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Episode.1 これが始まりの物語
6話 僕なんていない
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「……ん」
目が覚めると、僕の視線の先には見たこともないどこかの家の天井が広がっている。
どうやらベッドに寝かされているようだ。
起き上がって周りを見渡してみると、色々な家具が置いてあるのが分かった。
しかし不必要なものはなく、必要なものだけを揃えたような部屋だ。
言っちゃ悪いが、裕福そうには見えない。
だからと言って貧乏そうかと言われれば、全くそんなことはない。
しっかりと整えられているし、掃除もされているみたいだ。
「さて、どうしようか」
目が覚めたのは良かったのだが、近くに人が居る気配もないし、どうすればいいのか分からない。
よく見ると、先程まで至る所にあったはずの擦り傷は、きれいさっぱり無くなっていた。
それほど時間がたったということなのだろうか?
だが、光の属性を操れるものは傷を癒したりすることもできると聞いたことがあるので、やはりそっちだろうか。
そんなことを考えていると、部屋の扉が開き誰かがこちらに入ってきた。
「ぁ……目が覚めたんですね!」
ベッドに座っていた僕を見るなりその人は一目散に走り出し、誰かを呼んだようだった。
「イレスタ! 少年が目を覚ましたぞ!」
「あら、本当?」
再びドスドスと走る音が聞こえ、今度は二人、男性と女性が部屋の中に入ってきた。
「良かった。本当に目が覚めたんですね」
「あの、僕はどうしてここに……?」
砂浜で意識を失ってからここで目が覚めるまで、当然だが僕には全く記憶に無い。
僕はその空白の時間とここに居る理由を聞くため、そう聞いたのだ。
「何やら叫び声がしたのでね。砂浜に駆けつけたら君が倒れてたってわけさ」
「なるほど……」
じゃあ気を失う直前に見たあの人影は、この人達だったんだな。
「わざわざここまで運んでいただけたんですね。ありがとうございます」
「いやいや、人が倒れてたんだから、助けるに決まっているだろう」
「あなたは、やさしい方なんですね」
助けてくれた理由を聞き、僕は思わずそう言った。
しかし尚も、彼は謙遜を続けるようだった。
「いやぁ、そんなことはないよ。そもそも君に治癒魔法をかけたのは私じゃなくてイレスタだからね」
イレスタ。
それはきっと、彼の隣にいる彼女のことなのだろう。
「そう、いえば」
「む?」
僕のふと漏れたつぶやきに、目の前の彼は聞き返した。
聞きそびれては困るので、今聞いておくことにした。
「あなた方のお名前は、なんとおっしゃるのですか?」
「私かい? 私はコトルマだ。コトルマ・ダルエルタだよ」
コトルマ・ダルエルタ、か。
なんか''ル''が多くないか?
いや、きっと気にしてはいけないのだ。
それに続いて、隣にいた女性――イレスタも改めて名乗りを上げた。
「そして私が、イレスタ・ダルエルタです」
それを聞き、僕はあることに気がついた。
「あの……」
「なんだい?」
「もしかして、お二人はご夫婦なんですか?」
そう、家名だ。
二人は名乗った家名が同じだった。
僕の問いに、コトルマは微笑んで答えた。
「あぁ、その通りさ。私達は最近結婚したばかりなんだ」
「そうなんですか。それは、おめでとうございます」
コトルマはもう一度微笑み、「ありがとう」と言った。
そして彼もまた、僕に問いを投げかけてきた。
「そして、まだ君の名前を聞いていなかったね」
「そういえば、そうでしたね。僕はロトル・ストムバートです」
たしかに僕は、まだ名乗っていなかった。
僕自身も名前を伝えると、コトルマはこう言ったのだった。
「ロトル君か。よし、覚えたぞ。これからよろしくね」
「えぇ、よろしくお願いしま――」
流れに任せて会話を終わらせようとして、僕は気づいた。
今、何と言った?
「えっと、よろしくお願いしますというのは……?」
「だって君、何か訳ありなのだろう?」
まずい。
ここで海岸に倒れていた理由を問われるのは非常にまずい。
何せ僕がここに飛ばされた理由は操作魔法にあり、それは絶対に漏らすわけにはいかない情報だ。
何とかして反論するしかない。
「どうして、そう思うんですか? もしかしたら海で遊んでいて事故にあっただけかも知れませんよ?」
「ただの事故で、あんなに傷を負うわけがないだろう。それに……」
う、それはそうだな。
そう納得しかけていた僕は、コトルマの次の一言でその納得を覆し、完全に困惑することとなった。
「それに……この近辺で''ストムバート''なんて家名聞いたことが無いからね」
「は……?」
そんなはずはない。
うちの両親は魔法が得意だということで有名で、住んでいた街だけでなくその近辺の街でもそれなりに名は知れていたはずだ。
それだけ、遠くに飛ばされたということか?
