魔法で生きる、この世界

㌧カツ

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Episode.3 出会いと別れのセブンロード

28話 黒目黒髪の男②

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 不敵な笑みを浮かべ、ヒノ・カゲトは意味ありげな言葉を残した。
 しかし俺は間髪入れず、次の攻撃を繰り出した。

「『圧風ウィンドインパクト』!」

「……ちっ」

 目前に迫る死の圧力を受け、ヒノ・カゲトは地に叩きつけられた剣を拾うことなく背後へ飛んだ。

 当然の判断だ。
 ヒノ・カゲトの持つスキルは、のスキルだ。
 魔法を防ぐ手段など持っていない。

 着地したヒノ・カゲトはすぐさま勢いをつけ走り出す。
 しかしそれは確実に、先程も見た『偽物』のヒノ・カゲトだ。

「……でも、だからこそ」

「――――」

 俺は手のひらに魔力を集中させ、爆発的な威力で魔法を放った。

 それは何故か、簡単な話だ。
 ヒノ・カゲトはここまで、俺の攻撃を全て偽物の自分に狙いを定めさせて回避した。
 だからこそ、ここで俺の目の前にいる自分を本物の自分自身に置き換えたと俺は判断した。

 ――フェイクを使ったフェイク。
 それがヒノ・カゲトの作戦だ。

 やがて、莫大な力を持った魔力は目の前で立ち止まったヒノ・カゲトに迫り――


「――な、っ!?」

 その体を通り過ぎて、その奥の壁に衝突して爆発した。

「――残念、そのまんま偽物でした」

「ぐ、ぁあっ!」

 背後から嘲笑うかのような声が聞こえ、俺の体が宙を舞った。
 背中に痺れるような痛みが走り、俺は思わず声をあげる。

 縦横に回転する景色が見え、直後に俺の体を衝撃が貫いた。
 地面に横倒しになり、全身を弱い痛みが襲い続ける。
 しかし相手は待ってくれない。
 ヒノ・カゲトは落とした剣を拾い、真っ直ぐこちらへ向かってくる。

「割と、っ冷静に判断したつもりだったんだが……そこまで読んだの、か?」

「……? 判断した?」

 を着たヒノ・カゲトは、俺の顔を見下ろしてこう続けた。

「――知ってた、の間違いじゃないのか?」


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 急激に意識が覚醒し、僕は現実に回帰した。
 それと同時に、全身に痛みが貼り付けられる。

「……く」

 痛い。
 確かに痛い。
 だが――

「立てないほどじゃ、ない」

「何だ、赤い方はさっさと諦めて沈んでくれたのにな」

「『俺』が……? それは、確かにきついかもしれませんね」

 なぜ『俺』が諦めて意識を落としたのかは僕には分からない。
 だが僕よりも意思が強いであろう『俺』が僕に代わったということは。

「僕じゃなきゃ勝てないって、そう判断したんじゃないですかね?」

「は、なるほどな。確かにそうかもしれねえ」

 冷静だ。
 最初に対面した時よりも、冷静な気持ちでここに立てている。
 今なら行ける。
 今じゃなきゃ、ダメだ。

 だから捻りだせ。
 この状況を打開できる方法を。
 魔法しかない僕にできる方法を。

 それは――

「『過負荷魔法オーバー・マジック』!」

「そりゃ何とも、オーバーなネーミングだな、おい」

 いつもと同じ量の魔力の魔法に、過剰に属性を与えるとどうなるか。
 なんのことは無い。
 頑張れば魔力の中に属性を込めることは出来るのだ。

「でもそれに衝撃が加わると、どうなると思います?」

「そ、そりゃ、どうなるんだろうな……? 気になるから見せてくれよ――死なない程度に」

 逃げ出したヒノ・カゲトのいる方向に向かって、一つの魔法が放たれた。
 それは『火槍ファイアランス』だった。
 しかしその魔力の塊は、異様な圧迫感と光を放っていた。

 当然だ。
 その中には、ありえないほどの量の『属性』が詰め込まれているのだから。

「くっそ、思ってたより強、い――」

 その威力に気づき、ヒノ・カゲトは走り出した。
 しかし遅い。遅すぎた。
 『火槍ファイアランス』はヒノ・カゲトの背後の壁に衝突し――

「はぁぁぁああぁ――!?」

 ――凄まじい大きさの、爆発を起こした。
 音の逃げ道がない空間の中で轟音と悲鳴だけが鳴り響いた。
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