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Episode.3-B 日常の終わり
前編 日野影人の日常とは何か
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こちらは本編第三章「出会いと別れのセブンロード」で登場する「日野影人」視点のストーリーとなります。
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ビルとビルの間、壁に遮られて光のほとんど入ってこない路地裏。
俺は固く冷たいアスファルトの上に腰を下ろし、被っていたフードを外してため息をついた。
「――俺はいつ、間違いを犯してしまったんだろう」
青い空を見上げ、俺は自分の今までの人生を振り返ってみる。
しかし幾ら考えても答えが出ることはなく、全て無駄に終わることとなった。
「今日は……二月二十二日だな」
俺はやたらと『2』という数字に縁がある。しかしそれは悪い意味での話なのだが。
中学二年の夏、俺は自転車で転倒し負傷。
同じく中学二年の、次は二月。怒りに任せて投げた鉛筆が、クラスメイトの右頬に突き刺さる。
続いて中学三年の六月二十二日。クラスメイトが投げたバットが左脚に直撃。
まだまだ数え切れない程の災難があるのだが、俺の不運を語るのであればこれだけでも充分だろう。
「今日まで何も無かったから、一番危険なのは多分今日なんだよな……あ?」
未だ見ぬ災難に改めて警戒を強めていると、ふと耳に複数の足音が入ってくる。
慌てて音のした方を向くと、そこにはいかにもという感じの不良共がいた。
「よう、お前が日野影人とかいうやつか?」
「……あぁ、そうだ」
「昨日は俺の部下を散々可愛がってくれたみてえじゃねえか。あぁ!?」
テンプレ発生。路地裏で不良に身に覚えのない因縁をつけられる。
しかしこの状況がテンプレになるのは小説にしかいないような優良児のみであり、俺にとっては日常茶飯事である。もちろん因縁も身に覚えがあり、それは紛れもない事実だ。
「なるほど。それで復讐? 報復? をしに来たってわけか」
「よくわかってんじゃねえか。それじゃさっそく殺られてもらうぜ……!」
見た感じこの集団のトップっぽい男が、上着を脱ぎ捨て俺に迫ってくる。
しかし焦ってはいけない。動きをよく観察し、相手の次の一手を読むことが大事なのだ。
「――左頬に外側から打撃」
「……!?」
攻撃を読まれたことで、男は焦りの表情を浮かべる。
しかしもう遅い。既に男の右腕は打ち出された後で、ここから勢いを止めることは不可能だ。
俺は迫り来る腕を避け、男の鳩尾に膝蹴りを喰らわせる。
「……ッ!」
男は少し怯んだが、すぐに負けじと蹴りを繰り出してくる。
しかしそれも俺には掠りもせず、再び隙を見せてしまうだけの結果に終わる。
俺は片足立ちの状態の男に近づき、顔面を思いっきり殴った。
「がぁッ!」
男は痛みに顔を歪め、そのまま地面に倒れて気絶してしまった。
そして俺は、男の後ろで喧嘩を見ていた者達に近づいていく。
「お前ら、ああなりたいならかかってこいよ。受けて立ってやるぜ?」
「ひ、ひぃっ!」
一人が悲鳴を上げたのを皮切りに、次々と不良共が散り散りになっていく。
やがて俺の前に立つ者がいなくなった頃、俺はもう一度空を見上げて言った。
「――俺はいつ、間違いを犯してしまったんだろう」
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いつからだろうか。
俺の周りには友と呼べる者がいなかった。
皆、災難を呼び寄せる俺を忌み離れていった。
『ごめん、ごめんな』
高校に入った頃、小学生からの付き合いだった親友にも距離を置かれるようになった。
やがて友達はおろか、俺に話しかける者すら居なくなった。
いじめなどは無かった。
俺の今までの経歴から、近づくと災難に巻き込まれると思ったのだろう。
頼れる先生も、友人も居ない。
