魔法で生きる、この世界

㌧カツ

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Episode.3 出会いと別れのセブンロード

25話 嵌る

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 急げ、急がなくては。
 僕はアドサの街と『憤怒』と戦った場所がどれだけ離れているかも忘れ、一心不乱に走り続けた。

 奴が逃げ出したとなれば、それは大事になりうるだろう。
 何せその事実は、奴がこれまであの炎から脱出出来ることを隠していたということ。

 炎から出た、と言うだけなら納得がいく。
 何故なら、バーニンの街で宿屋が消えた時点で『憤怒の魔本』は消え、ダリッツが持っていた能力もそれと同時に消えたということだ。
 それならば、そのまま熱さに耐えて炎の外に出るだけでいい。

 しかしそれは不可能なのだ。
『消滅』を実行するために外に出なくてはいけないのに、外に出るために『消滅』を実行しなくてはいけない。
 これは大きな矛盾になる。
 つまりダリッツは、

「……っは、はぁ……っ多分、この辺だったはずだけど」

 見たことのある風景だ。
 そう遠くない場所に、砕けた岩が見える。

 僕がダリッツと戦った場所は、確かにここで間違いないようだ。
 だが、いくら辺りを見回しても、僕が奴を閉じ込めていた炎は見当たらない。

「そもそも炎がない……? そうか、炎を消せば外に出られる……!」

 ――完全に解けた。はずなのに。

 未だに僕の胸の中に、小さな違和感が残っているのは何故か。
 そうなると、何かがおかしいのだ。

「一体何が――」

 そう言って、一歩踏み出した僕の足。
 しかしそれは、そこにあるべき地面を踏むことはなかった。
 それはもう片方の足にしても変わらず、先程まで踏みしめていたはずの地面はそこには無かった。

「あああああぁぁぁぁああ!?」

 ――世界が揺れる。

 猛烈な浮遊感が僕を襲う。

 落ちる、落ちる。
 そう、僕は落ちていた。

 おかしかったのだ、最初からずっと。

 何故バーニンの街は『街ごと』消えたのに、今回は『宿だけ』が消えたのか。

 あの時ルミネは僕を止めた。
 そんな事をしている暇が無い事ぐらい、目の前で宿が消えたのを見ればわかるはずだ。

「悪いな、ロトル・ストムバート」

「――――」

 ダリッツが犯人なら、わざわざ街を消す必要はなかった。
 彼は自分の意思で『本』を何処に転移させるかや、転移させるかさせないかも、当然指定することが出来る。

「お前は邪魔だったんだよ」

「――――」

 穴の中に響く声。
 それは何処か聞き覚えのある声だった。

 そして見上げた先にいた声の主は。

「じゃあな。俺はお前のこと、嫌いじゃなかった」


 僕はここで死んでしまうわけにはいかなかった。


 僕にはやらなければいけないことがあった。


 僕にはまだやりたいことがあった。


 そして何より――

「僕は! もう誰も傷つけたくない! なかった、のに」



 ――ルミネに、無茶はしないと言ってきてしまったから。


---------------------------------------------------


 明滅する視界は、何も見えないとまで思ってしまうような暗闇に覆われていた。

 落下が終了する直前、僕は風魔法を全力行使し自らの身を衝突の衝撃から守ることに成功した。
 しかし膨大な魔力が消費されることまでは防げず、地面に着地した瞬間、眩暈とともに横倒しになって意識を失ってしまった。

「ここは……」

 目を覆いたくなる、もとい、目を覆われているかのような闇が、僕の目の前に広がっていた。
 唯一視認出来るのは、先程まで僕がもたれかかっていた壁、そして今立っている地面だ。
 その地面や壁も十メートルほど先にまでなれば見えなくなってしまう。

 他に分かることと言えば、異常なほど静かであるということぐらいだろうか。


 そして、僕をここに落としたであろう人物は。

「黒目黒髪の、男だった」
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