魔法で生きる、この世界

㌧カツ

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Episode.1 これが始まりの物語

12話 不穏な気配

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 ロトルさん。彼女は確かにそう言った。

 僕は、名乗ったつもりは無いんだけどなぁ……

「あの、えー……っと」

「トミルです」

 どう呼べばいいのか考えていた僕を見て、彼女は自らの名前を教えてくれた。

「ありがとうございます。えっと、トミルさん」

「なんでしょうか?」

「この鍵には、どんな魔法が掛けられているのか、ご存知ですか?」

 一か八か聞いてみたのだが、彼女は動揺よりも困惑の表情を浮かべた。
 演技か?それとも本当に知らないのか……

「魔法……ですか?」

「はい、この鍵から微妙に魔力を感じるんですが」

 ここに来ても彼女はその表情を崩す様子は無く、この質問が無意味であることに僕は気付かされた。

「店長からそういった話は全く聞いていませんし、そもそも魔力自体私には感じられませんね」

「そうですか。……すみませんいきなり変な事を聞いて」

「いえ、大丈夫ですよ」

 これは代々店長しか知らないことなのだろうか。
 しかし、今まで誰もこの魔力に気づかなかったのはやはりおかしい。

 何か、何かあるはず。

 そう思えて、仕方がなかった。


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「さてと、今日は何をしようか」

 新しい朝。思わず目が眩むほどの強い日差しを浴びながら、僕は今日のスケジュールを考えていた。

「やっぱり、この辺の地図は買っておいたほうが良いかな」

 地図を売ってるのは……確か、冒険者ギルドだったよな。
 歩く足を早めながら、ギルドの場所を思い出し歩いていく。

 まだ朝方なだけあって、昨日よりも人通りは少ない。

 ボーッとしながら歩いていると、突然肩に衝撃が走る。
「いてっ」
 突然の衝突に、僕は派手にずっこける。

「おぉ、すまんな坊や。大丈夫か?」

「大丈夫……です。すみません、ちゃんと前見てなくて」

 ボーッとして周りを見てなかったのは事実だし、一応謝っておかないとな。

「ん、じゃあな。気をつけろよー」

 ぶつかられた事は気にしてないみたいだし、多分大丈夫だろう。

 ポケットに手を突っ込みながら去っていく男の後ろ姿を見ながら、僕は呟く。

「……そんなので」

 人間ってのは、本当に哀れなもんだ。

 次の瞬間、赤い閃光が走り、男の衣服を貫いて消える。
 貫いた部分からポトリと落ちたのは、僕のポーチ。

「騙せると思ったの? この犯罪者が」

 突然の出来事に驚いて足を止めた男に近づき、僕は一発蹴りを入れる。

「うげっ」

 脛を思いっきり蹴られ、呻き声をあげながら地面に倒れ伏せる男。

 確かに前を見てなかったのは僕だし、ぶつかったのも僕だ。
 
 しかし、それとこれとは別だ。
 ほとんど身動きが取れないような状態ならまだしも、こんなに人通りが少ないんだからちょっと避けるぐらいできるし、そうすればぶつかる事もないだろう。

 まぁ、黒だよな……

「すみませーん。誰か衛兵さん呼んでくれませんかー?」

 その声に、静かだった通りがざわざわと騒がしくなる。

「何? またスリ?」
「でも、あれってあの子が一人で撃退したのか? それなら結構な実力者だぞ」

 うーん……僕はあんまり目立ちたくなかったんだけどなぁ……

 というか、早く冒険者ギルドに行きたいんですけど!?


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 ある街の一軒家。
 彼は情報屋からある情報を手に入れた。

「ファストの街で、スリ騒ぎ……」

 正直またかと思い、いつもは適当に流すのだが。

「撃退したのは十三歳の少年……」

 こればっかりは見逃せない。

「その少年の名は……」

「……ロトル・ストムバート……か」

 ようやく見つけた。
 今からファストの街に行っても、そこに居る可能性は低い。

 だが……

「行ってみる価値は、あるよな」

 また一人、影で動き出す者がいた。
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