それでも、両親はそんな俺を最後まで見捨てないでくれていた。
友人がいなくても、俺の事を信じてくれる、守ってくれる。そんな両親が支えとなって、俺はずっと耐えていられた。生きていられた。
――だがそんな優しい父親や母親すらも、俺のもとから消えてしまった。
紛れもない俺のせいだった。
その日学校から帰ってきた俺の目に入ってきたのは、焼け落ちる家と黒い煙だった。
『あああぁぁあぁぁ……!』
俺は肩にかけている鞄のことすら忘れ、その場に崩れ落ちて泣き叫んだ。
涙と鼻水で顔を汚したその顔は、それは酷いものだっただろう。
しかしそれを心配するどころか、馬鹿にする者さえ俺の周りにはいなかった。
だがそれは当然の事であり、これまでもこれからも、俺に近づいてくるものなど誰一人としていないことは明白だった。
――それは忘れもしない、高校一年の二月二十二日の事だった。
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「ありがとうございましたー」
そんな店員の声を背に浴びながら、俺は買ったばかりの商品が入った袋をぶら下げ、コンビニを出た。
そしてそのまま通りを抜け、近くの山へと向かう。
道と呼べるかどうかすら怪しい道を幾つも抜けた先にあるのは、ダンボールで作った簡単な居住地だった。
しかしその茶色かったダンボールの塊は迷彩色に塗り替えられており、注意して見ない限りは中々見つからないであろう仕上がりになっている。
「さて、と」
またもやダンボールで作られた粗末なドアを開き、俺は中へと入る。
そこにはペットボトルと懐中電灯で作られた簡易的なランプがあり、これを点ければ昼間でも闇に包まれている室内がそこそこ明るくなる。
俺は持っていた袋を机の上に置き、そのまま机の近くに座る。
そして袋の中からコンビニ弁当と割り箸を取り出す。
「金はとりあえずあるし、コンビニ弁当でも腹が膨れればそれでいい」
毎日三食コンビニ弁当だが、流石に料理器具を買ってまで美味しくご飯を食べたいとは思わない。金がかかるし、そもそも電気やらなんやらを自分で用意しなくてはいけない。
俺は冷たいおかずと米を食べながら、今のこの生活について考える。
今こそ何十万円とあるが、それでもいつかは尽きてしまうだろう。だからそれまでにどうするか考えておかなくてはならない。
バイトをしてもいいが、もし不良共に見つかりでもすれば面倒なことになる。
俺は何でもいいが、バイト先の店に迷惑をかける訳にはいかない。
「……ごちそうさまでした」
俺は食べ終わった弁当の容器を袋に入れ、それを部屋の端にあるゴミ袋に詰め込む。
そして外へと出ると、元来た道を引き返し街へと戻る。
日が昇り、朝よりも日の光が届くようになった路地裏を抜け、俺は通っていた高校へと向かう。
コンビニの時計で確認した限り、今は丁度昼休みのはずだ。
「~~~~」
その予想は当たっていたらしく、校門からぞろぞろと生徒が出てくる。
俺の前を通り過ぎていく学生の波の中、一人だけこちらに話しかけてくる者がいた。
「……よう、元気してるか?」
「あぁ、一応な」
平凡を象徴したかのような顔立ちのそいつは、俺の『友人だったという体』になってる俺の友人。
そいつは今までの俺を見ていてもなお、俺のことを見捨てないでくれたただ一人の男、『天翔歩海』だ。
海のように広大な心を持って歩んで欲しいからとこの名前になったらしいが、よくもまあここまで期待通りに育ったものだと思う。
「それで影人、お前またやったらしいな」
「俺から仕掛けたわけじゃないんだけどな。最初にやった奴が結構大物で、そこから下っ端にどんどん連鎖していってるんだよ」
俺が仕掛けたのは最初の一人だけなのだが、そこから次から次へと勝手にこっちにやってくるのだから迎え撃つ他ないだろう。
それに最初の一人も、俺としてはれっきとした理由があっての行動だった。
「まぁ、いいや。それじゃあまたな!」
「そうだな、またいつか」
