魔法で生きる、この世界

㌧カツ

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Episode.3 出会いと別れのセブンロード

23話 焦燥

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 僕達はその後、それぞれ別の宿に泊まることになった。
 四人ずつ、僕とミクトとルミネとフェンセルが同じ宿屋に泊まる。

 さすがに女の子が一人というのはどうかと思ったが、フェンセル曰く――

「子供には興味ねぇよ。お前らで勝手にやってるんだな」

 ――とのことだ。

 ミクトはまあ僕が何とかすればいいので、ルミネには出入口に一番近い部屋に泊まってもらうことにした。

「今日はなんだか疲れた気がするな。夕飯食べたら寝よう」

 肉体的な疲れは殆ど無いと言ってもいいほどだ。
 でも僕の体は動きたがらなかった。
 今日は、もう何もしたくない。

「あぁ、そういえば。『消滅』のことはどうなったのかな」

 犯人や原因に繋がる手がかりは見つかったのだろうか。
 僕は街を出てからずっと、『消滅』のどこかに違和感を感じていたのだ。

 でもその違和感が何処から生まれるものなのか――

「何処、から?」

 僕が違和感を感じているのは何故だ。
 何処にその違和感の元はあるのか。
 違和感は、何を根拠に生まれたものなのだ。

「根拠が……無い?」

 僕が違和感を抱く『根拠』が無い。
 自分の持つ情報に何かおかしな点があり、それが『根拠』になって違和感が生まれるものなんじゃないのか。

「こんなのおかしいだろ……めちゃくちゃじゃないか」

 でもそんなことを考え続けている気力は僕にはもうなかった。

 時計を見る。
 もう夕飯の時間だ。
 僕は部屋の扉を開き、しっかりとした足取りで、でも呆然とした意識で、同じ階の食堂に向かった。

 気がつくと、僕は端のほうの机に一人で座っていた。
 目の前にある机の上には湯気の立つ料理が置かれている。

 思考が漠然とした想像のように切り替わり、幾つものそれは泡のように次々に消えていく。

 食事を終え、僕は部屋に戻っていた。
 その途中の廊下で、食堂に行くルミネとすれ違った。
 微笑んで通り過ぎていったかと思うと、彼女は後ろから声をかけてきた。

「顔色悪いよ。なにかあった?」

 善意しかない言葉だと思った。
 疑う必要もなく、嘘をつく必要はないはずだった。

 でも僕は。

「大丈夫だよ。何も、なかった」

 彼女の方へ振り返ることもなく、ただその場から逃げ出したいという思いで僕は言った。
 ルミネはどんな顔をしたのだろうか。
 僕は、それを知ることは無かった。

「――そう。大丈夫ならいいんだけどね。じゃあね」

「……うん」

 結局僕は空っぽだった。

 開けたばかりの部屋の扉が、ゆっくりと音を立てて閉じた。
 窓から入る夕日の光だけが、部屋の中を薄らと照らしていた。


----------------------------------------


 僕は誰かの喧しい声で目が覚めた。
 肩を揺すられているらしく、視界がグラグラと揺れる。

 ぼんやりと映る視界の中で、クリーム色の髪をした誰かが叫んでいる。
 その後ろには黒い雲が広がっていて、今にも雨が降ってきそうな具合だ。

「なんて顔してるんだ……ミクト」

 思い通りに声が出ず、喉から出たのは掠れた声だった。
 手を伸ばそうとするが、腕が動かない。
 腕だけではなく、全身が動かなかった。

 顔も、首も、胴体も、足も、どこも動かない。
 違った。動かないだけではなかった。

 ――痛い。痛い痛い痛い。
 全身を突き刺すような痛みが襲っていた。
 その痛みは朦朧としていた僕の意識を根本から刺激して覚醒させ――



「あ……あぁ……?」

 ――今度こそ本当に目が覚めた。
 だが依然として僕を呼ぶ声は止まず、肩もゆすられ続けている。

「ロトル起きろ! 大変だ! 大事件だ!」

「……っ!?」

 思わず布団から勢いよく起き上がった。
 肩に手をかけていたミクトが少し驚いてこちらを見る。

 しかしそんな表情をしていたのも束の間、ミクトは元の顔に戻って僕の手を握った。

「説明している時間はない! 早く来てくれ!」

「なん、何だよいきなり――」

 ミクトは僕の手を強く握り、勢いよく扉を開けて廊下を走り出した。
 伸ばしきっていた足が引きずられそうになり、僕は咄嗟に足を縮めて床を踏みしめた。

 外へ出る途中に食堂を通った。
 そこには誰もいなかった。
 カウンターの向こうの厨房にも、人の気配はしない。

 前を見ると、僕達は既に外にいた。
 目の前では大勢の人々が集まり、何やら大騒ぎしている。

「ミクト、一体どういう状況なんだ」

 こちらに背を向けて立っているミクトに、僕はそう聞いてみた。
 するとミクトは顔だけでこちらに振り返って言った。

「……怪我人が出るかもしれない」

「はぁ!?」

 それだけ言うとミクトはもう一度前を向き、それっきり黙ってしまった。

 怪我人が出るとはどういう事なのか。
 それなのに何故誰も止めようとしないのか。

 考えているうちに、その答えは直々に知らされた。

「これより、伝説の剣のレプリカの争奪戦を開始致します!」

「「「うおおおおおおおおお!」」」


 ――ん?

「おいミクト、僕はこんな事のために起こされたのか」

「何が「こんな事」だ! これは大事だぞ! 一年に数本しか作られないんだぞ!?」

「そんな事言われても、僕には正直関係ないし」

 僕はそれだけ言って、宿の中へと戻った。
 食堂の時計を見てみると、まだ五の朝だった。

 そりゃあ食堂には誰もいないわけだ。
 何せ朝食の時間は七の朝からで、その二時間も前に食堂に来る人などそうそういない。

「……?」

 まただ。また何かが引っかかる。
 違和感がまた生まれた。

 僕は部屋に戻った。
 ふと壁にはられた紙を見てみる。

『宿屋『サーディア』は六の朝から十一の夜まで宿泊受付を行っています』
『受付時間外は部屋の鍵を持っていない方は出入りできません』

「部屋の鍵」

 僕はミクトに手を引かれ、着替える間もなく宿の外に引きずり出された。
 そのあと僕はミクトを置いて、一人でこの部屋まで戻ってきた。

「今は、五の朝」

 この部屋の鍵は、変わった様子もなく部屋の机の上に置かれていた。

「僕は鍵をもっていなかった……?」

 僕は部屋の扉を乱暴に開け放ち、荷物を持ってルミネの部屋に向かった。
 鍵はかかっている。当たり前だ。
 扉を叩き、中にいるであろうルミネに声をかける。

「ルミネ! 起きてるか!? 起きてたら扉を開けてくれ!」

 少しの間そうしていると、やがて扉は開かれた。

「ど、どうしたの……ってうわぁっ!?」

 何か言いかけたルミネを抱きかかえ、僕はそのまま部屋の窓へと走った。
 片方の手を空かせ、その手を窓の鍵に伸ばす。

「ねぇ、ちょっと! いきなりどうしたの……!?」

 そんなルミネの質問にも応えず、僕は震える手で鍵を開ける。
 すぐに窓の鍵は開いた。
 そのまま窓を限界まで開け、僕はそう高くない壁を飛び越えて外に飛び出した。

 その瞬間。

「……ぇ」

 ――抱き抱えたままのルミネの、声にならない小さな悲鳴とともに。
 飛び出してきたばかりの宿は跡形も無く消えた。
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