魔法で生きる、この世界

㌧カツ

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Episode.3 出会いと別れのセブンロード

26話 ヒノ・カゲト

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 炎を右手の上に浮かべ、僕は落ちてきたばかりの通路らしき場所を進んでいく。
 穴の下で助けを待っていた方がいいかと思ったのだが、穴は既に塞がれてしまったようで何も見えなかった。
 良く考えればこんなに暗い時点でそれは確定していたのだが。

「にしても、早いところ脱出しないと」

 朝食を食べていない上に、長い距離を走ってきたので既に腹が空いてきている。
 食料らしきものも未だ見つからず、ただ出口を探すしかない状況にあった。

 だがそれらを押しのけて未だ脳内に居座っているのが――

「黒目黒髪の男……子供ではなかった気がするな」

 穴の上から見下ろしていた、あの男だった。
 間違いなく奴がこれに関わっていることは間違いないのだが、何せ奴は地上にいる。
 手のだしようがないわけだ。

「って、これは」

 目の前に現れたのは、分かれ道。
 ごく単純に左右に枝分かれしているだけの分かれ道だ。

「……ただ」

 右の方から異常なまでの魔力を感じる。
 明らかに怪しすぎる。

 しかし裏を返せば、そちらに行けば何かあるということだ。
 それがあの男との対峙なら、最も望むところにあるだろう。

「……行くしかない」

 無茶はしないと言ってしまった。
 でも。

「無茶しなきゃ、この盤面は切り抜けられそうにないんだ。……ごめんね」

 ここにはいない少女に謝罪し、僕は右の道へと歩を進めることにした。

 その先も、なんら変わりない通路が続いていた。
 ただその部分だけをくり抜いたかのような通路だ。

 しかし一歩進むごとに、感じる魔力は強くなっていく。

「あんまり長い間は使えないし、早く終わってほしいんだけど……っ!?」

 そんなことを言い始めた時、左側から魔力が飛んでくるのを感じた。

 咄嗟に後方に飛びずさり、僕はその軌道から逃れる。
 そしてその瞬間、目の前を赤い光が通り抜けた。

熱光線ヒート・レイ……感知式の罠か」

 漂ってくる魔力に気を取られ、発動の瞬間まで気づくことが出来なかった。

 ――それほどまでに、この先にある何かは圧倒的な存在感を放っていた。

「この先は、壁や床にも注意を向けていかないと」

 しかしそれは杞憂に終わってしまった。
 何故か。

 炎に照らされていた通路が、突如として広がったのだ。
 壁が中で途切れ、しかしその先にも空間は続いている。

「一体何なんだ……」

 そう言ってその先に足を踏み込んだ瞬間の事だった。
 突如として手のひらの上の炎が消失し、代わりに燭台に炎が灯り辺りを照らした。

 そして視線の先、広がった空間の一番奥に。
 僕は見てしまった。

「よう、久しぶりだな」

 その男は、全身を黒い衣服で覆っていた。
 珍しい衣服だった。
 今まで見たことがない。

 その容姿が、さらに男の怪しさを際立てていた。

「――悪い、はじめましてだったか」

 その男はこちらへと振り返ると、先程の言葉を撤回するかのようにそう言った。
 その声は、聞き覚えのある声だった。

 否、絶対に忘れるわけにはいかない忌まわしい男の声だった。

「――お前は、誰だ」

 僕は視線の先にいる男にそう問いかけた。
 自然と、見知らぬ人に対するいつものような丁寧な言葉は消えていた。

 男は顔だけでなく、全身をこちらに向けた。
 そして――

「――俺の名前は日野影人だ。よろしくな」

 黒目黒髪のその男は、不敵な笑みを浮かべて言ったのだった。


--------------------------------------------------


 私は何を思うわけでもなく、ただ漠然とした感情で扉を開いた。

「うわっ、な、なんだルミネか」

 同じように、反対側から扉を開こうとしていた少年――ミクト・アーダインが、驚きで声を上げた。
 そのまま横を通り抜けようとしたミクトだったが、少ししたところで立ち止まり、扉を閉めようとしていた私にこう問いかけた。

「――何かあったのか? そんな険しい顔をして」

 私と同じように、彼は表情を見てそう問いかけたのだ。

 だから私も、あの少年と同じように――

「ううん、何もないよ」

「……そうか」

 上辺だけの笑顔を貼り付けて、そう答えた。

 私には何が信じられるのだろう。
 嘘だらけの世界の中で、私はそんな感情を抱きつつ呟いた。

「ねぇ。私は、君だけは信じたかったんだよ」

 外にいるであろうミクトに表情を見られないように、私は。


 宿屋『サーディア』の、扉を閉じた。
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