それだけ言うと、歩海は通り過ぎて行った学生の列の後ろを追うように歩いていった。
その後ろ姿を見ながら、俺もその場で立ち上がり、元いた路地裏を目掛けて歩き始めた。
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ビルとビルの間、壁に遮られて光のほとんど入ってこない路地裏。
俺は固く冷たいアスファルトの上に腰を下ろし、被っていたフードを外してため息をついた。
「――俺はいつ、間違いを犯してしまったんだろう」
青い空を見上げ、俺は自分の今までの人生を振り返ってみる。
しかし幾ら考えても答えが出ることはなく、全て無駄に終わることとなった。
「今日は……二月二十二日だな」
俺はやたらと『2』という数字に縁がある。しかしそれは悪い意味での話なのだが。
中学二年の夏、俺は自転車で転倒し負傷。
同じく中学二年の、次は二月。怒りに任せて投げた鉛筆が、クラスメイトの右頬に突き刺さる。
続いて中学三年の六月二十二日。クラスメイトが投げたバットが左脚に直撃。
まだまだ数え切れない程の災難があるのだが、俺の不運を語るのであればこれだけでも充分だろう。
「今日まで何も無かったから、一番危険なのは多分今日なんだよな……あ?」
未だ見ぬ災難に改めて警戒を強めていると、ふと耳に複数の足音が入ってくる。
慌てて音のした方を向くと、そこにはいかにもという感じの不良共がいた。
「よう、お前が日野影人とかいうやつか?」
「……あぁ、そうだ」
「昨日は俺の部下を散々可愛がってくれたみてえじゃねえか。あぁ!?」
テンプレ発生。路地裏で不良に身に覚えのない因縁をつけられる。
しかしこの状況がテンプレになるのは小説にしかいないような優良児のみであり、俺にとっては日常茶飯事である。もちろん因縁も身に覚えがあり、それは紛れもない事実だ。
「なるほど。それで復讐? 報復? をしに来たってわけか」
「よくわかってんじゃねえか。それじゃさっそく殺られてもらうぜ……!」
見た感じこの集団のトップっぽい男が、上着を脱ぎ捨て俺に迫ってくる。
しかし焦ってはいけない。動きをよく観察し、相手の次の一手を読むことが大事なのだ。
「――左頬に外側から打撃」
「……!?」
攻撃を読まれたことで、男は焦りの表情を浮かべる。
しかしもう遅い。既に男の右腕は打ち出された後で、ここから勢いを止めることは不可能だ。
俺は迫り来る腕を避け、男の鳩尾に膝蹴りを喰らわせる。
「……ッ!」
男は少し怯んだが、すぐに負けじと蹴りを繰り出してくる。
しかしそれも俺には掠りもせず、再び隙を見せてしまうだけの結果に終わる。
俺は片足立ちの状態の男に近づき、顔面を思いっきり殴った。
「がぁッ!」
男は痛みに顔を歪め、そのまま地面に倒れて気絶してしまった。
そして俺は、男の後ろで喧嘩を見ていた者達に近づいていく。
「お前ら、ああなりたいならかかってこいよ。受けて立ってやるぜ?」
「ひ、ひぃっ!」
一人が悲鳴を上げたのを皮切りに、次々と不良共が散り散りになっていく。
やがて俺の前に立つ者がいなくなった頃、俺はもう一度空を見上げて言った。
「――俺はいつ、間違いを犯してしまったんだろう」
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いつからだろうか。
俺の周りには友と呼べる者がいなかった。
皆、災難を呼び寄せる俺を忌み離れていった。
『ごめん、ごめんな』
高校に入った頃、小学生からの付き合いだった親友にも距離を置かれるようになった。
やがて友達はおろか、俺に話しかける者すら居なくなった。
いじめなどは無かった。
俺の今までの経歴から、近づくと災難に巻き込まれると思ったのだろう。
頼れる先生も、友人も居ない。
それでも、両親はそんな俺を最後まで見捨てないでくれていた。
友人がいなくても、俺の事を信じてくれる、守ってくれる。そんな両親が支えとなって、俺はずっと耐えていられた。生きていられた。
――だがそんな優しい父親や母親すらも、俺のもとから消えてしまった。
