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第8話 上級騎士の末路 side:フォード
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――俺を笑ったやつら、全員まとめて後悔させてやる
ざまぁみやがれ。
そう言いたいのは本当は俺の方だった。
だが現実は違った。
俺は両腕を縛られ、地面に膝をつき、騎士団の連中に睨まれながら連行されていた。
(クソ……あの女……! あのアレクの野郎……!)
エイダに婚約破棄を叩き付けた時は最高の気分だった。
泣くかと思ったら平然としてやがって、ムカついた。
でも所詮、俺が声をかけてやらなきゃ生きていけない女だと、そう思っていた。
なのに――あの化物団長に庇われて、剣まで習って、調子に乗りやがって。
(俺が……俺が悪いみたいに見えるだろ……! お前のせいで、俺は全部失ったんだよ……!)
だが。
転機は突然やってきた。
「フォード・デルを即時解放せよ」
その命令が騎士団本部に届いた時、騎士たちの顔が歪んだ。
近衛騎士団ですら逆らえない、帝国議会の正式文書だ。
「……まさか、議会が……?」
「信じがたいが……従うしかない」
アレクの奴でさえ歯噛みしていた。
ああ、気分がよかった。
俺を捕えていた奴らが、全員悔しそうな顔をしてる。
(ほらみろ、俺を敵に回した罰だ……!)
解放された俺は、その足で密かに議会の使者から伝えられた場所へ向かった。
議会庁舎。
その地下には、一般の議員ですら入ることが許されない“特別区画”があるらしい。
灯りは少なく、石壁は冷たく湿っていた。
歩くたびに靴音がこだまし、まるで地獄に続く道みたいだ。
「よく来たな、フォード・デル」
低い声が奥から響いた。
現れた男――
年老いた白髪に、鋭い青の瞳。
ロードナイト帝国議会議長、ベルナール・グランツ。
帝国随一の権力者。
アレクの比じゃない。
俺を上級騎士に引き上げたのも、裏でこの男が動いていたからだ。
「ベルナール様……お声をかけていただき光栄です」
「光栄か? ふん。口だけは昔から達者な男だ」
ベルナールはゆっくりと近づき、その瞳が俺を射抜く。
「報告を聞こう。
……薬物密輸の件、失敗したそうだな?」
冷たい声に、喉がひりつく。
俺は慌てて頭を下げ、言い訳を並べた。
「アレク団長とエイダが邪魔に入りまして……特にエイダの奴が予想外に……その……」
「エイダ・エーデルワイスか」
ベルナールの表情は微動だにしなかったが、その一言に鋭い棘があった。
「侯爵令嬢如きに計画を潰された、と?」
「そ、それは……っ、あいつはただの女じゃ……!
アレクの後ろを離れない卑怯な――」
「黙れ」
その声は静かだった。
静かすぎて、逆に背筋が凍った。
「フォード。
お前に与えられた役割は“駒”だ。
それすら満足にこなせない駒に、価値はない」
「べ、ベルナール様……待ってください。
俺はまだ、使えます! 何でもしますから!」
「もう遅い」
彼が指をひとつ鳴らすと、部屋の影が揺れた。
黒いローブの男が二人、音もなく姿を現す。
そして――ベルナールは剣を抜いた。
老人とは思えないほどの鋭い動きだった。
「ひ、あっ――ま、待っ……!」
「安心しろ。お前の死は誰も気づかん。
“失踪”として処理しておこう」
「や、やだ……やだ……死にたくない……!!
エイダ……エイダぁ……!」
「お前が呼ぶ名は、もはや届かん」
ベルナールはすっと刃を振り上げ――
――次の瞬間、俺の視界は赤く染まった。
「ぐ、あ……っ……!」
喉が裂け、声が漏れない。
地面に崩れ落ち、冷たい石の感触に頬が当たる。
(……な……なんで……俺が……)
(……俺が……こんな……)
(あいつらを……見返すはず、だった……のに……)
血の海の中で、意識が薄れていく。
視界の端で、ベルナールの影がゆっくりと背を向けた。
「さて。
次はアレク・ブラウンと、エイダ・エーデルワイスだ」
そう呟く声だけが最後に聞こえた。
――俺の意識は、そこで完全に途切れた。
ざまぁみやがれ。
そう言いたいのは本当は俺の方だった。
だが現実は違った。
俺は両腕を縛られ、地面に膝をつき、騎士団の連中に睨まれながら連行されていた。
(クソ……あの女……! あのアレクの野郎……!)
