黒竜は宿敵を娶りたいようです。

雲丹はち

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02 疑念

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祖国で帰りを待つ人々の顔が、今や歪んで見えてくる。
そもそも今回の黒竜討伐はどのようにして始まった?

そうだ、妹が言い出したのだ。

王太子妃として暮らす妹が、ある時天啓があったと国王に伝え、そこから騎士である自分に話が回ってきた。
死を覚悟しての道行きだったが、それがまさか妹に計画されていたものとは思いもしなかった。
兄妹仲はずっと良かった。
それは彼女が王太子妃となってからも変わらない。
となれば誰かが妹に強制させたのか?
騎士階級を嫌う貴族連中ならやりかねない話だ。
疑い始めたらキリがない。

『ふふ。鎧とはこうなっているのか。なかなかどうして、ニンゲンも知恵がまわる』

黒竜がわらう。
その間にも着々とクルトの手は鎧を外し、上着のボタンにまで手をかけている。

(こんなことがあってたまるか……!)

騎士ならば剣で最後まで戦いたかった。こんな屈辱を甘んじて受けるのなら、いっそ短剣で自分の喉をかききってやりたい。

『ふぅむ。この程度で死にたいと思うのか。それは困る』
「っ!?」

自分の思考をまるっきり読み取った黒竜の言葉に、ギョッとした。
金色の瞳が嬉しそうにニヤつく。

『このようなこと俺には造作もないぞ。ニンゲン。いや、クルトよ。

 我の伴侶となってもらうからには、ここから先のことにも慣れてもらわねば』

「だれが、ドラゴンの伴侶になど、なる、ものか……っ……!」

さっきから伴侶、伴侶と聞き捨てならない言葉だ。

(そもそも俺は男だぞ……!)

女を抱くと言うならまだしも、モンスターそれもドラゴンに抱かれるなどありえない。

『ふふ。我に性別など関係ない。それに欲しいのは貴様の高潔な魂を汚すことにある』

でろり。
太く赤い舌が伸びてきて、顔や髪をなめる。
ねっとりとしたドラゴンの唾液が肌にまとわりつき、黒髪を濡らした。
垂れた唾液は脱ぎ掛けの胸元も濡らした。
ふと、腹部に見慣れぬ黒い紋章ができていた。へその下に独特な文様を描いている。

『ああ。それが我のつけた淫紋だ。貴様が射精すれば効力も弱まるぞ』
「なっ!?」

ドラゴンの前で肌をさらすのも嫌だと言うのに、この上射精など……断じてできない!

『嫌か? なら、効力をもっと上げてやろうか?』

ほれほれ、と差し出された前足の爪に先ほどの魔法陣と同じ光が宿る。

「や、やめろ! …………イケばいいのだろう!?」

やけくそ気味に吠えると、黒竜はさらにトドメの一撃を付け加える。

『ああ。無論。我の目にも見えるようにな』
「は!? 馬鹿をいうな! だれがお前の前でオナニーなど……!」
『ほう。オナニーと言うのか。一つ賢くなれたぞ。礼を言う。我が伴侶よ』
「だから俺を伴侶と呼ぶのはやめろ!」
『ではやらないのか?』

チラチラと紫の光を宿した爪が視界をよぎる。
退いても地獄、進んでも地獄とはこのことか。


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