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第三は試験と謎解き

難易度の内訳

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空が赤くなって、カラスが鳴き始めた頃


「ふえええええええ、ローズ様ぁあああああ!!!」


家に帰ろうと校門まで歩いて行ったら、滝のような涙を流しているリリー様に泣きつかれてしまいました。
まさか待ち伏せしたいたのだろうか…と思ったのですが、どうやらそういうことではなく
たまたまちょうど、各々課題の説明が終わったところらしかった。

なぜそれがわかったのかというと、さっき私が乗せられた馬車からリーブ様が降りてきたのが見えたからですわ。
私たちの様子を見てびっくりしたリーブ様は、その場に固まって立ち尽くしてしまいました。

とにかく、彼女を落ち着かせないことには、リーブ様のみならず他の方々からの視線も痛いですわ。
泣き止ませなければ。


「なんですの?そのようなはしたない泣き方をして。
人前ですのよ、恥を知りなさい。」


普通なら、そんな言い方では泣き止んだりしないのですが、
さすがリリー様、涙はまだ流しておりましたが鳴き声は治りましたが…


「えへへ…やっぱりそのお言葉が素敵です」


泣きながらその不気味な笑顔を流している姿は何て表現すればいいのでしょうね。


「それで、なぜ泣いていたのです?」

「私の課題…大変なんです…」

「は?」


リリー様が私の方に分厚い冊子を渡してきたので、それを受け取ると…
それはリリー様に割り当てられた課題なのでした。


「商店の強盗…ですか…。」


覆面を被った男が、宝石店のガラスを割って侵入。
定員を脅し、客を人質にしてありったけの宝石を盗んだ。

以下、当時の資料と書かれたところには盗まれたもの、日時、犯人の特徴など
事細かに書かれていた。

私にはもらえなかったヒントだろう。

確かに、リリー様は和たちとは違ってたくさんのヒントをもらっておりますわ…
でも、これはヒントがあったところで簡単におわす話ではなさそうです。


「アカデミーが終わりましたら、城下町まで行ってお話し聞かなければいけませんの。
しかも、何年も前に終わった事件の聞き込みだなんて、しづらくて…」


リリー様はそういうと、再び落ち込んでしまいました。

なるほど、難易度とはこういうことでしたのね。
事件自体の謎が難しいかどうかというよりは、聞き込みの難しさだわ。

私の事件の方はここ一年の間の話、アカデミーの生徒や先生にさえ話ができれば大体の事件はわかりますわ。
それに、事情を知っている方が多いですから、普通に対応すれば教えてくださいますわ。

しかし、リリー様だけはそうはいかない。
庶民や事件の起こった商店に、事情を話すわけにはいかないし、
受け取られ方によっては反感を買います。

聞き出すのにも、最新の注意を払わなければなりません。


「なるほど、確かに難易度が高いですわね。」

「ローズ様手伝ってくださいませんか?」

「図々しいですわね。」


情報交換だけならまだしも、お妃様を決めようという試験でお手伝いをライバルに願い出るだなんて…
大体そんな敵を助けるだなんて、甘い考えを持っていただきたくはありませんわ。

私は彼女にそっぽを向いてそれを答えといたしました。
しかしリリー様


「もちろん、タダでとは申しません。
私もローズ様の課題、お手伝いいたしますわ。」

「…」

「ですから、ローズ様の課題も教えてはいただけませんか?」


どうやらリリー様も結構深刻に悩まれている様子。

お互いに助け合う…ということであれば、まぁ悪いことではないかもしれませんし
候補同士の情報交換は禁止はされてない。


でも、一緒に解く理由とメリットがないわ。
リリー様には特があるでしょうけど。

それに、リリー様に自分の課題の情報をお伝えしてもいいものかどうか…
もうリリー様のは見てしまいましたし、これは公平性に欠けるかしら。

見せたら見せなきゃいけないものではありませんし、戦略をちゃんと考えるなら見せないほうがいいかもしれませんわ。


「リリー様、未来の国母がそのように簡単に他人んを頼ってはいけませんわ。
事件の内容を教え合うくらいはいいでしょうけれど、お手伝いをする義理がございません
第一あなた、私がお手伝いなんてすると本気でお思い?」


私は正直に気持ちをお伝えしました。
そんな冷たい言葉にリリー様はまたいつものように笑顔になると


「へへ…それが聞きたかっただけです。
なんならビンタの一つでもしていいのですよ?」


というのでした、全く呆れて物も言えませんわ。
私は近くに泊まる馬車を見つけ、これは幸とまでにリリー様に声をかけました。


「とにかくリリー様、あなたはご自身の作戦を立てられた方がいいですわ。
ほら、もうあなたの家の馬車が来ていてよ、早くお帰りなさい」

「あら…空気の読めない使用人ですわね。
それではローズ様、お心は痛みますが明日またお目にかかりましょう、ごきげんよう」


そう言って大人しくリリー様は馬車に向かって歩いて行かれて、それに乗り込むと帰っていかれました。
全く人さわがせな人ですわ。

その様子を見て、今度はリーブ様が私のところにやってまいりました。


「リーブ様も意地悪ですわね、離れたところで突っ立っていないで割り込んでくだされば宜しかったのに」

「楽しいお話のお邪魔をしてはいけませんわ。」


リーブ様は少し困り顔でにっこりと笑ってそういった。
まぁ、彼女の性格上、そういうのは苦手よね。


「ところで、リーブ様はいかがでした?」

「課題の方ですか?私はとあるお家のトラブルですわ」

「トラブル?」

「どうやら誰かが横領して使い込んだ使用人を探し出すのが課題ですわ。」


サラリと深刻な話をされるのね。
というか、その貴族には私たちの事情話してあるでしょうしリリー様よりは現場の調査がしやすいでしょうけど、
私よりは少し気を使いますわね…

なるほど、ちょうど中くらいの難しさだわ。
よく難易度調整できたわね、感心しますわ。


「自信はございまして?」

「いいえ、でもやるだけのことはしてみるつもりですわ」


そういうと、リーブ様は失礼します、とお辞儀をしてその場を離れました。
さて…ここからが本番ですわね。


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