魔法で生きる、この世界

㌧カツ

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Episode.1 これが始まりの物語

5話 景色は海底、気分は最低

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 最初に目が覚めたのは、真っ白な世界の中だった。
 何もない、どこかの中間のような世界だった。

 やがて肉体が形作られていった。
 腕が、脚が、何も無い世界に現れた。

 そして最後に、白く染まっていた視界が風景を映し出し始め――

「……っ!?」

 そこに飛び込んできたのは海底の景色。
 それも底から肉眼で見たリアルな風景だった。

 それから周りをよく見てみて、ようやく自分は海底に寝そべっているのだと気づいた。

 いや待て、今はそんなことを考えている暇はない。
転送トランスファー』によってこの海底に飛ばされたのだとしたら、あと数十秒すれば『転送トランスファー』の「環境適応効果」が消えてしまうだろう。

 効果が切れて溺れ死ぬ前に、陸か水面に上がらなければ。
「環境適応効果」のおかげで体が軽くなり、陸にいる時と同じように動けることを確認した僕は、陸に向かって走り出す。

「はぁっ……はぁっ……」

 水面の高さを見るに、あと数メートルも走れば顔が出る。
 それに対して残り効果時間は、あと十数秒。

 まぁ、このぐらいなら間に合うだろう。
 そう思った僕は、油断して周囲の確認を怠った。


 ――ガツン

「ぁ」

 足元の石に躓き、僕は派手にすっ転ぶ。

「~~っ!」

 本来の水の中であれば、ゆっくりと前方に倒れるだけで済んだだろう。
 しかし『環境適応効果』のおかげというべきか、この場合はなのだが、僕の体は普段陸上にいる時のように勢いよく前に倒れた。
 それに加えて物防1である僕にとっては、ただ転んだだけでも大ダメージだ。

 やばい、やばい!

 残りの効果時間は、数秒といったところだろうか。
 陸までの距離は四、五メートル。


 5。

「くっ……はぁっ……」

 視界がぐらつき、立ち上がることさえ難しい。
 そこに痛みが加わり、さらに僕の思考を混乱させる。

4。

「立て、たぁ!」

 散々もがき、ようやく立ち上がることができた。
 しかし足元は揺らいだままで、そのまま真っ直ぐと立ち続けることは難しそうだ。

3。

「は、はぁっ……!」

 横も後ろも見ずに、前だけを向いて走り出す。
 気がつけば痛みは感じなくなっていた。

2。

「はぁ……はぁっ……」

 もうすぐで陸だ。ギリギリセーフかな。
 しかしそんな甘い考えは易々と叩き潰された。

1。

「ごばぁご……!?」

 突然体が重くなり、勢いを止めきれなかった僕はそのまま前に倒れる。

「ごふぁっ……」


 あぁ、残り時間数えるの一秒遅かったみたいだ。

 そんなことを考えながら、僕は意識を手放していった。



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「ぁ、あ?」

 あれからどれぐらい気を失っていたのだろうか。
 気がつけば僕は砂浜に打ち上げられていた。

 まだ意識が朦朧とする中、僕は手を付き立ち上がろうとした。

「がはっ……ごはぁ」

 突然、猛烈な痛みに襲われる。

 ちらりと自分の体を見ると、服は血で汚れ、体の至る所に擦り傷が出来ている。

「……ぅあぁーっ!」

 それを認識した途端、

 痛み。苦しみ。
 色んなものが体の底から這い上がってきた。

 せっかくはっきりとしてきた意識が、またもや朦朧としてくる。

「はぁ……は、ぁ?」

 僕の叫びを聞きつけたのだろうか、ふと視界の端に何かが映り込んで来る。


 あぁ、今度こそ死んだかもしれないな。

 僕の新しい旅は、最悪のスタートを迎え、最悪な形で終わるようです。

「~~~」

「~~~~」

 聞こえてくる声も、次第に薄れていくような気がした。
 何かを話しているのだということだけ分かる声を聞きながら、僕は再び意識を失った。
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