1 / 12
01 激戦
しおりを挟むあと一撃。
それが決まればこの戦いも終わる。
騎士クルトは深く息を吸い込んだ。目の前には手負いのドラゴンが一頭。
うろこは剥がれ落ち、口からは獰猛な牙が見えている。
(これで決める……!)
大剣を握りしめて、竜の心臓の位置を確かめる。胸の中央──そこが最も激しく動いている。
(あそこに入れる。そうすれば帰れるんだ……!)
脳裏に、王宮で待つ妹や友人たちの顔が浮かぶ。彼らの表情を再び笑顔にするために必ず勝たなければならない。
『グォォオ!!』
凄まじい咆哮とともにドラゴンがしっぽを振り下ろす。
(見切った!)
飛び上がって避ける。そのまま動きを止めたしっぽを足場にして胸元に近づく。行く手を阻もうとする前足を大剣の刃ではねのける。
黒いウロコで覆われていない、白く滑らかな胸元が迫る。激しく動く胸元に大剣を突き立てた。
ぐちゅり。
肉を引き裂く感触と同時にドラゴンの絶叫が巨大な洞くつに響き渡る。
ビリビリと肌を震わせる声は、確かに獣が絶命する時のものだった。
どぉん。
音を立ててドラゴンの巨体が倒れていく。その動きを利用してさらに剣を奥へと突き立てた。
鮮血が吹きすさび、顔にかかる。
(終わった……)
息をついた瞬間だった。
足下に異様な魔法陣が浮かび上がる。
『クク。人の子にしてはやるではないか。おもしろかったぞ。ニンゲン』
ぎょろり。
殺したはずの黒竜の目が開き、楽しげに目を細める。
知性あふれる行動に大剣を引き抜こうとしたが遅かった。
(抜けない!)
瞬時にあきらめ、腰の短剣を引き抜いて構える。
武器はあとで何とかなる。
この強敵に油断は禁物だ。
『ふむ。その英断。実に良いな。我の伴侶にふさわしい。
妹御が言っていただけのことはある。これは楽しめそうだ』
「はっ! 何を言って──!?」
おもわぬ単語の出現に顔を上げたのがいけなかった。
魔法陣が完成する前に逃げるのが遅れる。
紫の閃光に包まれた。
光が収束した時、ドラゴンの傷跡は完全に消えていた。
この数刻、戦い抜いた時間がきれいさっぱりなくなっている。胸元に突き刺したはずの大剣もなくなっていた。
だがそれは自分も同じだった。
「貴様、一体なにを……?」
不振に思った瞬間、下半身から今あってはならぬ熱がせりあがってきた。
「はっ、……ぁ、くうっ……!」
必死に我慢するが、熱は一向に収まらない。立っていられず、ドラゴンの腹に膝をつく。
『淫紋の効果がしっかりと出ているようだな。これは楽しみだ』
「この……下衆め!」
握りしめていた短剣で腹の柔らかい部分を刺そうとしたができなかった。
手に力が入らない。
『ふふふ。いいゾ。我も簡単に伴侶が得られてはつまらん。
そうだな。まずはその硬そうな鎧を自ら脱いでもらおうか』
「だれがそんなこと──!?」
手が勝手に動いていた。クルトの意思に反して、唯一の武器、短剣を置いて、鎧を脱ごうとする。
「やめろ! おい、言うことを聞け!」
クルトの虚しい悲鳴だけが大洞くつに響いた。
ここは黒竜の住処だ。モンスターも人も誰も寄りつかない。
助けは望めそうにない。
何よりも黒竜が先ほど言った言葉。まるで妹と知り合いのようではないか。
(まさか、まさか──嵌められたのか?)
10
あなたにおすすめの小説
禁断の祈祷室
土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。
アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。
それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。
救済のために神は神官を抱くのか。
それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。
神×神官の許された神秘的な夜の話。
※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。
皇帝陛下の精子検査
雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。
しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。
このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。
焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?
卵を産んでしまったハーピィ男子の話
志田
BL
ハーピィのヒューイは相棒の天族のディオンに片想いをしていた。ある日、卵を産めるようになったのをきっかけに、こっそりディオンの子どもを作ろうと衝動的に計画するが…。異種族×異種族。おバカ受。
「レジ袋はご利用になりますか?」
すずかけあおい
BL
仕事帰りに寄る、いつものコンビニで五十嵐 歩(いがらし あゆむ)はイヤホンをつけたまま会計をしてしまい、「――――?」なにかを聞かれたけれどきちんと聞き取れず。
「レジ袋はご利用になりますか?」だと思い、「はい」と答えたら、実際はそれは可愛い女性店員からの告白。
でも、ネームプレートを見たら『横山 天志(よこやま たかし)』…店員は男性でした。
天志は歩に「俺だけのネコになってください」と言って…。
神父様に捧げるセレナーデ
石月煤子
BL
「ところで、そろそろ厳重に閉じられたその足を開いてくれるか」
「足を開くのですか?」
「股開かないと始められないだろうが」
「そ、そうですね、その通りです」
「魔物狩りの報酬はお前自身、そうだろう?」
「…………」
■俺様最強旅人×健気美人♂神父■
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる