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第一試験はおもてなし

パーティーの記念品

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楽しいお茶会も間も無くおしまい。

締めとして、皇后陛下は来賓の皆様方に挨拶をしている最中
私は準備に大忙しでした。

私の戦いはこれからが本番です。
使用人たちに何箱か箱を渡し、皇后陛下の紹介にあずかったら速やかにこれを来賓の方々に渡すように指示をした。

やることはやりましたわ、後は私のスピーチで最低限悪くない印象を残すこと。
今回勝てなくても、大きな差を開いての負けはごめんですわ。

せめて、僅差での負けになるよう言葉巧みなスピーチをするのみ。

そして、皇后陛下の挨拶も終わりに差し掛かった頃

「皆様に感謝を伝えるべく、彼女から記念品を受け取って今日の思い出としてお受け取りください」

と私の紹介をされたのだった。

それを合図に使用人たちは来賓の方々に私の言ったように品物を配り始めた。

「これはこれは…レフレイムのお嬢様からの記念品」

「彼女は目利きだと言う噂があります、この記念品相当高価なものなのでは?」

そういうと皆が期待し、さすがレフレイムのおもてなしと言いながらその箱の中身を確認した。

しかし、その期待は肩透かしとなった。

その箱の中身は、さっきも言ったようにダイヤやパールなどと言った高級な宝石ではなかったからだ。
それは、木と石で作られたブローチだったからだ。

「ま…まぁ、これはこれは…変わった品物ですわね」

「私は嫌いではありませんよ、しかし…パーティーには身につけていけませんわね…」

「庶民の間では、こう言うのも流行っていると聞きますが…」

皆が皆反応に困った。

この記念品で大事なのは、渡した品物そのものではない。
私のトークスキルですわ。

私は誘導されるがままに皇后陛下の隣に立ち、息を吸うと言葉を発した。

「皆様、記念品は確認いただけましたでしょうか?」

来賓の方々の顔を見回す、当然ながら微妙な表情だ
予想通りの反応、そして評価をここから上げるには最高の状態だ。


「その中身は、確かに宝石ではありませんし、はめられている石もただのターコイズ石、魔力も何も込められておりません、
しかし、そのブローチに使われている木の枝とブローチに加工した職人にはそれと同様の価値があるでしょう
まずは使われている木ですが、こちらはこのガーデンの庭師から譲り受けた木の枝になります。」


私は皆に配ったブローチと同じものを手に取りながら、皆にそう話した。

来賓の方々が皆ざわつく。

ただの木の枝が宝石と同じ価値とはどう言うことだと、口々に話していたのだ。
私はスッと指を一本たてると一つずつ説明する。

「皆様が本日の楽しい思い出になれば…と言うことでこのガーデンの枝を使わせていただいたのが一つ目の理由、
二つ目の理由は、皆様もご存知のように魔力の込められた植物です、わずかながらに魔力の込められた木で作ったブローチはきっと皆様に何かしらの幸運を運んでくれるでしょう。」

この時点で皆が魔法アイテムになっていると言うことか!といろめきだち始めた。
正直、このガーデンのものを使うと言うのは、リーブ様の案と少し被りがあるのでちょっと不安はあったのだけれど
意外にそのことを気にする人はいなかったので話を進めた。

「そして3つ目、エコです。」

この3つ目の話は、前世のエコを謳った企画でやった仕事のプレゼンでもやったことがあったのでそれをそのまま引用することにした。

この世界にエコの概念はない、実際エコという言葉の意味がわからずエコって何?と口々に疑問を口にしていた。
それでいい、知っている必要はない。

難しい言葉を使った後で優しい言葉を使うことで、頭にスッと言葉の意味が理解できるようになる。
それを狙ったトークスキルですわ。

「つまり再利用することによって無駄をなくすと言うことです。
この庭で刈った枝はこの後どうなるでしょう?きっと薪になって部屋を暖めたり、庶民のお料理を温めるでしょう。
しかし、せっかく魔力のこもっている植物…燃やして終わりで果たして良いのでしょうか?
せっかく魔力がこもっているのです、わずかな時間わずかな量の魔力でも、こうしてブローチにすれば皆様にご利益があるかもしれません、しかもその辺に落ちているものではありません、皇宮のガーデンの枝、それだけでも箔はつくはずです」

これはハッタリ、CO2を気にしなくていいこの世界でエコなんかする必要はない。
でも、勿体無いと思えば…それを使わないといけないような気になるでしょう?

これで、ただの木の枝が少し価値が上がったところで一番重要ポイントを話す。

「これがこのガーデンの枝を使って記念品を作らせていただきました理由です
そして、皆様に耳寄りなのはこちらからでしょう、この木の枝をブローチに加工した職人です。
この工房は皆一流揃いで、人数も多く加工を頼んでから作り上げるまでのスピードが速いです。
今回は木の加工を頼みましたが、木だけではなく、鉱物や魔法石などといった高価な宝石の加工まで受け持っているのです。
皆様のお好みの素材、デザインのものをこちらの工房でしたら作り上げることも可能です。」

もちろんその工房とはレフレイムの傘下の工房
もし、この工房でアクセサリーを作るとなれば、貴族たちはレフレイムとの繋がりを得ることができる。
レフレイムも工房の名前を売ることができる。

庭師と職人の連携が取れていることもアピールできるこれでレフレイムのプレゼンも完了。

「明日のパーティーに、こちらで作ったアクセサリーを身につけるのもよろしいかと思います。
工房の名前と住所を書いたメモを同封させていただきました、ご興味のある方は是非そちらまでお立ち寄りくださいませ」


でも、これだけではテーマの「おもてなし」がクリアできていない。
だから挨拶の最後にこの言葉を添える

「この記念品を家であらためていただいた時に、このガーデンの枝で作られたブローチを見て、
今日の素晴らしい一日を思い出していただけましたら光栄です」

そうして私はお辞儀をした。
そして、来賓の方々の拍手が、このお茶会の終わりの合図となった。
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