今見てみると、窓の外に見える景色には全く見覚えがない。
見覚えのない、海と、森と、少し離れたところにこれまた見覚えのない街の風景。
「そん、な」
「そう落ち込むことは無いさ。私たちと暮らしていくうちに、きっとすぐに新しい土地にも」
そう慰めてくれた彼の声すら遮るような大声を出して、僕は窓から飛び出し、森の中へと走り出していく。
「あ……ぁあーっ!」
「ロトル君!?」
僕を知る者などいない。
僕が知る者などいない。
これほどの絶望が、あるだろうか。
目が覚めると、僕の視線の先には見たこともないどこかの家の天井が広がっている。
どうやらベッドに寝かされているようだ。
起き上がって周りを見渡してみると、色々な家具が置いてあるのが分かった。
しかし不必要なものはなく、必要なものだけを揃えたような部屋だ。
言っちゃ悪いが、裕福そうには見えない。
だからと言って貧乏そうかと言われれば、全くそんなことはない。
しっかりと整えられているし、掃除もされているみたいだ。
「さて、どうしようか」
目が覚めたのは良かったのだが、近くに人が居る気配もないし、どうすればいいのか分からない。
よく見ると、先程まで至る所にあったはずの擦り傷は、きれいさっぱり無くなっていた。
それほど時間がたったということなのだろうか?
だが、光の属性を操れるものは傷を癒したりすることもできると聞いたことがあるので、やはりそっちだろうか。
そんなことを考えていると、部屋の扉が開き誰かがこちらに入ってきた。
「ぁ……目が覚めたんですね!」
ベッドに座っていた僕を見るなりその人は一目散に走り出し、誰かを呼んだようだった。
「イレスタ! 少年が目を覚ましたぞ!」
「あら、本当?」
再びドスドスと走る音が聞こえ、今度は二人、男性と女性が部屋の中に入ってきた。
「良かった。本当に目が覚めたんですね」
「あの、僕はどうしてここに……?」
砂浜で意識を失ってからここで目が覚めるまで、当然だが僕には全く記憶に無い。
僕はその空白の時間とここに居る理由を聞くため、そう聞いたのだ。
「何やら叫び声がしたのでね。砂浜に駆けつけたら君が倒れてたってわけさ」
「なるほど……」
じゃあ気を失う直前に見たあの人影は、この人達だったんだな。
「わざわざここまで運んでいただけたんですね。ありがとうございます」
「いやいや、人が倒れてたんだから、助けるに決まっているだろう」
「あなたは、やさしい方なんですね」
助けてくれた理由を聞き、僕は思わずそう言った。
しかし尚も、彼は謙遜を続けるようだった。
「いやぁ、そんなことはないよ。そもそも君に治癒魔法をかけたのは私じゃなくてイレスタだからね」
イレスタ。
それはきっと、彼の隣にいる彼女のことなのだろう。
「そう、いえば」
「む?」
僕のふと漏れたつぶやきに、目の前の彼は聞き返した。
聞きそびれては困るので、今聞いておくことにした。
「あなた方のお名前は、なんとおっしゃるのですか?」
「私かい? 私はコトルマだ。コトルマ・ダルエルタだよ」
コトルマ・ダルエルタ、か。
なんか''ル''が多くないか?
いや、きっと気にしてはいけないのだ。
それに続いて、隣にいた女性――イレスタも改めて名乗りを上げた。
「そして私が、イレスタ・ダルエルタです」
それを聞き、僕はあることに気がついた。
「あの……」
「なんだい?」
「もしかして、お二人はご夫婦なんですか?」
そう、家名だ。
二人は名乗った家名が同じだった。
僕の問いに、コトルマは微笑んで答えた。
「あぁ、その通りさ。私達は最近結婚したばかりなんだ」
「そうなんですか。それは、おめでとうございます」
コトルマはもう一度微笑み、「ありがとう」と言った。
そして彼もまた、僕に問いを投げかけてきた。
「そして、まだ君の名前を聞いていなかったね」
「そういえば、そうでしたね。僕はロトル・ストムバートです」
たしかに僕は、まだ名乗っていなかった。
僕自身も名前を伝えると、コトルマはこう言ったのだった。
「ロトル君か。よし、覚えたぞ。これからよろしくね」
「えぇ、よろしくお願いしま――」
流れに任せて会話を終わらせようとして、僕は気づいた。
今、何と言った?
「えっと、よろしくお願いしますというのは……?」
「だって君、何か訳ありなのだろう?」
まずい。
ここで海岸に倒れていた理由を問われるのは非常にまずい。
何せ僕がここに飛ばされた理由は操作魔法にあり、それは絶対に漏らすわけにはいかない情報だ。
何とかして反論するしかない。
「どうして、そう思うんですか? もしかしたら海で遊んでいて事故にあっただけかも知れませんよ?」
「ただの事故で、あんなに傷を負うわけがないだろう。それに……」
う、それはそうだな。
そう納得しかけていた僕は、コトルマの次の一言でその納得を覆し、完全に困惑することとなった。
「それに……この近辺で''ストムバート''なんて家名聞いたことが無いからね」
「は……?」
そんなはずはない。
うちの両親は魔法が得意だということで有名で、住んでいた街だけでなくその近辺の街でもそれなりに名は知れていたはずだ。
それだけ、遠くに飛ばされたということか?
今見てみると、窓の外に見える景色には全く見覚えがない。
見覚えのない、海と、森と、少し離れたところにこれまた見覚えのない街の風景。
「そん、な」
「そう落ち込むことは無いさ。私たちと暮らしていくうちに、きっとすぐに新しい土地にも」
そう慰めてくれた彼の声すら遮るような大声を出して、僕は窓から飛び出し、森の中へと走り出していく。
「あ……ぁあーっ!」
「ロトル君!?」
僕を知る者などいない。
僕が知る者などいない。
これほどの絶望が、あるだろうか。
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