魔法で生きる、この世界

㌧カツ

文字の大きさ
67 / 73
Episode.3-B 日常の終わり

後編 終わりの先にある始まりとはなにか

しおりを挟む
 歩海と別れた俺は、もう一度暗い路地裏の地べたの上に座っていた。

 三食の間に、不良共を迎え撃ったり、さっきのように高校に行ったり。毎日毎日それの繰り返しで、昨日も今日も、きっと明日も、何一つ変わり映えのない一日が過ぎていく。
 一般的な『平穏』とはかけ離れてこそするが、変わらず繰り返す日々が俺にとっての『平穏』であり、日常だ。
 もしそれが変わる時が来るとすれば、きっとその時は今日だろう。
 高校二年の二月二十二日。これ程までに変化が見られそうな日はきっと暫くの間来ることはない。
 あるとしても、二十歳の年か、はたまた二十二歳の年か。
 どちらにしろ、遠く離れていることに変わりはない。

「じゃあ、夕食でも買いに行きますか」

 あれからかなり時間が経っていたようで、路地裏を出ると、オレンジ色に染まった空と雲が俺を出迎えていた。
 沈みかけの太陽を横目に、俺は踏切の向こうにあるコンビニへ向かう。

「久しぶりにエイトカレーでも食べようかな」

 コンビニには様々な食べ物や弁当が置かれているが、その中でも俺が一番好きなのは『エイトカレー』だ。
 肉がとても柔らかく美味いだけに留まらず、なんとチンするだけで食べられるというお手軽さ。
 まぁ今は電子レンジなど持っていないのだが、コンビニで温めてくれるので問題なし。
 俺にとっては、一ヶ月に何回かだけ食べるこの『エイトカレー』が、荒れた日常の中での唯一の楽しみだった。

「あと、綾鷲も買っていこうかな」

『選ばれたのは、綾鷲でした』のキャッチフレーズで有名なあの『綾鷲』である。
 俺自身も『健やか茶』より『綾鷲』を選ぶタイプの人間だ。

 そんなくだらないことを考えつつ、俺はレジのカウンターの上に『エイトカレー』と『綾鷲』を置く。

「エイトカレーと綾鷲で合計427円でなります」

 俺は財布から五百円玉を取り出し、カルトンの上に置く。
 すると店員はその五百円玉をレジに入れた。

「500円お預かりします。……こちらお釣りの73円でございます。こちら温めますでしょうか?」

「あ、お願いします」

 店員が『エイトカレー』を指して聞いたので俺が答えると、店員は「かしこまりました」と言って電子レンジの中に『エイトカレー』を入れる。
 そして温め終わりの合図とともに、店員が中から『エイトカレー』を取り出し『綾鷲』と一緒に袋に入れる。

「ありがとうございましたー」

 店員の声を聞きながら、俺は袋を持ちコンビニを出る。
 そこで辺りを見回してみると、先程よりも日が沈み暗くなっていることが分かった。

「日が沈み切る前に、帰ろう」

 俺は袋の持ち手をきつく縛って中身が落ちないようにした後、それを掴んで走り出した。
 向かうのは昼食を食べたあの小屋だ。俺はいつもあの小屋で食事をし、眠っている。

 通りを抜け、路地を抜け、山の中へとたどり着く。
 山の中では生い茂る木々によって日光が遮られており、街の中にいた時よりも暗い。
 俺は途中で道を外れ、草で隠れた斜面を下っていく。
 それほど傾斜はないが、勢いをつけすぎるとつんのめりそうになる。

「よし、もうすぐだな」

 傾斜を下りきったところで、あの小屋が見え始める。
 俺は袋をしっかりと握り直し、走る速度を上げる。
 そしてあのコンビニから走り始めて数分経った頃、ようやく俺は小屋に辿り着いた。

「ふぅ、何とか日が沈むまでに戻ってこれたな」

 額に滲み出る汗を拭きながら、俺は袋を持ち替え、空いた右手でダンボールの扉を引く。
 するとそこには――


「あ、あれ。俺、今外から中に入ったはずじゃ……っていうか、ここどこ?」

 扉を開いた俺の目に飛び込んできたのは、ダンボールで作られて質素な居住地などではなかった。
 吹いたはずの汗が、頬をダラダラと流れ落ちる。

「――マジでここ、どこだよ」

 中世風のレンガ造りの街並みに、様々な髪色をした人々。
 迫り来る波乱の予感に、俺は持った袋のを強く握りしめた。


------------------------------------


 二月二十二日に、二月二十二日に起きたストーリーを投稿する。
 これがやりたかっただけです。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

どうぞ添い遂げてください

あんど もあ
ファンタジー
スカーレット・クリムゾン侯爵令嬢は、王立学園の卒業パーティーで婚約もしていない王子から婚約破棄を宣言される。さらには、火山の噴火の生贄になるように命じられ……。 ちょっと残酷な要素があるのでR 15です。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...