紛れもない俺のせいだった。
その日学校から帰ってきた俺の目に入ってきたのは、焼け落ちる家と黒い煙だった。
『あああぁぁあぁぁ……!』
俺は肩にかけている鞄のことすら忘れ、その場に崩れ落ちて泣き叫んだ。
涙と鼻水で顔を汚したその顔は、それは酷いものだっただろう。
しかしそれを心配するどころか、馬鹿にする者さえ俺の周りにはいなかった。
だがそれは当然の事であり、これまでもこれからも、俺に近づいてくるものなど誰一人としていないことは明白だった。
――それは忘れもしない、高校一年の二月二十二日の事だった。
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「ありがとうございましたー」
そんな店員の声を背に浴びながら、俺は買ったばかりの商品が入った袋をぶら下げ、コンビニを出た。
そしてそのまま通りを抜け、近くの山へと向かう。
道と呼べるかどうかすら怪しい道を幾つも抜けた先にあるのは、ダンボールで作った簡単な居住地だった。
しかしその茶色かったダンボールの塊は迷彩色に塗り替えられており、注意して見ない限りは中々見つからないであろう仕上がりになっている。
「さて、と」
またもやダンボールで作られた粗末なドアを開き、俺は中へと入る。
そこにはペットボトルと懐中電灯で作られた簡易的なランプがあり、これを点ければ昼間でも闇に包まれている室内がそこそこ明るくなる。
俺は持っていた袋を机の上に置き、そのまま机の近くに座る。
そして袋の中からコンビニ弁当と割り箸を取り出す。
「金はとりあえずあるし、コンビニ弁当でも腹が膨れればそれでいい」
毎日三食コンビニ弁当だが、流石に料理器具を買ってまで美味しくご飯を食べたいとは思わない。金がかかるし、そもそも電気やらなんやらを自分で用意しなくてはいけない。
俺は冷たいおかずと米を食べながら、今のこの生活について考える。
今こそ何十万円とあるが、それでもいつかは尽きてしまうだろう。だからそれまでにどうするか考えておかなくてはならない。
バイトをしてもいいが、もし不良共に見つかりでもすれば面倒なことになる。
俺は何でもいいが、バイト先の店に迷惑をかける訳にはいかない。
「……ごちそうさまでした」
俺は食べ終わった弁当の容器を袋に入れ、それを部屋の端にあるゴミ袋に詰め込む。
そして外へと出ると、元来た道を引き返し街へと戻る。
日が昇り、朝よりも日の光が届くようになった路地裏を抜け、俺は通っていた高校へと向かう。
コンビニの時計で確認した限り、今は丁度昼休みのはずだ。
「~~~~」
その予想は当たっていたらしく、校門からぞろぞろと生徒が出てくる。
俺の前を通り過ぎていく学生の波の中、一人だけこちらに話しかけてくる者がいた。
「……よう、元気してるか?」
「あぁ、一応な」
平凡を象徴したかのような顔立ちのそいつは、俺の『友人だったという体』になってる俺の友人。
そいつは今までの俺を見ていてもなお、俺のことを見捨てないでくれたただ一人の男、『天翔歩海』だ。
海のように広大な心を持って歩んで欲しいからとこの名前になったらしいが、よくもまあここまで期待通りに育ったものだと思う。
「それで影人、お前またやったらしいな」
「俺から仕掛けたわけじゃないんだけどな。最初にやった奴が結構大物で、そこから下っ端にどんどん連鎖していってるんだよ」
俺が仕掛けたのは最初の一人だけなのだが、そこから次から次へと勝手にこっちにやってくるのだから迎え撃つ他ないだろう。
それに最初の一人も、俺としてはれっきとした理由があっての行動だった。
「まぁ、いいや。それじゃあまたな!」
「そうだな、またいつか」
それだけ言うと、歩海は通り過ぎて行った学生の列の後ろを追うように歩いていった。
その後ろ姿を見ながら、俺もその場で立ち上がり、元いた路地裏を目掛けて歩き始めた。
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