魔法で生きる、この世界

㌧カツ

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Episode.3 出会いと別れのセブンロード

20話 消滅

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 宿があった場所を見つめ、僕はただ呆然としていた。
 本当に、何が起きたのかわからない。

 そんな時、不意に僕の肩を誰かが叩いた。
 サッと振り返ると、そこにはいつになく真面目な表情をしたミクトがいた。
 さらに後ろには、少し怯えた表情のルミネもいる。

「二人は大丈夫だったのか」

「あぁ、俺は直前に外に出てたから巻き込まれることは無かったし、ルミネも少し前に宿を出ていた……けど」

「……けど?」

 言葉を濁すミクトに、僕は続きを話すように催促する。
 するとミクトはゆっくりと口を開いた。

「ルミネが入ろうとしていた店が、目の前で消えたらしい」

「宿だけじゃなくて、他の店まで?」

 そうか。
 彼女が怯えた表情をしていたのは、もう少しで自分も巻き込まれてしまうところだったからかもしれない。

 そして僕は、宿以外の建物も消えていたことに驚いた。
 正しくは、宿の次にその店が消えていたことに、だ。
 これが誰かの手による現象だったとして、何故犯人は宿の次にその店を選んだのか。
 ただ単に多くの人を消したかったというだけならば、冒険者ギルドでも狙えばいいはずだ。

「いや、違う。冒険者ギルドは休止中だった。そこを消したところで人数の削減としての意味はほとんど無い」

 しかしそれでも妙だ。
 冒険者ギルドがダメならば、役所でも狙えばいい。
 やはりこれは人為的なものではないのか。

 そう考え、とにかく辺りを見回してみようとしたその時だ。

「おい君達! 早く街の外に出ないと巻き込まれるぞ!」

「え? 何が――」

 言われてみて、ようやく気づいた。
 辺りの街の様子は変わり果てていた。
 端から端まで並んでいた建物はごく僅かにまで減っている。
 中には、今まさに消えていったという街もあった。

 楽しげに賑わっていた大通りが今は全く別の理由で騒がしくなっている。

「街が、消えている……!?」

「おいロトル、流石にまずいんじゃないのか? 俺達も逃げた方がいい」

「いや、確かにそうなんだけど……やっぱりいい。とりあえず街を出よう」

 僕達は振り返り、流れていく人の波の中に混じって街の門へと走っていく。

 言いようのない違和感が、僕の脳裏を繰り返し過る。
 何かがおかしい気がする。どこかに決定的な綻びがある気がする。

 しかしそんなことを考えている暇もなく、街は次々に消滅していく。
 僕達が街の外に出た頃には、街の中の殆どの建物が消えていた。

「これは……ひどいわね」

「うん。本当に、何が起きたんだ」

 突如発生した『街の消滅』。
 ここまで来ると、流石に人為的なものだとしか言いようがない。
 だが『街』が消えた訳では無いのだ。
 消えたのは『街の建物』であって、街自体がまるごと消えたとは言い難い。
 しかし中の文明が消滅してしまえば、それは街の消滅に他ならないのかもしれない。

「これは……まさに消滅都市といった感じだね」

「うわぅ、モルヴィドさん?」

「やぁ、一週間ぶりだね。ロトル君」

 突然背後から聞こえた声は、あのモルヴィド・ローゴの声だった。
 僕を見て、にこやかにそう言った彼だった。
 しかしその目は全く今の状況を笑い事だとは思っておらず、真剣にバーニンの街を眺めているようだった。

「あの、モルヴィドさんはどうしてここへ?」

「僕はある要件があってこの街の役所に行くつもりだったんだけどね。来てみたらこれってわけだよ」

「なるほど……」

 彼がここにいる理由への納得と同時に、僕は先程感じた違和感の正体を考えてみる。
 しかし全く答えは浮かんでこない。

「ミクト。お前が宿が消えたのを見た時、周りの建物は消えていたか?」

「うーん。あんまし周りは見てなかったから分かんねえけど、俺が覚えてる範囲ではそんなことは無かったと思うぞ」

「わかった。ありがとう」

 とは言ってみたが、今の話を聞いて何かが閃いたわけでもない。
 違和感は、ただの勘違いだったのか。

「ルミネは、店が消えた時の周りの様子を覚えてるか?」

「分かんない。なんかいつもより騒がしいような気もしたけど……」

「そうか……ありがとう」

 全く見えてこない答えに頭を悩ませていると、ふと頭の上を一つの声が通り過ぎていった。

「まずい! もうすぐ街全体が消滅する!」

「な……っ」

 僕はその声を聞き、弾かれるかのように街を見る。
 すると次の瞬間、街を覆う空間に揺らぎが見え始めた。
 まるで街だけが別の空間に隔離されているようだった。
 そんな錯覚が起きるほど、街とその周りの空気は違って見える。

 やがて、その揺れが最大限に達した時だ。

「――――」

 ――白く眩い光とともに、ひとつの街が世界から姿を消した。


------------------------------------------


 僕達はしばらくの間、その場を動くことも出来なかった。
 ただ呆然と、街があったはずの場所を見つめるのみ。

 最初にその硬直から抜け出し、的確な指示を与えたのはモルヴィドだった。
 そして今現在、僕達を含めた街にいた冒険者は街の跡地を隅から隅まで調べていた。
 僕達は、三人いるとはいえ危険だということで、バーニンの街の冒険者の方に付き添ってもらいながら作業を続けていた。
 どうやらモルヴィドは用件があるらしく、気がつけばどこかへ消えてしまっていた。

「しかし、本当に何も無いですね」

「あぁ。人為的ならば何かしらの痕跡が残るはずだ。自然に発生した現象なら尚更だ。自然は証拠を隠そうとはしない」

 僕の呟きに応えたのは、『フェンセル・スローキア』という、バーニンの街の中でもまあそこそこの腕を持つ冒険者だ。
 腰の装備を見るに、どうやら主な武器として使っているのは片手剣らしい。
 片手剣自体はとても使いやすいためか特に珍しいものでも無いが、それとセットで使われる片手盾を彼は身につけていない。

「盾は、使わないんですか?」

「そうだな。盾は片手で持てるものであろうと俊敏性を落とす。邪魔なだけだ」

「へ、へえ。そうなんですか」

「そういう君は、何で戦うんだい? 見たところ何も持っていないようだが」

 まあ個人によって考え方は違うのだろうと納得する僕に、フェンセルは逆に質問を投げかけてきた。

「僕は魔法で戦いますから。向こうの二人はそれぞれ片手剣と短剣を」

「杖は持たないのか?」

「あなたと同じですよ。あっても邪魔なだけですから」

「なるほど」

 それだけ言うと彼はその場から少し離れた場所を調べに行った。
 僕もこの辺りは調べ終わったので、その場を離れ別の場所を調べにいく。

「でも、街が消えたってことは『憤怒の魔本』が送られていたとしても消えちゃったかもな……」

 せっかく手に入れられそうだったのだが、仕方がない。
 今思えば、いっそのことあの場面で奪ってしまえばよかったかもしれない。
 などと今更思ったところで遅いのだが。

「無い。何も無い」

 もしやその証拠ごと街を消滅させてしまったのではないだろうか。
 そう考えれば、未だに証拠が発見されない理由も分かる。

 全くこっちに来てからは、災難にあってばかりの日々だ。
 そろそろ長期休暇が欲しい頃合いである。

 空を浮かぶ雲は、そんな地上の様子を他人事のように眺めながら依然変わることもなく流れていた。
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