エイダに婚約破棄を叩き付けた時は最高の気分だった。
泣くかと思ったら平然としてやがって、ムカついた。
でも所詮、俺が声をかけてやらなきゃ生きていけない女だと、そう思っていた。
なのに――あの化物団長に庇われて、剣まで習って、調子に乗りやがって。
(俺が……俺が悪いみたいに見えるだろ……! お前のせいで、俺は全部失ったんだよ……!)
だが。
転機は突然やってきた。
「フォード・デルを即時解放せよ」
その命令が騎士団本部に届いた時、騎士たちの顔が歪んだ。
近衛騎士団ですら逆らえない、帝国議会の正式文書だ。
「……まさか、議会が……?」
「信じがたいが……従うしかない」
アレクの奴でさえ歯噛みしていた。
ああ、気分がよかった。
俺を捕えていた奴らが、全員悔しそうな顔をしてる。
(ほらみろ、俺を敵に回した罰だ……!)
解放された俺は、その足で密かに議会の使者から伝えられた場所へ向かった。
議会庁舎。
その地下には、一般の議員ですら入ることが許されない“特別区画”があるらしい。
灯りは少なく、石壁は冷たく湿っていた。
歩くたびに靴音がこだまし、まるで地獄に続く道みたいだ。
「よく来たな、フォード・デル」
低い声が奥から響いた。
現れた男――
年老いた白髪に、鋭い青の瞳。
ロードナイト帝国議会議長、ベルナール・グランツ。
帝国随一の権力者。
アレクの比じゃない。
俺を上級騎士に引き上げたのも、裏でこの男が動いていたからだ。
「ベルナール様……お声をかけていただき光栄です」
「光栄か? ふん。口だけは昔から達者な男だ」
ベルナールはゆっくりと近づき、その瞳が俺を射抜く。
「報告を聞こう。
……薬物密輸の件、失敗したそうだな?」
冷たい声に、喉がひりつく。
俺は慌てて頭を下げ、言い訳を並べた。
「アレク団長とエイダが邪魔に入りまして……特にエイダの奴が予想外に……その……」
「エイダ・エーデルワイスか」
ベルナールの表情は微動だにしなかったが、その一言に鋭い棘があった。
「侯爵令嬢如きに計画を潰された、と?」
「そ、それは……っ、あいつはただの女じゃ……!
アレクの後ろを離れない卑怯な――」
「黙れ」
その声は静かだった。
静かすぎて、逆に背筋が凍った。
「フォード。
お前に与えられた役割は“駒”だ。
それすら満足にこなせない駒に、価値はない」
「べ、ベルナール様……待ってください。
俺はまだ、使えます! 何でもしますから!」
「もう遅い」
彼が指をひとつ鳴らすと、部屋の影が揺れた。
黒いローブの男が二人、音もなく姿を現す。
そして――ベルナールは剣を抜いた。
老人とは思えないほどの鋭い動きだった。
「ひ、あっ――ま、待っ……!」
「安心しろ。お前の死は誰も気づかん。
“失踪”として処理しておこう」
「や、やだ……やだ……死にたくない……!!
エイダ……エイダぁ……!」
「お前が呼ぶ名は、もはや届かん」
ベルナールはすっと刃を振り上げ――
――次の瞬間、俺の視界は赤く染まった。
「ぐ、あ……っ……!」
喉が裂け、声が漏れない。
地面に崩れ落ち、冷たい石の感触に頬が当たる。
(……な……なんで……俺が……)
(……俺が……こんな……)
(あいつらを……見返すはず、だった……のに……)
血の海の中で、意識が薄れていく。
視界の端で、ベルナールの影がゆっくりと背を向けた。
「さて。
次はアレク・ブラウンと、エイダ・エーデルワイスだ」
そう呟く声だけが最後に聞こえた。
――俺の意識は、そこで完全に途切れた。
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