雰囲気で読む話

塩バナナ

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すきときらいのちがい

やってしまった

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「はぁぁぁぁぁ………………」

長く、長くため息を吐く。
疲れた。本当に疲れた。今日はもう何もしたくないってくらい、疲れた。

明日は学校、休んでしまおうか。
ベッドに体を沈み込ませて、枕元のクッションを抱き締めてそんなことを考える。
一日二日休んだって、問題ないくらいには学力あるつもりだし、義務教育でもないんだから行く行かないは自己責任だ。学費を払ってくれている父さんには申し訳ないけど、息子の心の療養だと言えば許してくれるほどには父は僕に甘い。昼食だって母さんが早くに起きて作らなくてもよくなるし、たまには一緒に昼食をとって親子のコミュニケーションをとるのもいいだろう。それに何より、今日僕が作ってしまった気まずさを感じなくて済む。
そうだ休んだら良いことずくめじゃないか。気持ちを整理することだって大事だし。それに………………

…………………………………………。

…でも、それでも。

やっぱり明日は学校行こう。
そして今日のこと、ちゃんと話そう。
窓の外をベッドに転がったまま見上げると空は先程見たのと変わらず曇天だった。深く暗い空だというのに泣き出す気配は全くない。だけれど、そこから動こうともしていないようだ。
考えるのも億劫で、雲を眺めるのにも飽きて、どうしようもなく空虚で、だけど変に焦っていて。ただ何もせず静かに眠りたいのに気持ち悪いくらい何かが僕を急き立てる。
ああ、これあれだ。宿題終わってないのにやる気が起きないでただ時間だけが過ぎていくのに似てる。そんでやる気が出るのはテンションがおかしくなった深夜で、眠気で思考力が低下してるからものすごく時間をかけて終わらせて、気づいたら家を出る二時間前とか。そんな感じのやる気が起きる前。
でも実際は宿題なんて学校で終わらせてきたし、今しなきゃいけないこともない。

考えたくないと思っている心を無視して、思考はのことを映し出す。

(違う、やめろ、見たくない、みたくないんだ。)

アイツの表情はどうだったっけ。
アイツ、笑ってはいなかった。いや、顔は笑顔だった。…うん、直前まで普通に駄弁ってたもんな。
笑ったとき、ちょうど太陽の光が雲の切れ間から射し込んできて、それで、アイツを照らすもんだから……綺麗だと、思った。
それが心の中だけに押し止めていれば、アイツはあんな顔しなかったのかな。

止めろと言っても思考は更に続ける。

絶句。唖然。
そんな言葉がピッタリなくらい少し細目の瞳を見開いて、弧を描いていた口が引っ張られたように歪んでいた。
あーあ、引かれた。
混乱した頭が他人事のようにそう働いて、気付いたら僕は走って帰っていた。

一緒に帰ろうって、約束してたんだけどなぁ。
自嘲気味に嗤う顔は抱いていたクッションと被った布団に隠された。

やっぱまずは謝らないとだよな。
分かってはいるけど、避けられたらどうしよう。嫌だよな。こんな僕気持ち悪いよな。そりゃあ避けたくもなる、な。

……いや、いやいや。
よく言うじゃないか、許して欲しいから謝るんじゃなくて、謝りたいから謝るんだって。そう、これは自己満足!
いや、駄目だろ。違う。自己満足じゃなくって、何か他に表現があったような……無かったような。

まあそんな自己保身に走るんじゃなくて、とりあえず、約束を反故にしちゃったんだから謝るのは当然だよな。うん。
もし、避けられたら……んー……うん。明日、その時に考えよう。これは逃げじゃない。戦略的撤退。
起こり得るなかで想像した一番最悪なことが起こるのは実際は一パーセント以下の確率らしい。だったらアイツが僕を避けるのは『最も最悪なこと』なんだからそれが起こるのは奇跡に近いんだ。そんな途方もないことを今考えたって詮無いことだ。

もういいや、寝よう。
晩ご飯は……いいか、食欲ないし。
口の中で、誰に告げるでもなくおやすみを呟いて、目を閉じた。

クッションは腕の中のまま。
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