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獲物は逃げれば逃げるほど欲しくなる1

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「ところで、カロルは大丈夫か?こんな時間にメイド二人と歩き回って……親が心配すると思うよ」

 俺がカロルから目を若干逸らしてから言った。

「……いつもなら、すごく心配されると思いますけど、ハルト様と一緒なら話は別ですわ!でも……」
「?」

 最初こそ勢いがあったが後ろに行くにつれて自信をなくすカロル。なので俺は続きを視線で促す。

「こんな夜中に家に帰るのはちょっと怖いかも……」

 彼女は視線を外し俺に横顔を見せている。さっきの余韻もあってか、頬はほんのり桜色に染まっており、目をうるうるさせて唇は震えている。

 ……
 
 この子は、俺に会いにきてくれた。あの時、俺がちゃんと最後まで寄り添っていたら、わざわざここまでくることはなかったと思う。

 きっと昨日のシエスタというメイド長に聞いて、俺の屋台にやってきたのだろう。けれど、今日はクエストの件があったから、屋台を出すことはできなかった。


『ずっと、あなたを探していました……』

 彼女が俺を発見した途端に俺に走ってきて発したセリフ。

 もうこれ以上、カロルを困らせるわけにはいかない。

 あの事件に関しては、俺も関係者と言えるだろう。

 だから、彼女をここに来させた責任は取ろう。

 そう考えながら、俺は切ない表情で遥か彼方を見つめる美しい少女に話をかけた。

「送ってやるよ。家まで」
「え?」
「歩いて1時間くらいはかかるとは思うけど、流石にカロルをこのまま帰すわけにはいかない。あの事件があったばかりだしな。だからカロルの家まで送る」

 後ろ髪をガシガシしながら言う俺に、カロルは目をはたと見開いて、問うてくる。

「ほ、本当にいいですの?ハルト様に迷惑をかけるわけには……」
「仕事は全部終わったから、今日は特にやることないんだ。あ、ご飯食べるくらいかな。イカ焼き落としちゃったから」
「そ、それでは……お言葉に甘えさせていただきますわ……本当にありがとうございます」
「いいよ。訓練受ける時は重い物を背負って数十キロも走ったから。別に大した距離でもないさ」
「訓練?」
「あ、ごめん。俺、元軍人だから、つい昔のこと話した。気にしないでくれ」

 そう。この美少女に俺が特殊部隊だった頃の話をしても別に面白くないだろう。だが、カロルは俺の予想を上回ることを口にする。

「私、ハルト様がどういう軍人さんだったのか、とても気になりますわ!よろしければ……」

 ぐううううううううう

 カロルのお腹から音が鳴った。

「きゃあ!!こ、これは……ううう……」

 カロルも俺と同じくお腹が空いたようだ。おそらく外で待っている二人のメイドもお腹が減っているのだろう。

 なので俺は

 ドヤ顔で、




「タコ焼き食べないか?」

「タコ?あき?」



X X X

「な、なんですの?これは!?こんなに美味しいものは、初めてですわ!」
「カロルお嬢様、口元が汚れております。いつもは気品あるお姿なのに……」
「それにしても、この食べ物は実に素晴らしいです。形は丸っこくてとても可愛いのに、外はパリッとそして中はふわりと……ん……アツ!」

 カロルとメイド二人は実に幸せそうな表情でタコ焼きを食している。俺が作った料理を美味しく食べてくれる。それだけでも何かが満たされるような気がする。

「口にあってよかった」
 
 そう言って俺もタコ焼きを貪り始める。

 母のアニエスさんと姉のアリスと比べたら髪が短くて幼さが残っているが、とても発育がよく、ストレートな子だ。

 もし、俺に妹がいれば、こんな感じなのだろか。
 
 まあ、こんな綺麗でかわいい女の子が妹なら、それはそれで大変な気がする。だけど、カロルの笑顔を見ていると、内心、助けて本当によかったと改めて思ってしまう。
 
 この応対室で聞こえるのは、女性3人の慎ましやかな咀嚼音と一人の健全な男の咀嚼音。

 まるでASMRのように聴き心地がよく、気がつくと俺たちはタコ焼きを完食した。

 4人で仲良くお冷やを飲んでから俺はカロルに言う。

「そろそろ行くか」
「はい!」
 
 カロルと俺は歩きながら、いろんな話をした。屋敷を襲った謎の集団のこととか、この国に関する情報とか、メディチ家のことなど。この数ある話題のうちもっとも記憶に残るものは二つ。

 アニエスさんの夫が3人を守って死んだこと、そしてさっきも話したがカロルを含むメディチ家の3美女が俺に恩返しがしたいこと。

 恩返しに関しては別に気にしなくてもいいのにと返したけど、カロルは頑固だった。

 それにしても馬車とかは持ってきてないのかな?

 まあ、そんなこんなで小一時間ほど歩くと、見たことのある風景が広がる。あの事件が起きたメディチ家の邸宅だ。

 門番らしき人が俺たちの姿を見るや否や、小首を傾げた。だが、すぐに状況を察してくれたみたいで、いそいそと門を開けてくれた。

 そして、ゴージャスな城のような建物の中に繋がるドアの前に立った俺たち。すると、ずっと行動を共にしたメイド二人がすすっと中に入った。一緒に入ればいいのに、なぜ、先に入っちゃうのと心の中で問いかけてみたが、まあ、色々あるだろう。取り残されたカロルと俺。もうすぐ誰かが迎えにきてくれるはずだ。お別れの時が近づいてきている。

 そう心の準備をしていると、ドアが開かれた。
 
 動きやすいドレスに身を包んだ二人。青いドレスのアリスに、ベージュ色のドレスのアニエスさん。

 二人にあの時のような恐怖に怯える色は見えない。けど、俺の顔を見て、二人は口を半開きにしたまま青色とエメラルド色の目を潤ませた。

「あなたが、ハルトさま……」
 
 アニエスさんは体に電気でも入っているのか、全身をブルブルさせて俺に言った。表情は切なく、声は震えている。

 流石にこんな反応をされると、俺とてはぐらかすことなどできない。

 なので、俺は彼女のエメラルド色の綺麗な瞳を捉えつつ返事をする。

「ご無事で何よりです」

 俺が頬を緩めると、アニエスさんは



「本当に……本当に……」
「?」

 軽い足取りで俺の方にやってきては、
 


 抱きしめてくれた。
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