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Episode.3 出会いと別れのセブンロード
12話 回想~5 days~①
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この「回想~5 days~」は、殺人鬼戦後、ファストの街を出るまでの五日間の出来事を記した物語です。
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人は真実を知った時、普段は気にも留めていなかったような事が急に気になりだしてしまうのだ。
例えば普段当たり前のように遊んでいた森の中。
そこで殺人鬼の目撃情報があったとなれば、その森には金輪際近づきたくないなどと思うだろう。
しかしどうしてもその森に行く必要があった場合、無駄に神経質になってしまうことがある。
そう、いつもと変わらない出来事に疑惑を抱いて恐怖してしまったり、いつもと変わらない風景なのにどこか違和感を感じてしまったり。
今僕は、まさにその状態だった。
「…………」
(カーテンを閉めてから夕食に行かなかったか?)(あの棚って開けっ放しだったか?)(机の上に本なんて置いてあったか?)(部屋の鍵閉めたっけ?)(誰かに見られたりしてないか?)
「…………」
考えれば考えるほど無駄に疑惑と恐怖が募っていく。
そんなことあるはずがないのだ。
ただの思い込みだ。行き過ぎた想像だ。
分かっている。今自分が考えていることは間違っている。
だがどうしても、そうでない可能性を拭いきれない。
加えて泊まっている宿の店主が悪事を働いていたなどと知ってしまっては、尚更疑惑が収まらない。
「……寝よう」
見えない恐怖を何とか押し退け、僕は早々に眠りにつくことにした。
明日だって、やることがあるのだから。
閉じてくれない瞼を無理矢理閉じさせ、僕は深い眠りの中へと逃げ出した。
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夢を見た。
どこか遠い空の下で、僕は燃える街並みとその傍らに立つ二人の男を見ていた。
「――ッ!」
夢だ。夢のはずなのに、僕は僕を見ていた。
僕でも相手の男でもない、第三者からの視点。
僕は傍観者としてこの場にいた。
僕がなにか叫んでいる。
それを聞いてか、もう一人の僕ではない男が振り向いた。
それでも尚、僕は男に向かって叫び続けている。
何が起きているのか分からない。
でもなんとなく、見覚えがあるような気がした。
そうだ。見たことがある。
二人の奥で赤く燃え上がるその街は――
――僕が住んでいた街に、酷似していた。
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目が覚めた。
最初に僕の目に入り込んできたのは、カーテンの隙間から漏れ出た陽の光と、僕自身の掌だった。
あの夢は何だったのだろうか。
夢なのに夢ではない、どこか現実味を帯びた夢だった。
「い……っ」
頭痛が酷い。目眩がする。
そんな中でも、一つ特徴的に覚えていることがあった。
「……黒目、黒髪」
夢の中の僕と対峙していた男は、そんな珍しい容姿をしていた。
赤く染まっていた視界の中で、その特徴的な姿だけが脳裏に焼き付いて離れなかった。
「もう一つ、何か忘れられない事があったような気がする……」
僕ととても深い繋がりのある事柄だったはずなのに、どうしても思い出せない。
所詮、夢は夢だという事なのだろうか。
「でもあれは、夢だとして見過ごすわけには行かないような気がする」
だからと言って、僕に何が出来るのかという話ではあるのだが。
そこでふと時計を見ると、もうすぐ朝食の時間のようだった。
「……さっさと着替えないとな」
毒など入っていないと分かっていても、警戒することを忘れられないのが哀れな人というものなのである。
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人は真実を知った時、普段は気にも留めていなかったような事が急に気になりだしてしまうのだ。
例えば普段当たり前のように遊んでいた森の中。
そこで殺人鬼の目撃情報があったとなれば、その森には金輪際近づきたくないなどと思うだろう。
しかしどうしてもその森に行く必要があった場合、無駄に神経質になってしまうことがある。
そう、いつもと変わらない出来事に疑惑を抱いて恐怖してしまったり、いつもと変わらない風景なのにどこか違和感を感じてしまったり。
今僕は、まさにその状態だった。
「…………」
(カーテンを閉めてから夕食に行かなかったか?)(あの棚って開けっ放しだったか?)(机の上に本なんて置いてあったか?)(部屋の鍵閉めたっけ?)(誰かに見られたりしてないか?)
「…………」
考えれば考えるほど無駄に疑惑と恐怖が募っていく。
そんなことあるはずがないのだ。
ただの思い込みだ。行き過ぎた想像だ。
分かっている。今自分が考えていることは間違っている。
だがどうしても、そうでない可能性を拭いきれない。
加えて泊まっている宿の店主が悪事を働いていたなどと知ってしまっては、尚更疑惑が収まらない。
「……寝よう」
見えない恐怖を何とか押し退け、僕は早々に眠りにつくことにした。
明日だって、やることがあるのだから。
閉じてくれない瞼を無理矢理閉じさせ、僕は深い眠りの中へと逃げ出した。
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夢を見た。
どこか遠い空の下で、僕は燃える街並みとその傍らに立つ二人の男を見ていた。
「――ッ!」
夢だ。夢のはずなのに、僕は僕を見ていた。
僕でも相手の男でもない、第三者からの視点。
僕は傍観者としてこの場にいた。
僕がなにか叫んでいる。
それを聞いてか、もう一人の僕ではない男が振り向いた。
それでも尚、僕は男に向かって叫び続けている。
何が起きているのか分からない。
でもなんとなく、見覚えがあるような気がした。
そうだ。見たことがある。
二人の奥で赤く燃え上がるその街は――
――僕が住んでいた街に、酷似していた。
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目が覚めた。
最初に僕の目に入り込んできたのは、カーテンの隙間から漏れ出た陽の光と、僕自身の掌だった。
あの夢は何だったのだろうか。
夢なのに夢ではない、どこか現実味を帯びた夢だった。
「い……っ」
頭痛が酷い。目眩がする。
そんな中でも、一つ特徴的に覚えていることがあった。
「……黒目、黒髪」
夢の中の僕と対峙していた男は、そんな珍しい容姿をしていた。
赤く染まっていた視界の中で、その特徴的な姿だけが脳裏に焼き付いて離れなかった。
「もう一つ、何か忘れられない事があったような気がする……」
僕ととても深い繋がりのある事柄だったはずなのに、どうしても思い出せない。
所詮、夢は夢だという事なのだろうか。
「でもあれは、夢だとして見過ごすわけには行かないような気がする」
だからと言って、僕に何が出来るのかという話ではあるのだが。
そこでふと時計を見ると、もうすぐ朝食の時間のようだった。
「……さっさと着替えないとな」
毒など入っていないと分かっていても、警戒することを忘れられないのが哀れな人というものなのである。
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