的確に、相手の持つ剣を弾き飛ばしていた。
「――くそっ!」
乱暴な声とともに、地面に何かが落ちる音がした。
同時に止んでいた風がまたも吹き始め、何も視えなかった世界が一瞬にして形を作っていった。
視える。
相手の位置がわかる。自分が今どこにいるのかが分かる。
闇に包まれた部屋の中で、一つの灯りを見つけたかのような安堵感。
その安堵感は、僕の固くなっていた表情を少し緩ませた。
「……風が吹き始めたのが、そんなに嬉しいのかい?」
「――っ!?」
――その安堵感の表れは、同時に猛烈な危機感を呼び寄せた。
まるで隙を見せた僕を嘲笑うかのようなその声が、僕の鼓膜を震わせる。
それだけではない。耳に入ってきたのは、その声だけではなかった。
大地の揺れとともに、喧しいほどの地鳴りが僕の耳に届いた。
そしてその瞬間、僕の感覚はまたも底のない闇に閉ざされた。
僕の肌を照らしつけていたはずの日光が突如として消え去り、代わりに身を震わせるほどの空気の冷たさが僕を襲った。
――何かドームのような物に閉じ込められてしまったのか。
だとしたら非常にまずいことになる。
もし僕を覆っている何かを崩されるようなことがあれば、風の届かない空間の中で僕は為す術もなく瓦礫の下敷きになることだろう。
違う。『もし』ではない。
奴は必ずその攻撃を仕掛けてくるはずだ。
ならばその前に、ここから抜け出す術を探し出さなくては。
僕は目を開いた。
自分もろとも押しつぶすような攻撃を、奴が仕掛けてくるとは思えなかった。
だから僕は、目を開いた。
「……?」
何も見えない。
当然だ。ここは闇に包まれた半球体の中なのだから。
深い闇を照らすべく、僕は魔力を手のひらに集めて火の魔法へと変化させる。
属性を与えられた魔力は熱と光を持ち、ゆらゆらと揺らめきながらその周囲を照らし出した。
予想通りだった。
頭上を見上げても、前方を睨みつけても、そこにあるのは土の防壁のみ。
光が入り込む隙間など無く、魔法を使わなければ周囲が見えないのも納得だ。
「でも、そんなに硬く作られてはないと思うんだよな」
寸分の狂いもなく、さらに傷や隙間を全て埋めた上で作り上げられた半球体。
それなりに分厚く作られているようだが、それこそこれが所詮ただの土でしかないという証拠。
風魔法でも使えば簡単に壊せそうな感じなのだが。
この状況でこの土の壁を壊してしまうと、確実に半球体が崩れて僕は下敷きになってしまう。
逃げることは不可能。
奴の手によってここが崩されるのを待つしかない。
「そんなこと、僕は御免だね」
全てが奴の手の中で、全てが奴次第で動くなんて、忌々しいったらない。
僕は覆してみせる。
この危機的状況から逃れて――いや、逃れるだけではない。
「必ず勝ってやる。――必ず、勝ってやる!」
壁の外にいるであろう男に聞こえるように、僕は大きく息を吸いこんで、叫んだ。
流れる汗が、火照る顔面の上を冷たく落ちていく。
暫く握ったことのなかった剣の感触が、手のひらに伝わってくる。
魔法で作られた簡単な剣からは、熱さも冷たさも感じない。
「――――」
一瞬。うるさいほどに聞こえていた風の音が、一瞬にしてピタリと止んだ。
視えない。何も視えない。
深い闇に包まれたような感覚は、僕に一時の気の迷いを生じさせた。
攻撃を仕掛けるべきか? それとも攻撃を警戒して身をかわすべきか?
違う。間違いだった。最初から間違っていた。
迷いを見せてはいけないのだ。
この場の状況と迷いの表れを一致させられてしまうことがあれば、その時点で僕の――負けだ。
「――っ」
右手の剣が、自分以外の何かによる衝撃を受ける。
僕は間一髪で腕を動かし、相手の攻撃を受け止めることに成功していた。
衝撃によって生まれた微風が、微かに相手の次の一手への道筋を示して消える。
だから僕はその通りに、もう一度剣を振った。
「――――」
ガラスがひび割れたかのような甲高い金属音が、辺りに響き渡る。
細い刀身は的確に、相手の持つ剣を弾き飛ばしていた。
「――くそっ!」
乱暴な声とともに、地面に何かが落ちる音がした。
同時に止んでいた風がまたも吹き始め、何も視えなかった世界が一瞬にして形を作っていった。
視える。
相手の位置がわかる。自分が今どこにいるのかが分かる。
闇に包まれた部屋の中で、一つの灯りを見つけたかのような安堵感。
その安堵感は、僕の固くなっていた表情を少し緩ませた。
「……風が吹き始めたのが、そんなに嬉しいのかい?」
「――っ!?」
――その安堵感の表れは、同時に猛烈な危機感を呼び寄せた。
まるで隙を見せた僕を嘲笑うかのようなその声が、僕の鼓膜を震わせる。
それだけではない。耳に入ってきたのは、その声だけではなかった。
大地の揺れとともに、喧しいほどの地鳴りが僕の耳に届いた。
そしてその瞬間、僕の感覚はまたも底のない闇に閉ざされた。
僕の肌を照らしつけていたはずの日光が突如として消え去り、代わりに身を震わせるほどの空気の冷たさが僕を襲った。
――何かドームのような物に閉じ込められてしまったのか。
だとしたら非常にまずいことになる。
もし僕を覆っている何かを崩されるようなことがあれば、風の届かない空間の中で僕は為す術もなく瓦礫の下敷きになることだろう。
違う。『もし』ではない。
奴は必ずその攻撃を仕掛けてくるはずだ。
ならばその前に、ここから抜け出す術を探し出さなくては。
僕は目を開いた。
自分もろとも押しつぶすような攻撃を、奴が仕掛けてくるとは思えなかった。
だから僕は、目を開いた。
「……?」
何も見えない。
当然だ。ここは闇に包まれた半球体の中なのだから。
深い闇を照らすべく、僕は魔力を手のひらに集めて火の魔法へと変化させる。
属性を与えられた魔力は熱と光を持ち、ゆらゆらと揺らめきながらその周囲を照らし出した。
予想通りだった。
頭上を見上げても、前方を睨みつけても、そこにあるのは土の防壁のみ。
光が入り込む隙間など無く、魔法を使わなければ周囲が見えないのも納得だ。
「でも、そんなに硬く作られてはないと思うんだよな」
寸分の狂いもなく、さらに傷や隙間を全て埋めた上で作り上げられた半球体。
それなりに分厚く作られているようだが、それこそこれが所詮ただの土でしかないという証拠。
風魔法でも使えば簡単に壊せそうな感じなのだが。
この状況でこの土の壁を壊してしまうと、確実に半球体が崩れて僕は下敷きになってしまう。
逃げることは不可能。
奴の手によってここが崩されるのを待つしかない。
「そんなこと、僕は御免だね」
全てが奴の手の中で、全てが奴次第で動くなんて、忌々しいったらない。
僕は覆してみせる。
この危機的状況から逃れて――いや、逃れるだけではない。
「必ず勝ってやる。――必ず、勝ってやる!」
壁の外にいるであろう男に聞こえるように、僕は大きく息を吸いこんで、叫んだ。
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